第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ワークショップ

[WS3] 蛋白質科学会アーカイブWS:蛋白質を多角的に捉えるNMR新技術

2021年6月16日(水) 18:00 〜 20:30 チャンネル3

オーガナイザー:森本 大智(京都大学)、松田 知己(大阪大学)

20:03 〜 20:27

[WS3-06] 複数の異なるNMRデータの統合解析によるタンパク質multi-state立体構造解析

池谷 鉄兵, 伊藤 隆 (都立大・理・化学)

マルチドメイン蛋白質(MDP)や天然変性蛋白質(IDP)など、高い運動性を持つ蛋白質の動態と多様な機能に一層の注目が集まっている。これらの蛋白質は、近年特に関心の高まっている液液相分離(LLPS)においても主導的役割を担うことが知られるようなった。しかしながら、こうした高自由度の蛋白質は,結晶化が難しく、また周辺環境にも敏感なため、構造・運動性の詳細な解析には、それらが本来機能している環境に近い条件下での計測が求められる。NMR法は、生理的条件に近い環境においても、系に摂動を与えることなく、分子の立体構造や運動性の情報を得ることができる。NMRデータには、溶液中の分子のアンサンブル平均の情報を含むことから、NMR計測法の改良と、複数状態の構造や存在確率分布を規定したモデル化により、MDPやIDPのような高い運動性を持つ試料においても、その自然の振る舞いを可視化できる。さらに近年、常磁性効果や磁気異方性効果を利用することで、従来よりもはるかに遠距離の空間情報が得られる測定法も確立され、高い運動性を持つ蛋白質でも構造解析に十分な空間距離データを得られるようになった。最近我々は、これらのデータを統合解析し、複数構造を仮定したmulti-state蛋白質立体構造計算法を開発した。本発表では、この手法をIDPやMDPに適用した例を紹介し、NMRを用いた蛋白質構造解析法の有効性と今後の可能性について議論する。