日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S18. 地震教育・地震学史

S18P

2020年10月31日(土) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S18P-01] 紀伊半島における土地傾斜観測のブロマイド記録のデジタルアーカイブの構築

〇加納 靖之1,2 (1.東京大学地震研究所、2.東京大学地震火山史料連携研究機構)

紀伊半島の2か所の観測点の土地傾斜の記録について,デジタルアーカイブを構築した.これらの観測は主として京都大学防災研究所によって実施されたものである.紀州観測点(三重県熊野市)と由良観測点(和歌山県日高郡由良町)では,1974年頃までは土地傾斜の観測記録にブロマイド紙(感光紙)が用いられていた.現在は,このブロマイド記録は京都大学阿武山観測所で保管されている.観測点ごとに,適当な観測期間ごとに束にまとめられている.これらのブロマイド記録を利用する際の利便性向上のため,順次記録を撮影し,デジタル画像を作成してきている.

 紀州観測点では1947年に水平振子型の傾斜計が設置された.1951年に異なる鉱区に移設されているが,これは現在の水管傾斜計の設置地点のごく近傍である.1974年までは横30 cm,縦8.5 cmのブロマイド紙に記録されている.紙送りの速度は時期によって変更されているが,1970年代には約0.2 cm/hに設定されていた.各ブロマイド紙の裏面には,記録番号,記録期間,振り子の固有周期,紙送り速度,期間中に発生した地震に関するメモが残されている.紀州観測点のブロマイド記録を用いて,スロースリップイベントの可能性がある傾斜変化について検討がなされた.

 今回のデジタルアーカイブ(「地殻変動ブロマイド記録」https://www.dheq.org/repo/s/bromide/)の構築には,Omeka(https://omeka.org/)を用いた.Omekaは,デジタルコレクションを共有するためのWeb上での出版プラットフォームで,多くの博物館,美術館,図書館,文書館,あるいは研究プロジェクトなどのデジタルアーカイブに用いられている.オープンソースソフトウェアであるOmekaを用いることで,デジタルアーカイブ構築にかかる費用や技術的要求を大幅に減らすことが可能になった.

 ブロマイド紙のデジタル写真とメタデータ(ここでは,記録紙裏面の情報および観測者・観測点に関する情報)をOmekaに登録した.記録の検索を容易にするため,メタデータ中の観測点と観測期間に関する情報を各画像に結びつけた.Omekaでは,画像をInternational Image Interoperability Framework (IIIF)に準拠して公開することができる.これを利用して,閲覧者はIIIFに対応した好みの画像ビューアでブロマイド記録を表示することができる.また,将来的には,IIIFを利用して,オンラインでブロマイド紙記録を画像処理し,以後の分析を実施するような仕組みを構築できる可能性がある.