9:30 AM - 9:45 AM
[S03-07] Seafloor crustal deformation off the east coast of Izu-Oshima volcano using the Long-Term Ocean Bottom Pressure Recorder
海底における長期精密圧力計測は地震火山活動に伴う長期的な地殻変動の検知や、気象・海象などの長期的変動などの地球物理的な知見を得るために重要である。海洋研究開発機構では、伊豆大島直下にあるとされるマグマ溜まりへのマグマの供給プロセスを捉えることを目的とし、長期海底設置用水圧計(LT-OBPR: Long-Term Ocean Bottom Pressure Recorder)の開発を行い、2021年7月に伊豆大島東方沖に設置、観測を開始した。
1. はじめに
伊豆大島火山は観測体制が整備された火山の1つであり、これまで1968年の噴火時を含めて地震活動や火山活動が詳細に捉えられてきた。特にGNSS観測網が整備されて以降、カルデラより深さ4-5 km程度にある圧力源(マグマ溜まり)が2-3年の周期で伸縮/膨張を繰り返していること(例えば地震研、第148回火山噴火予知連絡会)、それより深い約7 kmの位置に別の圧力変動源があることなどがわかっている(気象研技術報告69号)。また伊豆大島の南東沖5 km、深さ30 km~には深部低周波地震が発生しており、深部低周波地震の活発化と山体の膨張(歪変化)が同期するなど、より深部からのマグマの供給・蓄積プロセスが示唆されている(渡辺2012)。しかしながら伊豆大島火山の地殻変動を捉えるための観測網は島内にあり、特に深さ30km程度で示唆されている深部の圧力源の位置、深さを推定するのは難しい。そこで伊豆大島周辺海域において長期水圧観測を行い、深さ数kmにあるとされる浅部マグマ溜まりを圧力源ととする長期的な地殻変動、さらにより深部を圧力源とする変動を捉え、そのマグマ供給・蓄積過程を明らかにすることを目的として伊豆大島における長期精密水圧計測を開始した。さらに伊豆大島の南東沖は1968年の噴火時に大きな地殻変動が見られたとされている領域であり、伊豆大島における火山発生のプロセスにおいてこの領域での長期的な地殻変動を捉えこの意義は大きい。そこでLT-OBPRを基点とて地殻変動が大きく見られるとされる領域に測線を設定し、その測線上に基準マーカーを3点設置し、その基準マーカーの水準を計測することで測線上における長期的な地殻変動を捉える試みを行う。
2. 長期海底設置用水圧計
長期水圧計測システムは南海トラフに設置されている地震・津波観測監視システム(DONET)や日本海溝海底地震津波観測網(S-net)などで代表されるオンライン型の水圧計が多く展開されているが、伊豆大島周辺海域にはネットワーク観測網が展開されていないためオフライン型とした。このためLT-OBPRは低消費電力型で5年間の連続観測ができるようにした。LT-OBPRは直径650mmのチタン合金で作られた耐圧容器内に計測ロガー、バッテリーを組み込み、外側に圧力センサー、データ回収を行うための水中着脱コネクタ、浮力を調整するための錘が取り付けられている。LT-OBPRで使用する圧力センサーはParoscientific社の8B7000-2-005(周波数出力タイプ)を用い、実験室にて現場を模擬した環境(低温、高圧下)における長期ドリフト評価、および圧力ヒステリシス試験を実施した。また圧力センサーの基準周波数源として内部のクロックを使用し、内部クロックと原子時計(Microsemi社、CSAC SA.45s)を定期的に比較校正することで計測する圧力の精度を保証する仕様とした。
3. 設置、および今後の計画
LT-OBPRは2021年7月に実施されたKR21-08航海において伊豆大島東方沖、カルデラよりおよそ10 kmの位置に設置した。安定した計測を実施できるため比較的傾斜の緩い領域を選定した。設置はR/Vかいれいの観測ウインチを用いて海底面より数10mの位置まで降ろし、切り離しを行って自由落下により設置を行った。その後、ROV「かいこう」にてLT-OBPRの位置調整を行い、計測開始とした。今後は1年間隔程度で連続データの回収を行うとともに、水晶水圧計に見られる年間数hPa程度 (1 hPa = 1 cm) の機器的なドリフトを取り除くため、校正用水圧計(Machida et al., 2020)による校正を行うことを計画している。さらに基準マーカーも定期的に校正装置を用いて圧力の値付けを行い、LT-OBPRとの水準差を定期的に計測することを計画している。
1. はじめに
伊豆大島火山は観測体制が整備された火山の1つであり、これまで1968年の噴火時を含めて地震活動や火山活動が詳細に捉えられてきた。特にGNSS観測網が整備されて以降、カルデラより深さ4-5 km程度にある圧力源(マグマ溜まり)が2-3年の周期で伸縮/膨張を繰り返していること(例えば地震研、第148回火山噴火予知連絡会)、それより深い約7 kmの位置に別の圧力変動源があることなどがわかっている(気象研技術報告69号)。また伊豆大島の南東沖5 km、深さ30 km~には深部低周波地震が発生しており、深部低周波地震の活発化と山体の膨張(歪変化)が同期するなど、より深部からのマグマの供給・蓄積プロセスが示唆されている(渡辺2012)。しかしながら伊豆大島火山の地殻変動を捉えるための観測網は島内にあり、特に深さ30km程度で示唆されている深部の圧力源の位置、深さを推定するのは難しい。そこで伊豆大島周辺海域において長期水圧観測を行い、深さ数kmにあるとされる浅部マグマ溜まりを圧力源ととする長期的な地殻変動、さらにより深部を圧力源とする変動を捉え、そのマグマ供給・蓄積過程を明らかにすることを目的として伊豆大島における長期精密水圧計測を開始した。さらに伊豆大島の南東沖は1968年の噴火時に大きな地殻変動が見られたとされている領域であり、伊豆大島における火山発生のプロセスにおいてこの領域での長期的な地殻変動を捉えこの意義は大きい。そこでLT-OBPRを基点とて地殻変動が大きく見られるとされる領域に測線を設定し、その測線上に基準マーカーを3点設置し、その基準マーカーの水準を計測することで測線上における長期的な地殻変動を捉える試みを行う。
2. 長期海底設置用水圧計
長期水圧計測システムは南海トラフに設置されている地震・津波観測監視システム(DONET)や日本海溝海底地震津波観測網(S-net)などで代表されるオンライン型の水圧計が多く展開されているが、伊豆大島周辺海域にはネットワーク観測網が展開されていないためオフライン型とした。このためLT-OBPRは低消費電力型で5年間の連続観測ができるようにした。LT-OBPRは直径650mmのチタン合金で作られた耐圧容器内に計測ロガー、バッテリーを組み込み、外側に圧力センサー、データ回収を行うための水中着脱コネクタ、浮力を調整するための錘が取り付けられている。LT-OBPRで使用する圧力センサーはParoscientific社の8B7000-2-005(周波数出力タイプ)を用い、実験室にて現場を模擬した環境(低温、高圧下)における長期ドリフト評価、および圧力ヒステリシス試験を実施した。また圧力センサーの基準周波数源として内部のクロックを使用し、内部クロックと原子時計(Microsemi社、CSAC SA.45s)を定期的に比較校正することで計測する圧力の精度を保証する仕様とした。
3. 設置、および今後の計画
LT-OBPRは2021年7月に実施されたKR21-08航海において伊豆大島東方沖、カルデラよりおよそ10 kmの位置に設置した。安定した計測を実施できるため比較的傾斜の緩い領域を選定した。設置はR/Vかいれいの観測ウインチを用いて海底面より数10mの位置まで降ろし、切り離しを行って自由落下により設置を行った。その後、ROV「かいこう」にてLT-OBPRの位置調整を行い、計測開始とした。今後は1年間隔程度で連続データの回収を行うとともに、水晶水圧計に見られる年間数hPa程度 (1 hPa = 1 cm) の機器的なドリフトを取り除くため、校正用水圧計(Machida et al., 2020)による校正を行うことを計画している。さらに基準マーカーも定期的に校正装置を用いて圧力の値付けを行い、LT-OBPRとの水準差を定期的に計測することを計画している。