日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S06. 地殻構造

AM-1

2021年10月14日(木) 09:00 〜 10:30 D会場 (D会場)

座長:仲西 理子(海洋研究開発機構)

09:00 〜 09:15

[S06-01] 三陸沖光ケーブル観測システムのDistributed Acoustic Sensingデータを用いたレイリー波位相速度の計測

〇福島 駿1、篠原 雅尚2、山田 知朗2、西田 究2、竹尾 明子2、蓬田 清3 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学地震研究所、3.北海道大学 理学院 自然史科学専攻 地球惑星ダイナミクス分野)

近年,光ファイバをセンサとして,歪みを数m間隔で数十kmの長距離観測が行えるDistributed Acoustic Sensing(以下 DAS)が地球科学分野に応用されつつある(e.g., Zhan 2019).東京大学地震研究所では,三陸沖に設置した光ケーブル式海底地震・津波観測システムを利用して,DAS観測を行なってきた.Spica et al. (2020) では,このDAS観測データから短周期(周期2秒以下)レイリー波の位相速度を計測し,深さ約3kmまでの堆積層のS波速度構造を推定している.観測システムが敷設されている三陸沖は2011年東北沖地震の震源域北部に位置し,また,深さ約50kmのプレート境界で繰り返し地震の発生が報告されいる (e.g., Matsuzawa et al., 2002 ).この領域での地震発生様式の理解には,高分解能な島弧側上側プレートの構造が必要である.そこで,DAS観測データに対して地震波干渉法を適用し,プレート境界付近の深さまで感度を有する周期10秒程度までの表面波位相速度の推定を試みた.
 本研究では,堆積層及び,島弧側上部地殻構造の地震波速度構造の高分解能推定を目指し,DASデータに対して地震波干渉法を用いて表面波の抽出を行い,frequency – wavenumber法(F-K法)を用いて周期10秒程度までの位相速度推定を行った.本研究で使用したデータは,2020年2月に行われた観測のうち,約12時間のDASデータである.このDASデータは観測点間隔が約5mで,最大観測距離が約100km,約20000チャンネルで構成される.
 図1は,仮想震源を10000 チャンネルとし、観測点8000-15000 チャンネル ペアに対し地震波干渉法を適用し得られた2点間距離ごとの波形群を示す.DAS 観測点は非常に密に配置されているため,地震波干渉法をDAS データに適用した場合,従来の海底地震計と比較し,短時間のデータでSN 比の良い表面波が抽出できることが分かった.もっとも顕著な波群はレーリー波と考えられる.DAS はケーブル方向の歪み速度成分を記録するので,ケーブル方向に伝播するradial 成分に感度が高いため,通常の地震計よりも地震波干渉法によって,レイリー波 が選択的に検出できると考える.
 図2は図1 のレイリー波に対してF-K 法を適用し得られた位相速度の分散曲線である.図2中の実線は,光ファイバ近傍で行われた制御震源探査から得られた P 波速度(Takahashi et al., 2004)のモデルに対して,Disper80(Saito 1988) により計算したレイリー波の基本モード位相速度である.ここで, 密度とS 波速度はBrocher (2005) の経験式を使用しP 波速度から計算した.また,破線は基準モデルから堆積層のみS 波速度を±20%としたモデルのレイリー波の理論分散曲線である.その結果,このモデルから得られる分散曲線が、解析した範囲で信号がもっとも大きな基本・1次モードでそれぞれ周期9秒と5 秒までよく一致する.
 以上より地震波干渉法をDAS データに応用することで,12 時間の観測データで周期約9秒程度までの表面波位相速度を推定できた.DAS アレイの場合,様々な大きさのアレイサイズに対してFK 法を適用することができるので,対象となる周期・波長に合わせてアレイサイズを変えて位相速度を測定することができ,高分解能かつ高精度な測定が期待される.今後,DAS データから得られた位相速度から速度構造を求めることで,従来よりも空間的に分解能が高い島弧側上部地殻地震波速度の推定をめざす.