09:15 〜 09:30
[S08-02] 2016年熊本地震震源域における余震活動による非弾性歪み場・変位場の時間発展について
地震は地殻内に蓄積された弾性歪み(応力)を解放する現象であることを考えると、大地震発生後の余震活動は、大地震の断層運動によって蓄積された弾性歪みを、地震(非弾性変形)によって解消する活動と解釈することができる。地震発生後の地殻内での応力再配分、緩和過程を理解するために、余震活動による非弾性歪み場をとらえることは重要である。
大地震後の余震活動による非弾性歪み速度は、時間のべき乗則(dε/dt ∝t-P)に従うことが知られており、これらの時間変化は、地震時に生じた弾性歪みへの応答として解釈することができる(たとえばNanjo et al., 2019; 楠城, 2007)。このべき乗則のべき指数–Pを本研究ではP値と呼ぶ(余震数の減少を示す大森係数p値とは異なる意味を持つ)。
対象期間を、熊本地震本震(Mj 7.3、2016年4月16日)後から2020年9月までと設定し、モーメント密度テンソルと非弾性歪みテンソルの関係(Noda and Matsu'ura, 2010)を用いて、非弾性歪み速度の時空間変化を調べ、P値を最小二乗法で推定した。P>1となる領域は、歪みが時間経過に伴い、減少する領域であるが、地震時断層(たとえばAsano and Iwata, 2016; Mitsuoka et al., 2020)の周辺に位置していた。一方で、P値が1より小さくなる(非弾性歪みが時間経過とともに増加する)領域が、地震時断層の南西側に確認された。このような領域は、最大前震・本震が発生したことによる弾性変形によって生じた応力ステップへの応答だけでは、この活動を説明できないことがわかる。
また、GNSS観測網の拡充により、詳細な地表面での変位場を得ることができる。対象期間の九州全域の変位場を求めると、およそ10 – 30 cmの変位があることがわかった。さらにプレート運動などによる定常運動による変動を除くと、日奈久・布田川断層周辺、つまり2016年の熊本地震の震源域では、定常運動とは異なる数cmから10 cmほどの変位が推定された。
このような地殻内の非弾性歪みや地表変位の増加は、大地震発生後に、アフタースリップなどの余効変動の影響を受けていると考えることができる。そこで本研究では、地震後に見られた非弾性歪みと地表変位は、アフタースリップによって生じたと仮定し、このすべりを起こす断層モデルの推定を試みる。
アフタースリップを仮定すると、ある断層が非地震的にすべることによって周囲に弾性歪みが蓄積されると考えられる。
余震活動によって生じた非弾性歪みは、個々の地震の発震機構データから推定されるわけだが、その場に負荷された弾性歪みが非弾性歪み(余震活動)として即座に解消されるのか、時定数がどうなっているのか、また、空間的に応力の緩和過程が異なるのかどうか、という問題が重要になってくる。つまり、その場に負荷された弾性歪みをどのくらいの時間かけて解消するのか、また、観測された非弾性歪みがその何%に相当するのか、場所によってそれらは異なるのか、未知なままである。
一方で、地表面では与えられた弾性歪みがそのまま変位として現れると考えると、地殻内のアフタースリップ断層のすべりに対する地表変位を計算することで、データと比較することが可能であると考えられる。そこで、地表での変位をデータとし、Okada (1992)の矩形断層による弾性歪み変化、変位を用いて観測方程式を立て、最小二乗法でアフタースリップ断層面上のすべり分布を推定した。アフタースリップ断層は、日奈久・布田川断層それぞれで地震時断層(たとえばAsano and Iwata, 2016; Mitsuoka et al., 2020)を延長して設定した。その結果、最大で50 cm程度、地震時にすべった領域に加え、日奈久断層の深部延長部で大きいすべりを示す分布が得られた。
これは、地表変位が説明できるすべり分布であるわけだが、このアフタースリップ断層がすべることによって生じる歪み変化を、低P値が示された領域で計算し、地震によって解放された非弾性歪みと比較を行った。歪みテンソルの軸方向は有意に一致しないものの、正断層型、横ずれ型の歪み変化を生じることがわかり、これは観測された非弾性歪みの傾向と同じであった。また、非弾性歪みの大きさは、弾性歪み変化のおおよそ10%程度である結果が得られた。さらに詳細な断層すべりやそれが周囲に及ぼす歪み変化、P値との比較について議論する。
大地震後の余震活動による非弾性歪み速度は、時間のべき乗則(dε/dt ∝t-P)に従うことが知られており、これらの時間変化は、地震時に生じた弾性歪みへの応答として解釈することができる(たとえばNanjo et al., 2019; 楠城, 2007)。このべき乗則のべき指数–Pを本研究ではP値と呼ぶ(余震数の減少を示す大森係数p値とは異なる意味を持つ)。
対象期間を、熊本地震本震(Mj 7.3、2016年4月16日)後から2020年9月までと設定し、モーメント密度テンソルと非弾性歪みテンソルの関係(Noda and Matsu'ura, 2010)を用いて、非弾性歪み速度の時空間変化を調べ、P値を最小二乗法で推定した。P>1となる領域は、歪みが時間経過に伴い、減少する領域であるが、地震時断層(たとえばAsano and Iwata, 2016; Mitsuoka et al., 2020)の周辺に位置していた。一方で、P値が1より小さくなる(非弾性歪みが時間経過とともに増加する)領域が、地震時断層の南西側に確認された。このような領域は、最大前震・本震が発生したことによる弾性変形によって生じた応力ステップへの応答だけでは、この活動を説明できないことがわかる。
また、GNSS観測網の拡充により、詳細な地表面での変位場を得ることができる。対象期間の九州全域の変位場を求めると、およそ10 – 30 cmの変位があることがわかった。さらにプレート運動などによる定常運動による変動を除くと、日奈久・布田川断層周辺、つまり2016年の熊本地震の震源域では、定常運動とは異なる数cmから10 cmほどの変位が推定された。
このような地殻内の非弾性歪みや地表変位の増加は、大地震発生後に、アフタースリップなどの余効変動の影響を受けていると考えることができる。そこで本研究では、地震後に見られた非弾性歪みと地表変位は、アフタースリップによって生じたと仮定し、このすべりを起こす断層モデルの推定を試みる。
アフタースリップを仮定すると、ある断層が非地震的にすべることによって周囲に弾性歪みが蓄積されると考えられる。
余震活動によって生じた非弾性歪みは、個々の地震の発震機構データから推定されるわけだが、その場に負荷された弾性歪みが非弾性歪み(余震活動)として即座に解消されるのか、時定数がどうなっているのか、また、空間的に応力の緩和過程が異なるのかどうか、という問題が重要になってくる。つまり、その場に負荷された弾性歪みをどのくらいの時間かけて解消するのか、また、観測された非弾性歪みがその何%に相当するのか、場所によってそれらは異なるのか、未知なままである。
一方で、地表面では与えられた弾性歪みがそのまま変位として現れると考えると、地殻内のアフタースリップ断層のすべりに対する地表変位を計算することで、データと比較することが可能であると考えられる。そこで、地表での変位をデータとし、Okada (1992)の矩形断層による弾性歪み変化、変位を用いて観測方程式を立て、最小二乗法でアフタースリップ断層面上のすべり分布を推定した。アフタースリップ断層は、日奈久・布田川断層それぞれで地震時断層(たとえばAsano and Iwata, 2016; Mitsuoka et al., 2020)を延長して設定した。その結果、最大で50 cm程度、地震時にすべった領域に加え、日奈久断層の深部延長部で大きいすべりを示す分布が得られた。
これは、地表変位が説明できるすべり分布であるわけだが、このアフタースリップ断層がすべることによって生じる歪み変化を、低P値が示された領域で計算し、地震によって解放された非弾性歪みと比較を行った。歪みテンソルの軸方向は有意に一致しないものの、正断層型、横ずれ型の歪み変化を生じることがわかり、これは観測された非弾性歪みの傾向と同じであった。また、非弾性歪みの大きさは、弾性歪み変化のおおよそ10%程度である結果が得られた。さらに詳細な断層すべりやそれが周囲に及ぼす歪み変化、P値との比較について議論する。