日本地震学会2020年度秋季大会

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一般セッション » S17. 津波

[S17]PM-1

2020年10月31日(土) 13:00 〜 14:15 A会場

座長:山中 悠資(東京大学)、座長:三反畑 修(防災科学技術研究所)

14:00 〜 14:15

[S17-10] New Zealand北方沖・Curtis島近海において繰り返した火山性津波地震の物理メカニズム

〇三反畑 修1,2、綿田 辰吾2、佐竹 健治2、金森 博雄3、Rivera Luis4、Zhan Zhongwen3 (1.防災科学技術研究所(現所属)、2.東京大学地震研究所、3.カリフォルニア工科大学、4.ストラスブール大学地球物理研究所)

(1) はじめに
New Zealand北方沖に位置する直径1km未満の離島火山・Curtis島近くの海底において、地震マグニチュード5–6級の非ダブルカップル成分に富むCMT解を持つ火山性地震(以降、「Curtis地震」と呼ぶ)が、2009年・2017年に発生し、地震規模から経験的に推定されるよりも大きな津波を引き起こした(最大40 cmの津波が観測)。これらの地震は、日本南方沖の鳥島近海の海底カルデラ火山において約10年間隔で繰り返す「火山性津波地震」と類似した特徴を持つ(Sandanbata et al., 2020a–b, JpGU)。Gusman et al. (2020, GRL)は、二つのCurtis地震に対して、地下1.5 km程度の津波励起源と深さ約10 kmの地震波励起源の二つのソースから成る震源モデルを提案している。本研究では、2017年のCurtis地震の津波および長周期地震波の観測記録を統一的に再現する運動学的震源モデルを構築することで、効率的に津波を引き起こす特異な地震発生の物理メカニズムの解明を目指した。

(2) 津波記録を用いた地震による初期海水面変動分布の推定
 まず、New Zealandの北島および離島の潮位計に記録された津波観測波形を用いて、地震によって発生した初期海水面変動分布を推定した。初期海水面変動のおおよその位置を推定するため、震源周辺に約10 km間隔に配置した9つの鉛直軸対称の海水面隆起波源モデルから予測される津波波形をJAGURS(Baba et al. 2015, PAGEOPH)を用いてそれぞれ計算した。その結果、Curtis島のごく近傍に与えた波源モデルが、観測記録の到達時間および波形を最も良く表した。

 次に、より詳細な初期海水面変動分布推定のため、Curtis島付近に多数の海水面上の小波源を仮定して計算した津波グリーン関数を用いて、津波波形インバージョンを行った。その結果、直径5–6km程度の楕円形領域に、最大振幅1m超の海水面隆起が推定された。隆起域直下の海底地形には、カルデラ火山の地形的特徴が見られ、この地震が海底カルデラ火山における現象であることが示唆された。

(3) 津波・長周期地震波記録に基づく運動学的震源モデルの構築
 続いて、地震による津波・長周期地震波の波形記録を用いて、運動学的震源モデルを構築した。ここでは、地震の物理メカニズムを、「カルデラ下に水平方向に薄く広がるマグマだまりに蓄積した高圧マグマが生成する応力場によって、カルデラ壁の一部分に沿った環状断層が破壊」という仮説を立てた。この物理メカニズムを、環状断層でのDip方向すべりと、地下約3kmに位置する水平クラック断層の開口/閉塞から成る、複合的断層すべり現象としてモデル化した。このとき、環状断層のDip角を可変の断層パラメータとして、複数の断層モデルを仮定した。

 仮定した複数の断層モデルに対して津波波形インバージョンを行い、それぞれの断層モデル上でのすべり分布を決定した。(2)の解析同様に潮位計記録を観測記録として用いた。また、断層構造を三角形メッシュで分割した多数の小断層すべりから予測される津波波形を計算し、津波グリーン関数として用いた。その結果、様々なDip角を持った複数の断層モデルで、環状断層における逆断層すべり(最大約4m)と、水平クラック断層の非対称的な開口(最大約4m)/閉塞(最大約2m)が推定され、観測記録を再現した。この結果は、物理メカニズムの仮説の妥当性を津波発生の観点から示した一方で、環状断層のDip角の特定は津波波形記録のみでは困難であった。

 そこで、地震波励起の観点からの物理メカニズムの妥当性の評価と、環状断層のDip角制約のため、複数の断層モデルでのすべり分布に対して、点震源仮定のもとで長周期地震波をフォワード計算した。各すべり分布のCMT解を点震源モデルとして与え、一次元速度構造に基づく地震波グリーン関数を用いて震央距離8–29°に位置する観測点における長周期地震波(周期:57–143秒)をフォワード計算し、IRISで入手した同観測点での観測記録と比較した。その結果、環状断層のDip角によって計算波形の振幅が敏感に変化する傾向が見られ、Dip角が70°程度の断層モデルにおけるすべり分布が観測記録を十分に再現し、他の断層モデルに比べて明瞭に計算波形と観測波形の一致度が高くなった。このことから、物理メカニズムの仮説の妥当性が地震波励起の観点から確認されたとともに、環状断層のDip角が70°程度と制約された。

(4) 議論・結論
 以上の結果から、2017年のCurtis地震の物理メカニズムとして、海底カルデラ火山地下直下に水平方向に薄く広がるマグマだまりに蓄積した高圧マグマによって環状断層破壊が発生する、"Trapdoor faulting(引き上げ戸状断層破壊)"を提案する。また2009年のCurtis地震についても、地震規模・津波波形・CMT解の類似性から、2017年地震との同様の現象が繰り返していることが示唆される。これらCurtis地震の物理メカニズムは、我々が先行研究において鳥島近海の火山性津波地震に対して提案したものと同等である(Sandanbata et al., 2020a–b, JpGU)。この二つの海底カルデラ火山での地震・津波現象にまたがる類似性は、"特異"な火山性津波地震が、海底カルデラ火山においてある条件下で発生しうる"普遍的"な現象であることを示唆している。