日本地震学会2019年度秋季大会

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D会場

特別セッション » S23. オープンデータと地震学

[S23]AM-2

2019年9月17日(火) 10:45 〜 12:15 D会場 (時計台国際交流ホールI)

座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、石川 直史(海上保安庁海洋情報部)

12:00 〜 12:15

[S23-09] 「スロー地震データベース」の取り組み

*松澤 孝紀1、加納 将行2、田中 優作3、麻生 尚文4、井出 哲3、小原 一成3 (1. 防災科学技術研究所、2. 東北大学、3. 東京大学、4. 東京工業大学)

科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「スロー地震学」ではカタログ班を設け,国内外で構築されているスロー地震のカタログを集約し,標準化されたフォーマットでのカタログを提供し,カタログの可視化機能も備えた英語版ウェブサイト”Slow Earthquake Database”(「スロー地震データベース」,
http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)を構築,運用している.本講演では,この取り組みについて紹介する.

〇スロー地震データベースの目指すもの
スロー地震はその時定数から,低周波地震・微動,超低周波地震,スロースリップイベント(SSE)に分類されるが,同規模の通常の地震に比べて時定数の長いゆっくりとした断層すべり現象としての統合的な見方も重要である.Obara (2002)による深部低周波微動の発見を端緒として,国内外の研究者により種々のスロー地震のイベントカタログが得られている.これらのカタログを利用するには,論文やリポジトリ,公開ページ等にアクセスしてデータを取得し,フォーマット変換を行うといった作業が各々の研究者に必要となる.こうした労力は,スロー地震カタログを利用した研究や議論の敷居を高める要因となる.
スロー地震データベースは,研究者が利用しやすい形でのカタログの集約と標準化,簡易な可視化機能を提供することにより,国際的にスロー地震に関連した研究を盛り立て,より広い分野へスロー地震研究の成果が浸透することを目指し公開された.さらにこうした活動を通じて、世界の同研究コミュニティーを牽引する中核的な役割を担うことも目指している.

〇スロー地震データベースの公開・運用
ウェブサイトの構築に先立ち,「スロー地震学」は,スロー地震の解析をしている国内の研究者に対し,プロジェクトに関わらず広く呼びかけて2回の研究集会を開催するとともに,情報交換・議論用のメーリングリストを作成した.こうしたコミュニティーにおいて,スロー地震データベースのあり方やフォーマットの標準化に関する議論を行った.
これを基に「スロー地震データベース」は2017年12月に公開された.本データベースの “Map+DL”ページからは,ユーザーが指定した期間・場所・種類のスロー地震の発生状況を時間・カタログ・発生深度別に色分けして地図上に表示したり,標準化されたフォーマット(あるいはユーザー指定のフォーマット)でカタログをダウンロードしたりすることが可能である.カタログ提供者が了承した場合には,“Originals”ページにて元データも提供される.これらのカタログは利用規約のもと,論文等で利用することが可能である.公開当初のカタログ数は29であったが,2019年7月現在では46まで増えている.なお本データベースは,世界的な位置づけを狙うとともに,原論文を理解できる研究者向けであるため,ページ作成や運用の労力を軽減する観点から,英語ページのみとしている.
本データベースについては,Seismological Research Letters 誌のData Mineに投稿し,論文として出版されており(Kano, Aso, et al., 2018),カタログ利用の際には,カタログ提供者の指定した論文および上記論文の引用が求められる.本論文は,2019年7月現在,少なくとも7編の査読付き論文に引用されている.
本データベースの利用規約は,全カタログに関する“General Policy”と個々のカタログに関する“Individual Policy”の二つからなる.“General Policy”では,前述の論文の引用の他,“Individual Policy”の順守,自己責任での利用,データ更新の可能性,プロジェクトへの謝辞,商用利用の不可,再配布の不可について規定している.

〇おわりに
本データベースが広く活用されるためには,長期の安定した運用が重要である.本データベースは,「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の課題の一部に位置付けられており,科研費課題の終了後もデータベースとして継続できる見込みであるが,運用に係る人件費等の大幅減に対応するため,作業の省力化を現在進めている.ただし,フォーマットの標準化においては,SSEの時空間すべり発展など,課題が残っている.ウェブサイトについても,表示数が増えた場合の操作性などの既存の課題とともに,随時の問題対応が必要である.こうしたことから,現科研費課題のような大きな研究計画への申請も検討していく予定である.
スロー地震データベースは,論文等の成果によるカタログのオリジナルの公開場所としての,単なるレポジトリを目指すものではない.研究者のコミュニティーに根差し,フォーマットの標準化や可視化機能の提供などを通じて,様々なカタログの横断的な利用を国内外で促進することに,大きな意義があると考えている.