日本地震学会2019年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08]AM-2

2019年9月17日(火) 10:45 〜 12:00 A会場 (百周年記念ホール)

座長:安藤 亮輔(東京大学)、野田 朱美(防災科学技術研究所)

10:45 〜 11:00

[S08-01] GNSSデータを用いたアンサンブルカルマンフィルタによる豊後水道長期的SSEのすべり発展推定に向けた数値実験

*藤田 萌実1、西村 卓也2、平原 和朗3,4、兵藤 守5、宮崎 真一1 (1. 京都大学理学研究科、2. 京都大学防災研究所、3. 香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構、4. 理化学研究所、5. 海洋研究開発機構)

長期的スロースリップイベント(L-SSE)は海溝型巨大地震発生域深部のプレート境界面で発生する応力解放過程であると同時に、隣接する巨大地震発生領域への応力擾乱を与える過程でもある。L-SSEの活動が海溝型巨大地震の発生前に変化、もしくは直接的に海溝型巨大地震をトリガーする可能性が示唆されている。したがってL-SSEのすべりの時空間発展の推定及びその予測は、海溝型巨大地震発生域での応力蓄積過程を定量的に評価する上で重要な課題である。

Hirahara and Nishikiori (2018, JpGU)では、豊後水道L-SSEを想定して、逐次データ同化手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)を人工の模擬GNSSデータに適用し、L-SSE発生域でのすべり発展と摩擦パラメータを推定する数値実験を行い、手法の有効性を示した。その発展として本研究では、実際のGNSS観測データにEnKFを適用し、豊後水道L-SSE発生域におけるすべり発展の推定を目指す。本研究においては、従来の平面断層のモデルにフィリピン海プレートの三次元形状を導入したより実際の豊後水道長期的SSEに近いモデルを用いて同化実験を行った。

フィリピン海プレートの境界面上に図1のように解析領域を設定し、12000個の三角形小断層セルに分割した。各小断層セルでの単位すべりによる応力変化はCominou and Dundurs (1975)により計算した。断層面上の摩擦力は速度状態依存摩擦則に従うとし、状態変数の時間発展にはスローネス則を用いた[Dieterich,1979; Ruina,1983]。速度強化(A-B>0)の断層面に半径R=35kmの円形の速度弱化(A-B<0)パッチを設定した。本研究では臨界サイズRc [Rubin and Ampuero (2005), Chen and Lapusta (2009)]に対してR/Rc<1の条件を満たすような摩擦パラメータを設定し豊後水道L-SSEを再現した。この時摩擦パラメータA, Lは断層面上で一様とし、Bについてはパッチ内外でそれぞれ一定とした。また、SSE領域の浅部に固着域(全7855セル)を設定し,深さ5~10 km (固着域Ⅰ), 10~25 km (固着域Ⅱ) ,25-30 km(固着域Ⅲ)のそれぞれで固着速度を一定とした。このモデルから得られるすべり発展を真の状態とし、そこから計算される地表のGNSS観測点における変位速度に観測誤差を加えたものを模擬観測データとした。模擬観測データに対してEnKFを適用し、各小断層セルのすべり速度、状態変数及び、断層面での摩擦パラメータA, L、SSEパッチ内のB-A,固着域のすべり欠損速度を推定し、真値と比較した。なお、固着域におけるすべり速度の時間発展は考慮せず、時間発展はそれ以外のセルについてのみ計算した。またこの時、摩擦パラメータ及び固着域Ⅲの初期アンサンブルとしては、パラメータ空間からL-SSEを発生させるメンバーのみを選んで初期アンサンブルを生成した。固着域Ⅰ及びⅡのすべり欠損速度は真値の周りに10%の振幅で分布する初期アンサンブルを生成した。地表のGNSS観測点としてはGEONETの92観測点を使用し、同化間隔は5日とした。

結果として、複数回のL-SSEを経て真値への収束が見られ、プレート形状を入れたモデルの場合でもEnKFの有効性を確認することができた。本研究では観測データとしてはGNSS観測点における地表変位速度を使用していたが、実際のGNSS観測データは地表変位である。したがって今後実データを適用していくにあたり、地表変位から地表変位速度を得る、もしくは地表変位をそのまま観測データとして使用するという2通りの方法が考えられる。以前の平面断層モデルにおいては既にそれぞれの方法について開発が進んでおり[Fujita et al., 2019 JpGU]、今回導入したモデルにおいても同様の検証が必要である。また現在はSSEパッチ内で摩擦パラメータは一様としているが、より複雑なモデルの設定や実際のGNSS観測データの丁寧な補正が今後の課題として挙げられる。