日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

S02P

2019年9月16日(月) 17:15 〜 18:45 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:15 〜 18:45

[S02P-03] 水晶振動子を用いた加速度計の特性に関する基礎的検討(その2)

松田 滋夫2、中仙道 和之3、*盛川 仁1、飯山 かほり1 (1. 東京工業大学、2. クローバテック(株)、3. セイコーエプソン(株))

1. はじめに

 振り子の振動を直接測定するのではなく,弦重力計のように重力加速度の違いによって振動子の固有周波数が変化することを利用して,弦の振動の周波数の変化を測定することで加速度を得ることも可能である(たとえば,小泉1983)。このような固有振動数の変化を測定する方法では,振動子の固有周波数が測定対象とする振動の振動数帯域に比較して十分に高ければ,高い分解能で加速度の変化を測定できるものと期待される。
 著者らはこれまでに,このような原理によって加速度を測定する加速度計として水晶振動子を用いた超小型センサーの性能評価を行い,有感地震から無感の微小な地震動に至るまで精度よく測定可能であることを確認している。その一方で,微動レベルの測定を行うにはノイズレベルが高く精確な測定が難しい事も明らかになっている(松田ほか,2014)。
 上記の問題に対して,従来の水晶振動子センサーに比してノイズレベルを大幅に低減した水晶振動子センサーが新たにリリースされるため,改めてその性能評価を行った。また,デジタルデータを直接出力するため,データロガー側にAD 変換器を必要としないセンサーの特徴を活かしたデータロガーを開発し,センサーだけでなくデータロガーまで含めたオーバーオールでの基本性能を評価した。

2. 水晶振動子による加速度センサーのためのデータロガー

 水晶振動子センサーの動作原理および仕様については,松田ほか(2014, 2018) に詳しいが,このセンサーは内蔵されたMPU (micro-controller)によって水晶振動子の固有振動数をカウントする周波数カウンタの出力をデジタル領域で処理したうえで,振動子とは別の水晶振動子を用いたクロックに同期して信号を出力する。また,外部からのクロック信号に同期することも可能であるため,外部にGPSやOCXO (オーブンコントロール水晶振動子)等の高精度なクロックを実装してこれに同期して信号を出力させることもできる。これは,信号の高度な同時性を必要とするアレー観測などには有効な機能である。
 センサーを構成する水晶振動子は非常に微細な構造によって支持されており,振動子につながった錘がうけた加速度の変化を固有振動数の変化に変換するシステムである。水晶そのものが衝撃に弱いだけでなく,システム全体もその微細な構造ゆえに壊れやすいという欠点を有している。従来の水晶振動子センサー(以下,A351)に比べて耐衝撃性を高め,またノイズレベルを低減してS/N 比を向上させた新型センサー(以下,A352)が計画されている。A351では測定が困難であった微動レベルの震動をA352では精度よく測定できることが期待される。
 また,水晶振動子はMPUによってデジタル処理された信号をデジタルのまま出力するため,記録装置側にAD変換器を必要としない。電圧変化をAD変換して記録する従来のデータロガーではなく,直接デジタル信号を受けて記録するシステムが必要となる。これは,一般的なPCでも容易に信号を記録できるという手軽さの反面,異なるクロックがセンサーとロガーで別々に走っていることにより,信号の記録時刻を厳密に管理しなくてはならない地震観測やアレー観測に用いるためにはセンサーかロガーのクロックの一方を他方に同期させる仕組みが必要となる。
 そこで,水晶振動子センサーが外部クロックに同期できることを利用して新たにデータロガー を開発した。すなわち,センサーからの信号の出力のタイミングをデータロガーに搭載したク ロックに同期させることで信号の高度な同時性を確保しようとするものである。データロガーの クロックはGPS またはネットワーク上のNTP サーバーに同期させる。GPS 信号の受信時は GPS 受信機が出力する1PPS に同期させることで高い精度でクロックを走らせることができる ものの,NTPサーバーを用いる場合は参照すべき高精度な信号が必ずしも存在しないため,安 定してクロックを供給できるようOCXO を実装できるよう配慮している。

3. 観測

 新たに開発したデータロガーに水晶振動子を用いた新旧2 種類の加速度センサー(A351, A352)を接続してそれらの基本的な性能を確かめるための簡単な観測を行った。特に微動レベルの信号がどの程度正しく記録されるかを,高感度のフィードバック型加速度計(Nanometric 社製 Titan)との比較によって調べた。工学的基盤相当の地盤に埋設された静穏で自動車等の人工的な外来震動の影響が非常に少ないトンネル内にセンサーを設置して連続観測を実施した。
 A351とA352の記録は異なる日時に得られているため直接の比較は難しいが,それぞれのフーリエスペクトルをTitanによるそれと共に図1に示す。いずれも,1時間分の微動記録から163.5秒の区間を複数切り出してフーリエ変換してその平均をとったものである。図1より 5/21の微動のスペクトルのほうが6/23のそれよりも長周期側でレベルが高いことがわかる。それにもかかわらずA351によって得られたスペクトルは0.5 Hz付近や1~2 HzにおいてTitanに比べて大きくなっており,Titanの記録に見られるスペクトルの谷部分を正しく表現していない。一方,A352によって得られたスペクトルは,A351と同様の傾向はあるものの,微動のレベルそのものが低いにもかかわらず,A351よりもより低い振幅レベルまでTitanの記録とよく整合している。A351とA352のスペクトルの1/fノイズに相当すると考えられるレベルは定性的には後者は前者のおよそ半分程度であるように見える。

参考文献
小泉(1983),弦重力計の安定性について,測地学会誌,Vol.29, No.2, pp.94-100.
松田ほか(2014),水晶振動子を用いた加速度計の特性に関する基礎的検討,日本地震学会 2014年秋季大会予稿集, S02-P06.
松田ほか(2018),水晶振動子による加速度センサーの感度特性に関する一検討,土木学会論文集A1特集号,Vol.74, No.4, pp.I_302-I_312.