第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ワークショップ

[WS3] 蛋白質科学会アーカイブWS:蛋白質を多角的に捉えるNMR新技術

2021年6月16日(水) 18:00 〜 20:30 チャンネル3

オーガナイザー:森本 大智(京都大学)、松田 知己(大阪大学)

18:51 〜 19:15

[WS3-03] 生体系メソスケール構造研究に向けた動的核偏極(DNP)・固体NMR法―装置と方法論の開発

松木 陽 (阪大・蛋白研)

マジック角試料回転(MAS) NMR法は膜蛋白質やアミロイド線維など不溶性・非晶性分子の立体構造を例えば細胞内で直接解析できる潜在能力があり、構造生物学の新発展を牽引できる手法であるが、その低い信号検出感度が長らく最重要課題の一つとなってきた。動的核分極(DNP)法は、電子スピンの高い分極を核スピンに移すことでNMRの感度を向上する発展途上の技術で、中程度の磁場強度(例えば9.4 T、1H周波数で400 MHz)、液体窒素を用いて得られる100 K程度の比較的マイルドな低温条件では、主に化学、材料科学の分野で利用され始めた。一方、蛋白質のような多信号系の分離観測に重要なより高磁場の条件(≫10 T)ではDNP効率が著しく低下する問題があった。ここに我々は、ヘリウムを試料の回転と冷却に用いる「極低温MAS-DNP法」を開拓、高磁場条件(16.4 T, 700 MHz)でも1000倍をこえる感度利得が得られることを初めて示した。また希少なヘリウムを消費せずに極低温(20 K)MASを長期安定に実現できる「完全閉回路」DNPプローブを開発、高磁場でもDNP効率を維持しつつ、複雑な分子系の多次元分解DNP測定を可能にした。感度向上のみならず、高分極核スピン特有の「高温近似の破れ」を積極的に利用して、メソスケール空間選択的に高感度化する新技術も開発した。発表ではこれらの装置と新技術、その応用について、最新の成果を紹介する。