17:15 〜 18:45
[S02P-09] 地震波形の振幅の確率密度関数を用いたP波・S波到着時刻の読み取りのための最適な階級数の検討
◆ はじめに
著者らは、地震波形の振幅の統計分布に基づいて地震波形中の直達P波、直達S波の到達時刻を検出する新たな方法を提案している。提案手法では、地震波形中の各部の振幅の統計分布(確率密度関数)と、コーダ波などのランダム性の高い波の振幅分布であるRayleigh分布やGauss分布の確率密度関数との違いの大きさを計算することにより、P波およびS波の到達時刻を求める。
本来、データの確率密度関数を求めるには、クロスバリデーションにより誤差を最小化するようなガウスカーネルを求め、これを用いてデータを平滑化するなどの作業が必要となる。しかしながら、提案手法では、各時刻において確率密度関数を求める必要があるため、確率密度関数を高速に計算する必要がある。そこで本研究では、度数分布(ヒストグラム)を用いて確率密度関数を近似することとした。
度数分布で確率密度関数を近似する際には、あらかじめ階級数を決めておく必要があるが、この階級数によって得られる確率密度関数の形状は変化する。これは、階級数の設定によって提案手法のP波及びS波の到着時刻の読み取り誤差が変化することを意味する。このため、本研究では読み取り誤差を最小化するための最適な階級数の設定方法について検討を行った。
◆ 手法の概略
近地地震の観測地震波形は、震源から観測点まで最短距離を伝搬して到達する直達波が初めに現れ、続いて、屈折波、反射波、散乱波といった波が現れる。つまり、直達波が到達してからの時間が長くなるにつれて、地震波は、直達波から、様々な場所で反射、屈折、散乱等を繰り返し、直達波よりも長い距離を伝搬した波の集合体に変わっていく。これに伴い、地震波の振幅が従う統計分布も変化することとなる。
ランダム位相を持つ波の集合のrmsエンベロープの振幅分布はRayleigh分布に従い(例えば、Wallace, 1953、Levanon, 1988)、コーダ波のエンベロープの統計的性質とRayleigh分布の関係についてはTakahara and Yomogida (1992)に理論的に詳細な説明がなされている。一方で、地震波形の後半部分は、さまざまな場所で散乱された波が足しあわされてできた、加法的に生成された波であることから、その振幅分布は中心極限定理からGauss分布に近くなる。このことから、時間の経過に伴う、地震波形振幅の確率密度関数とRayleigh分布あるいはGauss分布との類似度の変化を調べることにより、直達P波、直達S波を検出することができる。
提案手法では、地震波形振幅の確率密度関数とRayleigh分布あるいはGauss分布との類似度は、Kullback-Leiblerダイバージェンス:KLD (Kullback and Leibler, 1951)により計算する。KLDの確率密度関数についての非対称性を修正したJensen-Shannonダイバージェンスも用いることができるが、得られる結果が両者で殆ど変わらないため、KLDを用いる。
◆ 検討内容
本研究では、P波およびS波の読み取り誤差が最小化となるような階級数を行うための方法として、統計学においてしばしば用いられている、度数分布を求める際の階級数の決め方を検討した。具体的には、①Square-root choice, ②Sturges' formula, ③Scott's choice, ④ Freedman–Diaconis' choiceの適用性を検討した。①、②はサンプル数に応じて階級数を決めるもので、サンプル数が同じであれば、データの分布には関係なく階級数は同じになる。③、④はデータに応じて階級数を適応的に定めるものであり、サンプル数が同じでも、データの分布の標準偏差や四分位範囲により階級数は変化する。
本研究では、①~④の指標を用いて計算した確率密度関数を用いてP波、S波の読み取りを行い、それらを気象庁から公開されている検測情報と比較することで読み取り誤差を求めることにより、読み取り誤差を最小化する指標を調べた。
◆ データ
2017年熊本地震の余震の近地強震波形記録を用いた。強震波形記録は、一回積分して速度波形記録とした。P波、S波の到着時刻の読み取りを行う際には、各種のフィルターを掛けることがあるが、本研究ではフィルターは使用していない。
◆ 発表予定
発表ではここに示していない提案手法の詳細を示すとともに、今回行った検討の結果を紹介する予定である。
◆ 謝辞
本研究では、防災科学技術研究所のK-NET、KiK-net観測点の強震波形記録を使用させて頂きました。また、P波、S波の読み取り誤差の計算には、気象庁による検測情報を使用させて頂きました。記して御礼を申し上げます。
著者らは、地震波形の振幅の統計分布に基づいて地震波形中の直達P波、直達S波の到達時刻を検出する新たな方法を提案している。提案手法では、地震波形中の各部の振幅の統計分布(確率密度関数)と、コーダ波などのランダム性の高い波の振幅分布であるRayleigh分布やGauss分布の確率密度関数との違いの大きさを計算することにより、P波およびS波の到達時刻を求める。
本来、データの確率密度関数を求めるには、クロスバリデーションにより誤差を最小化するようなガウスカーネルを求め、これを用いてデータを平滑化するなどの作業が必要となる。しかしながら、提案手法では、各時刻において確率密度関数を求める必要があるため、確率密度関数を高速に計算する必要がある。そこで本研究では、度数分布(ヒストグラム)を用いて確率密度関数を近似することとした。
度数分布で確率密度関数を近似する際には、あらかじめ階級数を決めておく必要があるが、この階級数によって得られる確率密度関数の形状は変化する。これは、階級数の設定によって提案手法のP波及びS波の到着時刻の読み取り誤差が変化することを意味する。このため、本研究では読み取り誤差を最小化するための最適な階級数の設定方法について検討を行った。
◆ 手法の概略
近地地震の観測地震波形は、震源から観測点まで最短距離を伝搬して到達する直達波が初めに現れ、続いて、屈折波、反射波、散乱波といった波が現れる。つまり、直達波が到達してからの時間が長くなるにつれて、地震波は、直達波から、様々な場所で反射、屈折、散乱等を繰り返し、直達波よりも長い距離を伝搬した波の集合体に変わっていく。これに伴い、地震波の振幅が従う統計分布も変化することとなる。
ランダム位相を持つ波の集合のrmsエンベロープの振幅分布はRayleigh分布に従い(例えば、Wallace, 1953、Levanon, 1988)、コーダ波のエンベロープの統計的性質とRayleigh分布の関係についてはTakahara and Yomogida (1992)に理論的に詳細な説明がなされている。一方で、地震波形の後半部分は、さまざまな場所で散乱された波が足しあわされてできた、加法的に生成された波であることから、その振幅分布は中心極限定理からGauss分布に近くなる。このことから、時間の経過に伴う、地震波形振幅の確率密度関数とRayleigh分布あるいはGauss分布との類似度の変化を調べることにより、直達P波、直達S波を検出することができる。
提案手法では、地震波形振幅の確率密度関数とRayleigh分布あるいはGauss分布との類似度は、Kullback-Leiblerダイバージェンス:KLD (Kullback and Leibler, 1951)により計算する。KLDの確率密度関数についての非対称性を修正したJensen-Shannonダイバージェンスも用いることができるが、得られる結果が両者で殆ど変わらないため、KLDを用いる。
◆ 検討内容
本研究では、P波およびS波の読み取り誤差が最小化となるような階級数を行うための方法として、統計学においてしばしば用いられている、度数分布を求める際の階級数の決め方を検討した。具体的には、①Square-root choice, ②Sturges' formula, ③Scott's choice, ④ Freedman–Diaconis' choiceの適用性を検討した。①、②はサンプル数に応じて階級数を決めるもので、サンプル数が同じであれば、データの分布には関係なく階級数は同じになる。③、④はデータに応じて階級数を適応的に定めるものであり、サンプル数が同じでも、データの分布の標準偏差や四分位範囲により階級数は変化する。
本研究では、①~④の指標を用いて計算した確率密度関数を用いてP波、S波の読み取りを行い、それらを気象庁から公開されている検測情報と比較することで読み取り誤差を求めることにより、読み取り誤差を最小化する指標を調べた。
◆ データ
2017年熊本地震の余震の近地強震波形記録を用いた。強震波形記録は、一回積分して速度波形記録とした。P波、S波の到着時刻の読み取りを行う際には、各種のフィルターを掛けることがあるが、本研究ではフィルターは使用していない。
◆ 発表予定
発表ではここに示していない提案手法の詳細を示すとともに、今回行った検討の結果を紹介する予定である。
◆ 謝辞
本研究では、防災科学技術研究所のK-NET、KiK-net観測点の強震波形記録を使用させて頂きました。また、P波、S波の読み取り誤差の計算には、気象庁による検測情報を使用させて頂きました。記して御礼を申し上げます。