15:30 〜 17:00
[S14P-02] 静岡県西部地域の地下水温変化と地震活動
1概要
静岡県西部地域では2013年5月から浜松市中郡(NG),2016年8月から湖西 市新居(KOA),磐田市中泉(IWN),掛川市徳泉(KAT)にて白金測温抵抗 体の水温センサーを用いた長期水温観測を行っている(図2).
NGでは2014年後半から下降を続けていた水温が12月末から上昇に転じ,急激な温度上昇の後,しばらく停滞していたが最近,これまでにない上昇率での水温上昇が観測されている.
地殻の岩盤の応力が強まると深部の高圧流体は低圧環境である地殻上部へ移動し浅層地下水に混じり地下水温を上昇させるとする深部流体上昇仮説(佃,2005) [1]により静岡県西部地域の地下岩盤にかかる圧力が増加していると解釈できる.
2 KOA・NG・IWNの水温変化の同期性
図1はKOA・NG・IWNの水温変化のトレンドが変化した日の例を示したものである. 2016年12月24日にKOA・NG・IWNの3カ所で水温が上昇する変化が生じた. 2020年11月5日から11月11日にかけて3カ所の観測井で上昇していた水温が下降に転じた.2020年12月31日から2021年2月3日にかけて3カ所の観測井で下降していた水温が上昇に転じた.同時期の水温変化は地下の岩盤にかかる圧力の変化がこの地域で広範囲に生じたと考えることができる. KOAとNGはトレンドが変わる時期が近く,IWNはKOA・NGとトレンドの変わる時期が多少異なっている.地下水温変化の時期の違いから地域ごとの地下にかかる圧力の変化を推測できる可能性がある.
3 浜名湖周辺での長期スロースリップとNG水温変化
NGの水温変化は2013年の観測開始から停滞・下降を続けていたが2016年12月24日を境に上昇に転じた.これは,浜名湖周辺で観測されていた長期スロースリップが終息し地下岩盤の圧力が圧縮場となり水温変化を上昇に転じさせたと考えられる.
上久保(2018)は浜名湖周辺での長期スロースリップモーメント変化とNGでの水温変化との相関について相関性(相関係数0.91)があることを示した(図3)[2].
スロースリップ進行期は,陸側地盤の南東方向への移動により,陸側岩盤は膨張し圧力が低下する.間隙内に存在する高温の流体は圧力の低下により,地表への流入量が低下し地下水温は低下すると考えることができる.
スロースリップ停滞期には陸地岩盤は圧縮され圧力が上昇する.間隙内に存在する高温の流体は圧力の増加により地表への流入量が増加し地下水温は上昇すると考えることができる.
4 スラブ内地震発生率とNG水温変化率の関係
静岡県西部地域のスラブ内地震(30km-60km M1以上)の発生率は2017年12月頃から0.076個/日から0.100個/日に32%程増加している(図4). フィリピン海プレートが大陸プレートに沈み込みにくくなり,スラブ内にかかる圧力が増してスラブ内の地震発生率が増加していると考えることができる.
NGの水温上昇率は2018年1月頃より+0.067℃/年から+0.093℃/年に39%程増加している.
プレート境界付近にかかる圧力が2018年1月頃より増加し,地下深部の間隙水が浅部帯水層に混入する流量が増加して水温変化率を増加させていると考えられる.
5 御前崎の沈降状況とNG水温変化
これまで直線的に沈み込みを続けてきた御前崎の沈降状況は2020年4月から2021年3月にかけて沈降が停滞しているようにみえる(図5). この期間,NGの水温変化は上下を伴いながらも停滞している. この地下水温変化の停滞は御前崎の沈降の停滞により地下岩盤に膨張領域と圧縮領域が交互に生じ,この付近に存在する間隙水の大陸プレート浅部への流量を変化させた可能性がある.
6 参考文献・資料
[1] Tsukuda, T.,K.Goto and O.Sato,2005,Bull.Earthq.Res.Inst,80,105-131.
[2]上久保廣信,静岡県西部地域の地下水温変化と浜名湖周辺の長期スロースリップとの相関性について,常葉大修論,2018.
図1 KOA・NG・IWNの水温変化と主な同期時期
図2 KOA・NG・IWN・KATの観測点位置
図3 気象庁浜名湖周辺のモーメントの累積グラフ(第375回地震防災対策強化地域判定会気象庁資料)に浜松中郡(NG)水温変化(1か月移動平均値)を上下反転させて重ねたもの
図4上・中 静岡県西部地域の地震累積回数(2013年1月~2022年7月まで M 1以上 深さ30-60km).図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁 データ.JMA_PDEを使用した
図4下 NG水温上昇率(2017年1月~2018年6月と2018年7月~2019年3月)
図5 NG水温変化(矢印の期間は2020.4~2021.3)と御前崎沈降状況(気象庁令和和3年度8月6日判定会資料に(矢印の期間2020.4~2021.3等を加筆)
静岡県西部地域では2013年5月から浜松市中郡(NG),2016年8月から湖西 市新居(KOA),磐田市中泉(IWN),掛川市徳泉(KAT)にて白金測温抵抗 体の水温センサーを用いた長期水温観測を行っている(図2).
NGでは2014年後半から下降を続けていた水温が12月末から上昇に転じ,急激な温度上昇の後,しばらく停滞していたが最近,これまでにない上昇率での水温上昇が観測されている.
地殻の岩盤の応力が強まると深部の高圧流体は低圧環境である地殻上部へ移動し浅層地下水に混じり地下水温を上昇させるとする深部流体上昇仮説(佃,2005) [1]により静岡県西部地域の地下岩盤にかかる圧力が増加していると解釈できる.
2 KOA・NG・IWNの水温変化の同期性
図1はKOA・NG・IWNの水温変化のトレンドが変化した日の例を示したものである. 2016年12月24日にKOA・NG・IWNの3カ所で水温が上昇する変化が生じた. 2020年11月5日から11月11日にかけて3カ所の観測井で上昇していた水温が下降に転じた.2020年12月31日から2021年2月3日にかけて3カ所の観測井で下降していた水温が上昇に転じた.同時期の水温変化は地下の岩盤にかかる圧力の変化がこの地域で広範囲に生じたと考えることができる. KOAとNGはトレンドが変わる時期が近く,IWNはKOA・NGとトレンドの変わる時期が多少異なっている.地下水温変化の時期の違いから地域ごとの地下にかかる圧力の変化を推測できる可能性がある.
3 浜名湖周辺での長期スロースリップとNG水温変化
NGの水温変化は2013年の観測開始から停滞・下降を続けていたが2016年12月24日を境に上昇に転じた.これは,浜名湖周辺で観測されていた長期スロースリップが終息し地下岩盤の圧力が圧縮場となり水温変化を上昇に転じさせたと考えられる.
上久保(2018)は浜名湖周辺での長期スロースリップモーメント変化とNGでの水温変化との相関について相関性(相関係数0.91)があることを示した(図3)[2].
スロースリップ進行期は,陸側地盤の南東方向への移動により,陸側岩盤は膨張し圧力が低下する.間隙内に存在する高温の流体は圧力の低下により,地表への流入量が低下し地下水温は低下すると考えることができる.
スロースリップ停滞期には陸地岩盤は圧縮され圧力が上昇する.間隙内に存在する高温の流体は圧力の増加により地表への流入量が増加し地下水温は上昇すると考えることができる.
4 スラブ内地震発生率とNG水温変化率の関係
静岡県西部地域のスラブ内地震(30km-60km M1以上)の発生率は2017年12月頃から0.076個/日から0.100個/日に32%程増加している(図4). フィリピン海プレートが大陸プレートに沈み込みにくくなり,スラブ内にかかる圧力が増してスラブ内の地震発生率が増加していると考えることができる.
NGの水温上昇率は2018年1月頃より+0.067℃/年から+0.093℃/年に39%程増加している.
プレート境界付近にかかる圧力が2018年1月頃より増加し,地下深部の間隙水が浅部帯水層に混入する流量が増加して水温変化率を増加させていると考えられる.
5 御前崎の沈降状況とNG水温変化
これまで直線的に沈み込みを続けてきた御前崎の沈降状況は2020年4月から2021年3月にかけて沈降が停滞しているようにみえる(図5). この期間,NGの水温変化は上下を伴いながらも停滞している. この地下水温変化の停滞は御前崎の沈降の停滞により地下岩盤に膨張領域と圧縮領域が交互に生じ,この付近に存在する間隙水の大陸プレート浅部への流量を変化させた可能性がある.
6 参考文献・資料
[1] Tsukuda, T.,K.Goto and O.Sato,2005,Bull.Earthq.Res.Inst,80,105-131.
[2]上久保廣信,静岡県西部地域の地下水温変化と浜名湖周辺の長期スロースリップとの相関性について,常葉大修論,2018.
図1 KOA・NG・IWNの水温変化と主な同期時期
図2 KOA・NG・IWN・KATの観測点位置
図3 気象庁浜名湖周辺のモーメントの累積グラフ(第375回地震防災対策強化地域判定会気象庁資料)に浜松中郡(NG)水温変化(1か月移動平均値)を上下反転させて重ねたもの
図4上・中 静岡県西部地域の地震累積回数(2013年1月~2022年7月まで M 1以上 深さ30-60km).図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁 データ.JMA_PDEを使用した
図4下 NG水温上昇率(2017年1月~2018年6月と2018年7月~2019年3月)
図5 NG水温変化(矢印の期間は2020.4~2021.3)と御前崎沈降状況(気象庁令和和3年度8月6日判定会資料に(矢印の期間2020.4~2021.3等を加筆)