日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

P

2021年10月15日(金) 15:30 〜 17:00 P1会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S01P-01] 沈み込む海洋性地殻内部を伝播するガイド波の数値シミュレーション

〇城戸口 和希1、河原 純1、椎名 高裕2 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター)

海洋性地殻内部や近傍で発生する地震では、周囲に比べて地震波速度の遅い海洋性地殻内部に地震のエネルギーがトラップされることにより発生し、伝播するガイド波が観測されることが知られている (e.g., Fukao, 1983; Hori et al., 1985; Ohkura, 2000; Abers, 2005; Miyoshi et al., 2012)。特に日高山脈付近では太平洋スラブ直上に大陸下部地殻程度の速度を持つ低速度域が存在すると考えられており (Kita et al., 2010, 2012)、この低速度域と海洋性地殻の接触により、海洋性地殻内部を海溝軸と平行に伝わるガイド波のエネルギーの一部が、地表面に向けて放出されると推測されている(Shiina et al., 2014; 椎名, 2015)。椎名(2015)は、日高山脈下の不均質構造 (Kita et al., 2010, 2012) や低速度の海洋性地殻などを導入した2次元構造モデルを仮定し、海洋性地殻内部を伝播するガイド波の地表面での観測可能性に注目した数値シミュレーションを行った。その結果、このガイド波が地表面で観測されるためには、日高山脈下に地震波の低速度域が存在し,太平洋スラブ直上付近まで分布している必要があることがわかった。

本研究では、椎名(2015)で詳細に検討されなかった海洋性地殻の地震波速度や内部構造の違いについて、海洋性地殻内部を伝播するガイド波の地表面観測波形に与える影響に注目した数値シミュレーションを行った。計算には速度-応力型有限差分法(Virieux, 1986)を用い、ダブルカップル点震源を与えて2次元P-SV波を放射させた。構造モデルは、椎名(2015)の2次元構造モデルを若干単純化したものを用いた(図)。このモデルは地表面から順に、大陸上部地殻、大陸下部地殻、マントルウェッジ、海洋性地殻、スラブマントルから成る水平成層構造を基本とし、マントルウェッジの一部の地震波速度を大陸下部地殻と同じ値にすることで低速度域を表現した。各層のVp/Vs比、密度、厚さなどは、椎名(2015)の2次元構造モデルを参考にして与えた。海洋性地殻内部に卓越周波数1.4 Hzの点震源を置いて波動伝播シミュレーションを行い(図)、地表観測点における地震動を合成した。その結果、海洋性地殻の地震波速度を若干(0.5 km/s程度)変更すると、海洋性地殻内部のガイド波の伝播速度や励起強度が変わり、結果として観測されるガイド波の走時や振幅、継続時間等にも変化が見られた。このことはガイド波の特徴から海洋性地殻内部の構造やその変化をある程度制約できる可能性を示唆する。


図:シミュレーションの一例:A:大陸上部地殻、B:大陸下部地殻、C1:マントルウェッジ、C2:マントルウェッジ内の低速度域、D:海洋性地殻、E:スラブマントル。星印は震源。赤はP波、緑はS波を表す。