09:00 〜 09:15
[S08-01] 東北沖地震のすべり分布と応力降下分布:海溝大すべりの原因の力学的考察
はじめに
これまで2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の震源過程の研究が広く行われ,さまざまな断層モデルが提案されてきた.なかでも,プレート浅部のすべりやすべり域の広がりの拘束には津波記録が大きく貢献した (e.g., Satake et al. 2013; Yamazaki et al. 2018 JGR).津波データに基づく断層モデルによると,宮城沖から岩手沖にかけて大すべりがあり,海溝まで進展するすべりが推定されている.この特徴は多くの地震波・測地データに基づく断層モデルでも共通する (e.g., Wang et al. 2018 Geosphere).このような高い精度で拘束されたすべり分布にもとづいて東北地震の発生に至った過程を定量的に考察することが,巨大地震の発生メカニズムの理解に重要である.
巨大地震の発生メカニズムの理解には,断層面上のすべり分布にもとづく運動学的な議論だけでなく,地震時に解消された歪みエネルギー量や応力解放(降下)量などに基づく力学的な考察 (e.g. Kostrov 1974; Noda et al. 2021 JGR),および摩擦則による破壊シミュレーション (e.g. Hok et al. 2011) も重要である.断層面上の応力降下量は,すべり分布から得られる基本的な力学的物理量である.しかし,これまで報告されてきた断層モデルに基づいて計算された東北地震の応力降下分布には,さまざまなパターンがみられる (e.g., Brown et al. 2015 GRL).なかには,運動学的 (すべり分布) 視点では不都合が無くても,力学的 (応力) 視点では不自然となる断層モデルもあり得る.地震発生を力学的に議論するには,力学的にも正確なすべり分布が不可欠である.本研究では,以上の点を踏まえて東北沖地震の断層モデルの推定を試みる.そして,断層モデルから期待される応力降下量の分布が断層モデルが力学的にもっともらしいか議論し,東北沖地震時に海溝で大すべりが発生した力学的原因を考察する.
手法・データ
解析には沖合の津波データを用いた (e.g., Maeda et al. 2011).なかでも震源域直上で得られた水圧計データ(Kubota et al. 2021 GRL) は,過去の断層モデル推定の研究では使用されていない.
本解析では,3次元のプレート形状を正しく表現するため,Iinuma et al. (2016) を参考に,既存のプレートモデルを三角形の小断層要素に分割した.地殻変動の計算においては,水深を考慮して,プレートモデルから設定した三角要素の深さを一律 8 km 浅くした.さらに,東北沖地震の地表にまで進展した破壊を正しく表現するため,三角要素断層のうち,海溝と一致するもっとも浅い列の要素の上端深さを計算上の自由表面 (z = 0 km) に接するように補正した.
結果・議論
津波データのインバージョン解析の結果,これまで報告されてきたすべり分布と同様,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定された (図1a).一方で,すべり分布から期待される応力変化 (応力降下) では,海溝軸そば付近では応力降下はほとんどゼロで,深部側の震源近傍に大きな応力降下域が得られた (図1b).
本解析で得られた応力降下分布から,力学的な固着はプレート境界深部側でのみ起こり,浅部では起こっていないことが示唆される.一方で,これまで報告されてきた断層モデルに基づく応力降下分布には,海溝軸近傍の大すべりに対応して浅部に大きな応力降下をもち,一方で深部側での応力降下が小さくなるものも見られた (Brown et al. 2015, fig. S2).この応力降下分布は固着が海溝軸の浅い場所でのみ生じていると解釈できるが,深さとともに増加する温度・圧力の条件を考慮すると,浅部でのみ固着が生じるとは考えづらい (e.g., Scholtz 1998; Lay et al. 2012).深部側でのみ力学的な固着が生じる本研究のモデルが力学的にもっともらしいと言える.プレート境界浅部において大きなすべりが生じた原因は,浅部が力学的に固着していたのではなく,プレート境界深部の力学的な固着が浅部側の沈み込みが押し留め,すべり遅れを生じさせた (Herman & Govers, 2020 G3; Lindsey et al. 2021 Nature Geo) ためと解釈される.
これまで2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の震源過程の研究が広く行われ,さまざまな断層モデルが提案されてきた.なかでも,プレート浅部のすべりやすべり域の広がりの拘束には津波記録が大きく貢献した (e.g., Satake et al. 2013; Yamazaki et al. 2018 JGR).津波データに基づく断層モデルによると,宮城沖から岩手沖にかけて大すべりがあり,海溝まで進展するすべりが推定されている.この特徴は多くの地震波・測地データに基づく断層モデルでも共通する (e.g., Wang et al. 2018 Geosphere).このような高い精度で拘束されたすべり分布にもとづいて東北地震の発生に至った過程を定量的に考察することが,巨大地震の発生メカニズムの理解に重要である.
巨大地震の発生メカニズムの理解には,断層面上のすべり分布にもとづく運動学的な議論だけでなく,地震時に解消された歪みエネルギー量や応力解放(降下)量などに基づく力学的な考察 (e.g. Kostrov 1974; Noda et al. 2021 JGR),および摩擦則による破壊シミュレーション (e.g. Hok et al. 2011) も重要である.断層面上の応力降下量は,すべり分布から得られる基本的な力学的物理量である.しかし,これまで報告されてきた断層モデルに基づいて計算された東北地震の応力降下分布には,さまざまなパターンがみられる (e.g., Brown et al. 2015 GRL).なかには,運動学的 (すべり分布) 視点では不都合が無くても,力学的 (応力) 視点では不自然となる断層モデルもあり得る.地震発生を力学的に議論するには,力学的にも正確なすべり分布が不可欠である.本研究では,以上の点を踏まえて東北沖地震の断層モデルの推定を試みる.そして,断層モデルから期待される応力降下量の分布が断層モデルが力学的にもっともらしいか議論し,東北沖地震時に海溝で大すべりが発生した力学的原因を考察する.
手法・データ
解析には沖合の津波データを用いた (e.g., Maeda et al. 2011).なかでも震源域直上で得られた水圧計データ(Kubota et al. 2021 GRL) は,過去の断層モデル推定の研究では使用されていない.
本解析では,3次元のプレート形状を正しく表現するため,Iinuma et al. (2016) を参考に,既存のプレートモデルを三角形の小断層要素に分割した.地殻変動の計算においては,水深を考慮して,プレートモデルから設定した三角要素の深さを一律 8 km 浅くした.さらに,東北沖地震の地表にまで進展した破壊を正しく表現するため,三角要素断層のうち,海溝と一致するもっとも浅い列の要素の上端深さを計算上の自由表面 (z = 0 km) に接するように補正した.
結果・議論
津波データのインバージョン解析の結果,これまで報告されてきたすべり分布と同様,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定された (図1a).一方で,すべり分布から期待される応力変化 (応力降下) では,海溝軸そば付近では応力降下はほとんどゼロで,深部側の震源近傍に大きな応力降下域が得られた (図1b).
本解析で得られた応力降下分布から,力学的な固着はプレート境界深部側でのみ起こり,浅部では起こっていないことが示唆される.一方で,これまで報告されてきた断層モデルに基づく応力降下分布には,海溝軸近傍の大すべりに対応して浅部に大きな応力降下をもち,一方で深部側での応力降下が小さくなるものも見られた (Brown et al. 2015, fig. S2).この応力降下分布は固着が海溝軸の浅い場所でのみ生じていると解釈できるが,深さとともに増加する温度・圧力の条件を考慮すると,浅部でのみ固着が生じるとは考えづらい (e.g., Scholtz 1998; Lay et al. 2012).深部側でのみ力学的な固着が生じる本研究のモデルが力学的にもっともらしいと言える.プレート境界浅部において大きなすべりが生じた原因は,浅部が力学的に固着していたのではなく,プレート境界深部の力学的な固着が浅部側の沈み込みが押し留め,すべり遅れを生じさせた (Herman & Govers, 2020 G3; Lindsey et al. 2021 Nature Geo) ためと解釈される.