11:30 〜 11:45
[S02-02] 海底面での機動的傾斜観測実現に向けた房総半島沖での長期試験観測2
1. はじめに
機動的な海底傾斜変動観測の実用化に向け、新型の広帯域海底地震計(BBOBS-NX)[1]を基にしたBBOBST-NXによる長期観測について2014年・2017年の地震学会で報告した[2][3]。今回は、2015年に設置し5年ぶりに回収した房総半島南東沖に設置していたBBOBST-NXの観測結果を紹介する。
2. 計測・処理方法
BBOBS-NXでは独立した広帯域センサー部が海底面に大半埋設されており、底層流の影響による傾斜変動はほぼ無い。自由落下して貫入するため海底堆積層との結合も良好である。広帯域センサーの水平動2成分のマスポジション信号(加速度出力)を速度信号3成分と併せ連続記録するBBOBST-NXは、広帯域地震・傾斜変動を同時観測できる。実際に得られた記録には、広帯域センサーの経時変化とマスのセンタリングによるシフトが見られる。シフトの前後で記録はほぼ連続しており、シフト分を補正した後に適当な関数(1次+対数)をgnuplotを使い当てはめ、経時変化を差し引き、傾斜変動の記録を得る。海底での潮汐による傾斜変動は約0.1µradと小さいがbaytap08プログラム[4]を適用して潮汐成分を取り除く。
3. 長期試験観測
本観測は房総半島南東沖で繰り返しSSEが発生している領域で2015年7月から2年間の長期試験観測を予定した。これまでの同様な観測時には数10〜100m離れた場所に流向流速計を設置して水温等も記録していたが、この観測では自記式精密水温計(10分サンプリング)のみをBBOBST-NXの外装に取り付けた。2017年・2019年に回収航海があったが悪天候などで作業出来ず、2020年10月のYK20-15S「よこすか・しんかい6500」航海でやっと回収し、観測を継続するために新規のBBOBST-NXと海底電磁流向流速計(OBEMC、距離25m)、および別2地点での海底圧力計(OBP)の設置も行った。BBOBST-NXは設置から5年経過していたが内部時計はバックアップ電池で稼働しており、データの時刻精度も確保出来た。水温データは4年以上取得されていた。
4. 水温変化と傾斜変動
今回のマスポジションデータは、2年間でマスのセンタリングがほぼ無いほどに安定していた。基本的な処理を済ませた傾斜変動には、2成分共に水温変化との明確な関連性が見えた(図)。以前、同じ個体のセンサーで取得した結果[5]では、傾斜変動と水温変化の関係が明確に示せなかったが、今回はセンサー近傍での水温計測のためか温度依存性(ほぼ-30µrad/°C)が確認できた。過去の傾斜変動と水温変化の関係を見て、全て共通して負の温度係数で傾斜値が変化していることから、水塊移動によるものではなく、センサー自体の機械的温度依存性であると判断できる。この水温変化の影響を傾斜変動から除去する方法を試し、周波数領域で温度係数を推定してその分を差し引くことにした。同じセンサーによる過去2回の傾斜記録に対しても同様な処理を行ったが、水温計測地点が離れていたためか、温度係数がやや異なった。この処理後でも2014年のSSE時の傾斜変動は明確にあると見える。
5. まとめ
今回はSSEが起きていない2年間のBBOBST-NXによる傾斜観測から、水温変化の計測と温度係数の推定が重要なことが明確となった。温度係数のオーダーから、水温変動が0.1°Cにも達しないような深海底では問題にならないかもしれないが、今後、傾斜変動観測するには、埋設される広帯域センサー部内での精密温度測定が必要になると考えている。
参考文献
[1] Shiobara, H., T. Kanazawa and T. Isse, IEEE-JOE, 38, 396-405, 2013.
[2] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, C32-09, 2014.
[3] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, S02-07, 2017.
[4] Tamura, Y., et al., GJI, 104, 507-516, 1991.
[5] Shiobara, H., et al., Front. Earth Sci., 8:599810, 2021.
機動的な海底傾斜変動観測の実用化に向け、新型の広帯域海底地震計(BBOBS-NX)[1]を基にしたBBOBST-NXによる長期観測について2014年・2017年の地震学会で報告した[2][3]。今回は、2015年に設置し5年ぶりに回収した房総半島南東沖に設置していたBBOBST-NXの観測結果を紹介する。
2. 計測・処理方法
BBOBS-NXでは独立した広帯域センサー部が海底面に大半埋設されており、底層流の影響による傾斜変動はほぼ無い。自由落下して貫入するため海底堆積層との結合も良好である。広帯域センサーの水平動2成分のマスポジション信号(加速度出力)を速度信号3成分と併せ連続記録するBBOBST-NXは、広帯域地震・傾斜変動を同時観測できる。実際に得られた記録には、広帯域センサーの経時変化とマスのセンタリングによるシフトが見られる。シフトの前後で記録はほぼ連続しており、シフト分を補正した後に適当な関数(1次+対数)をgnuplotを使い当てはめ、経時変化を差し引き、傾斜変動の記録を得る。海底での潮汐による傾斜変動は約0.1µradと小さいがbaytap08プログラム[4]を適用して潮汐成分を取り除く。
3. 長期試験観測
本観測は房総半島南東沖で繰り返しSSEが発生している領域で2015年7月から2年間の長期試験観測を予定した。これまでの同様な観測時には数10〜100m離れた場所に流向流速計を設置して水温等も記録していたが、この観測では自記式精密水温計(10分サンプリング)のみをBBOBST-NXの外装に取り付けた。2017年・2019年に回収航海があったが悪天候などで作業出来ず、2020年10月のYK20-15S「よこすか・しんかい6500」航海でやっと回収し、観測を継続するために新規のBBOBST-NXと海底電磁流向流速計(OBEMC、距離25m)、および別2地点での海底圧力計(OBP)の設置も行った。BBOBST-NXは設置から5年経過していたが内部時計はバックアップ電池で稼働しており、データの時刻精度も確保出来た。水温データは4年以上取得されていた。
4. 水温変化と傾斜変動
今回のマスポジションデータは、2年間でマスのセンタリングがほぼ無いほどに安定していた。基本的な処理を済ませた傾斜変動には、2成分共に水温変化との明確な関連性が見えた(図)。以前、同じ個体のセンサーで取得した結果[5]では、傾斜変動と水温変化の関係が明確に示せなかったが、今回はセンサー近傍での水温計測のためか温度依存性(ほぼ-30µrad/°C)が確認できた。過去の傾斜変動と水温変化の関係を見て、全て共通して負の温度係数で傾斜値が変化していることから、水塊移動によるものではなく、センサー自体の機械的温度依存性であると判断できる。この水温変化の影響を傾斜変動から除去する方法を試し、周波数領域で温度係数を推定してその分を差し引くことにした。同じセンサーによる過去2回の傾斜記録に対しても同様な処理を行ったが、水温計測地点が離れていたためか、温度係数がやや異なった。この処理後でも2014年のSSE時の傾斜変動は明確にあると見える。
5. まとめ
今回はSSEが起きていない2年間のBBOBST-NXによる傾斜観測から、水温変化の計測と温度係数の推定が重要なことが明確となった。温度係数のオーダーから、水温変動が0.1°Cにも達しないような深海底では問題にならないかもしれないが、今後、傾斜変動観測するには、埋設される広帯域センサー部内での精密温度測定が必要になると考えている。
参考文献
[1] Shiobara, H., T. Kanazawa and T. Isse, IEEE-JOE, 38, 396-405, 2013.
[2] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, C32-09, 2014.
[3] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, S02-07, 2017.
[4] Tamura, Y., et al., GJI, 104, 507-516, 1991.
[5] Shiobara, H., et al., Front. Earth Sci., 8:599810, 2021.