日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

S15P

2020年10月30日(金) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S15P-01] 全国を対象とした地震による経済被害予測システムの試作

〇中村 洋光1、藤原 広行1、髙橋 郁夫1、石丸 晴海2、清水 智3、山﨑 雅人4 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.三菱スペース・ソフトウエア株式会社、3.応用アール・エム・エス株式会社、4.名古屋大学)

総合科学技術・イノベーション会議が進めている戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の一環として、防災科学技術研究所では巨大地震発生後の経済早期復旧支援を目的とする全国を対象とした経済被害予測システムの開発を進めている。このシステムは、全国を対象とした民間企業資本ストックモデルや、その資本ストックに対しハザードが与える影響の度合いを評価する手法、さらにその影響が地域や産業を超えて経済全体に波及する効果を適切に考慮した経済モデルを組み込むことによって実現する。具体的には試算した多数の経済被害シミュレーション結果や被害シナリオをデータベース化し、シナリオごとに経済被害を概観できる可視化システムを構築し、利用者による事前対策の効果算定や、地域や企業等のBCP・訓練の効果的な検討を支援可能にする。さらに、広域経済早期復旧支援のため、リアルタイム地震被害推定システム(J-RISQ)からの被害に関する推定情報を取り込み、地震発生後の広域での経済被害のモニタリングを目指す。ここでは、主に地震動や津波による経済の直接被害額に着目し、曝露モデルとしての産業別民間企業資本ストックモデルや、それぞれのハザードによる資本ストックの物的毀損に関する被害関数、それらを取り入れ試作した地震動を対象とするリアルタイムシステムについて述べる。

経済被害予測の対象とする産業別民間企業資本ストックのデータについては、公表されているものとしては都道府県単位であり、地震動や津波のハザード情報を十分に反映した空間解像度を有していない。そこで、それぞれのハザードの空間解像度に適応したメッシュ単位の産業別民間企業資本ストックモデルを構築した。具体的には、内閣府が公表する民間企業資本ストックの全国値データ等から、各年の新設投資額、除却額等を推定しながら都道府県別民間資本ストックを推計した上で、統計データや土地利用メッシュ等を基に空間分解能を細分化し、メッシュ単位の32産業別民間資本ストックモデルを構築した。構築したモデルは、内陸部は250mメッシュサイズ、沿岸部は50mメッシュサイズの空間分解能を持っており(全国で約5900万メッシュ)、地震動や津波浸水深のハザード情報を適切に反映した経済被害予測が可能となる。

地震動による資本ストックの物的毀損を評価する被害関数は、既往研究を参考に関数形状を正規分布の累積分布関数に固定し、過去の被害地震の推定震度分布と前述の曝露モデルに適用して得られる産業別被害額が実被害額に最も近い累積分布関数のパラメータの組み合わせを各産業の被害関数とした。また、津波に関しては、東北地方太平洋沖地震の浸水深と被害データから産業別の被害関数を構築した。

これまでに述べた資本ストックの曝露モデルや被害関数を実装した経済被害予測のプロトタイプシステムは、J-RISQから250mメッシュの推定震度分布を取得後、即時に直接的な経済被害予測を行う。具体的には資本ストックの毀損額および毀損率を、250mメッシュ、市区町村、都道府県単位で予測し、地図や表形式で表示することができる。また、Web APIを用いて予測結果を外部に提供する機能を実装している。構築したプロトタイプシステムは、稼働試験中である。なお、このプロトタイプシステムで扱う直接被害は民間企業資本ストックのみを対象としており、それ以外の民間住宅や公的固定資産等のストックは含んでいない。

最後に、経済被害については、ここで対象とした直接的な被害だけではなく、産業の関連性を考慮した間接的な被害の評価も経済早期復旧支援において重要であることから、今後は経済被害の波及を評価可能な経済モデルである多地域動学的応用一般均衡モデルをシステムに取り入れ、総合的に経済被害を評価できるシステムに高度化していきたいと考える。

謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」(管理法人:国立研究開発法人 防災科学技術研究所)によって実施された。