11:15 〜 11:30
[S09-07] 海洋リソスフェア内地震のb値の歪速度依存性:低歪速度下における応力不均質の進行の可能性
1. 導入
沈み込む遥か手前の安定した海洋リソスフェア内において、低頻度にプレート内地震(海洋リソスフェア内地震)が発生している。海洋リソスフェア内地震は、主に海洋リソスフェアの冷却に伴って生じる熱応力によって生じており、その発生レートは冷却速度が遅くなる事に対応して海底年代と共に減少する事が分かっている[e.g., Kreemer and Gordon, 2014, Geology]。
本研究では、海洋リソスフェア内地震のb値を調べ、b値が海底年代と強い正の相関を示す事を明らかにした。さらにそれはb値の歪速度に対する負の依存性に起因する事を明らかにした[Sasajima and Ito, 2016, JGR]。本発表では、その結果の紹介と、b値の歪速度依存性の原因の考察を行う。
2. 結果
海洋リソスフェア内地震のb値を海底年代毎に調べた結果、若い年代(2–15 Ma)でb = 1.06±0.1から古い年代(23-166 Ma)でb = 1.79±0.2に至るまで海底年代と共に増加し、b値と海底年代との間に強い正の相関がある事が明らかになった。
次に、なぜb値が海底年代に依存するのかを調べた。まず、海洋リソスフェア内の差応力は年代と共に増加するため、b値の差応力に対する負の依存性[e.g., Scholz, 2015, GRL]ではこの現象は説明できない。残された可能性として、温度構造もしくは歪速度(海底年代と共に減少する)に対する依存性が挙げられる。そこで、ヒマラヤの衝突に起因して海底年代が古いにもかかわらず歪速度が異常に速いインド-オーストラリアプレート内変形域における海洋リソスフェア内地震のb値を調べた所、b = 0.93±0.1(年代50–110 Ma)という値が得られた。これは同年代の海洋リソスフェア内地震のb値(1.94±0.3, 30–166 Ma)より有意に小さく、最も若い海底での海洋リソスフェア内地震のb値よりもやや小さい値である。このことから、海洋リソスフェア内地震のb値の海底年代依存性は、b値の歪速度(=応力蓄積速度)に対する負の依存性に起因する事が分かった(図)。
3. 考察
地震のb値が差応力の大きさと負の相関をするという研究は多くあるが[e.g., Scholz, 2015, GRL]、歪速度依存性はこれまでに報告の無い新しい現象の発見である。海洋リソスフェア内の(弾性)歪速度は、<20 Maで10-10/year (10-18/s)のオーダー、>20 Maで10-11/year (10-19/s)のオーダー、と非常に遅い。他の通常の地震活動域からはb値の歪速度依存性が見つかっていない事も踏まえると、b値の歪速度依存性は非常に低歪速度の環境下にのみ見られる現象である可能性が示唆される。
次に、なぜ低歪速度下において歪速度の減少と共にb値が大きくなる現象が生じるのか?そのメカニズムについて、以下の仮説を提唱する。低温である地震発生層においても、融解-析出クリープといった粘性的応力緩和メカニズムが存在する。そこで融解-析出クリープが間隙水の流路等でローカルに非常にゆっくりと応力を緩和している状況を考える。その場合、歪速度(応力蓄積速度)が速い場合はその緩和速度は全く追いつかないが、応力蓄積速度が凄く遅くなると、ローカルな応力緩和速度が徐々に勝るようになり、その結果応力蓄積速度が遅くなると共に海洋リソスフェア内の応力不均質の度合いが強まっていく可能性が考えられる。応力が不均質であれば、地震はより大きな地震へと成長しにくくなり、結果として大きなb値が期待されるため、このメカニズムによってb値の歪速度に対する強い負の相関が生じている可能性を提唱する。
非常に低い歪速度下におけるb値の歪速度依存性という現象は、地震発生層や断層上で非常にゆっくりと進行する現象に対する貴重な情報を持っている可能性があり、そのメカニズムの解明は我々の地震発生や断層の物理の理解に重要な貢献をもたらす可能性がある。
4. まとめ
・海洋リソスフェア内地震のb値は海底年代と強い正の相関を示す事が明らかになった。
・それはb値が歪速度に対する負の依存性に起因する事が分かった。
・地震のb値の歪速度依存性はこれまでに報告の無い新しい現象の発見である。
・b値の歪速度依存性の原因の一仮説として、低歪速度下における応力不均質の進行に伴うb値の上昇を提唱する。
沈み込む遥か手前の安定した海洋リソスフェア内において、低頻度にプレート内地震(海洋リソスフェア内地震)が発生している。海洋リソスフェア内地震は、主に海洋リソスフェアの冷却に伴って生じる熱応力によって生じており、その発生レートは冷却速度が遅くなる事に対応して海底年代と共に減少する事が分かっている[e.g., Kreemer and Gordon, 2014, Geology]。
本研究では、海洋リソスフェア内地震のb値を調べ、b値が海底年代と強い正の相関を示す事を明らかにした。さらにそれはb値の歪速度に対する負の依存性に起因する事を明らかにした[Sasajima and Ito, 2016, JGR]。本発表では、その結果の紹介と、b値の歪速度依存性の原因の考察を行う。
2. 結果
海洋リソスフェア内地震のb値を海底年代毎に調べた結果、若い年代(2–15 Ma)でb = 1.06±0.1から古い年代(23-166 Ma)でb = 1.79±0.2に至るまで海底年代と共に増加し、b値と海底年代との間に強い正の相関がある事が明らかになった。
次に、なぜb値が海底年代に依存するのかを調べた。まず、海洋リソスフェア内の差応力は年代と共に増加するため、b値の差応力に対する負の依存性[e.g., Scholz, 2015, GRL]ではこの現象は説明できない。残された可能性として、温度構造もしくは歪速度(海底年代と共に減少する)に対する依存性が挙げられる。そこで、ヒマラヤの衝突に起因して海底年代が古いにもかかわらず歪速度が異常に速いインド-オーストラリアプレート内変形域における海洋リソスフェア内地震のb値を調べた所、b = 0.93±0.1(年代50–110 Ma)という値が得られた。これは同年代の海洋リソスフェア内地震のb値(1.94±0.3, 30–166 Ma)より有意に小さく、最も若い海底での海洋リソスフェア内地震のb値よりもやや小さい値である。このことから、海洋リソスフェア内地震のb値の海底年代依存性は、b値の歪速度(=応力蓄積速度)に対する負の依存性に起因する事が分かった(図)。
3. 考察
地震のb値が差応力の大きさと負の相関をするという研究は多くあるが[e.g., Scholz, 2015, GRL]、歪速度依存性はこれまでに報告の無い新しい現象の発見である。海洋リソスフェア内の(弾性)歪速度は、<20 Maで10-10/year (10-18/s)のオーダー、>20 Maで10-11/year (10-19/s)のオーダー、と非常に遅い。他の通常の地震活動域からはb値の歪速度依存性が見つかっていない事も踏まえると、b値の歪速度依存性は非常に低歪速度の環境下にのみ見られる現象である可能性が示唆される。
次に、なぜ低歪速度下において歪速度の減少と共にb値が大きくなる現象が生じるのか?そのメカニズムについて、以下の仮説を提唱する。低温である地震発生層においても、融解-析出クリープといった粘性的応力緩和メカニズムが存在する。そこで融解-析出クリープが間隙水の流路等でローカルに非常にゆっくりと応力を緩和している状況を考える。その場合、歪速度(応力蓄積速度)が速い場合はその緩和速度は全く追いつかないが、応力蓄積速度が凄く遅くなると、ローカルな応力緩和速度が徐々に勝るようになり、その結果応力蓄積速度が遅くなると共に海洋リソスフェア内の応力不均質の度合いが強まっていく可能性が考えられる。応力が不均質であれば、地震はより大きな地震へと成長しにくくなり、結果として大きなb値が期待されるため、このメカニズムによってb値の歪速度に対する強い負の相関が生じている可能性を提唱する。
非常に低い歪速度下におけるb値の歪速度依存性という現象は、地震発生層や断層上で非常にゆっくりと進行する現象に対する貴重な情報を持っている可能性があり、そのメカニズムの解明は我々の地震発生や断層の物理の理解に重要な貢献をもたらす可能性がある。
4. まとめ
・海洋リソスフェア内地震のb値は海底年代と強い正の相関を示す事が明らかになった。
・それはb値が歪速度に対する負の依存性に起因する事が分かった。
・地震のb値の歪速度依存性はこれまでに報告の無い新しい現象の発見である。
・b値の歪速度依存性の原因の一仮説として、低歪速度下における応力不均質の進行に伴うb値の上昇を提唱する。