日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

P

2021年10月15日(金) 15:30 〜 17:00 P5会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S08P-10] 粘弾性媒質中の地震サイクルにおける断層強度不均質による影響

〇山本 誠1、野田 博之1 (1.京都大学)

速度状態依存摩擦則(RSF則)が発見されて以来、これを適用した地震サイクルシミュレーションが盛んに行われている [e.g., Lapusta et al., 2000]。断層の挙動を決める要素の一つに摩擦パラメータ a-b が挙げられ、その正負が重要になる。低速での摩擦係数について、速度弱化(a-b < 0を示す鉱物は Byerlee 則に従う値(~ 0.6)を示すのに対し、速度強化(a-b < 0)を示す鉱物には粘土鉱物などの小さな値を示すものも存在することが確認されている。全体としては、低速での摩擦係数は摩擦パラメータ a-b と負の相関が見られる[Ikari et al., 2011]。このことから、地震サイクルシミュレーションを行う際には、基準滑り速度 V0 における定常摩擦係数 f0 の不均質性を考慮する必要があると考えられる。ただし、媒質が線形弾性体の場合、 f0 の分布は滑りの基準(滑りをゼロと定義する状態)の選択に吸収されてしまい、初期条件の影響のなくなったリミットサイクルやアトラクタにおける滑り速度 V の時空間的分布には影響を及ぼさない。その一方で、媒質に粘弾性体を採用する場合、非弾性変形の速度が媒質中の偏差応力の絶対値に依存するため、 f0 の分布が断層の長期的挙動に影響する。
地中では、地殻浅部から深部にかけて地震性の領域、スロースリップイベント(SSE)が起こる領域、定常滑りの領域へ移り変わる。また、深さや物質の変化に依存し、媒質の弾性・粘弾性の遷移も見られる。弾性・粘性遷移による断層挙動への影響を調べるために、粘弾性媒質中での2次元の動的地震サイクルシミュレーション手法が開発されている [Miyake and Noda, 2019]。緩和時間の変化において地震性(EQ)-永久固着(Stuck)遷移が起こることなど、緩和時間と震源核サイズの2種類のパラメータを変化させたときの影響が詳細に調べられている。しかし既往研究では、単純化の為 f0 は断層面で一様と仮定されており、 f0 の不均質性が断層挙動に与える影響についてはまだ調べられていない。
本研究ではまず、 f0 の値を 0.6 で一様としていた Miyake and Noda (2019) による粘弾性媒質中での動的地震サイクルシミュレーションに対し、他の物性値を変化させず f0 のみに不均質性を加えた。本シミュレーションでは速度弱化パッチを断層の中央に設置しており、それに合わせて f0 を上に凸の矩形関数として与えた。速度弱化パッチにおける f0f0(rw) 、 速度強化領域における f0f0(rs) とする。初期条件について、基準状態における載荷は f0 の平均値を与えた。緩和時間一定のもとで f0(rs) をパラメータ(0.3 ≦ f0(rs) ≦ 0.6)とすることで f0(rw)=0.6 との差を変化させ、それによる断層挙動の変化を調べた。その結果、一定の緩和時間であっても、 f0(rs) を変化させると EQ - Stuck 遷移が起こることが分かった。また、 f0(rs) を 0.39 程度まで小さくすると、Miyake and Noda (2019) の報告より一桁以上大きな値での EQ-Stuck 遷移が確認された。 f0 の不均質性が大きくなるにつれて地震再来間隔は大きくなり、やがて永久固着へと遷移する。本研究ではさらに、 Ikari et al.(2011) 等を参考に摩擦パラメータ a, b の分布を再考した上で、f0(rs)と緩和時間の2次元でパラメータスタディを行い、 f0 の不均質の影響を定量的に調べる。