日本地震学会2021年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

AM-2

2021年10月14日(木) 11:00 〜 12:15 A会場 (A会場)

座長:伊藤 恵理(京都大学防災研究所)、森川 信之(防災科学技術研究所)

12:00 〜 12:15

[S15-05] 地震波逆伝播計算を用いた大地震の断層すべり即時推定の高解像度化

〇柴田 勇吾1、古村 孝志1、前田 拓人2 (1.東京大学地震研究所、2.弘前大学大学院理工学研究科)

1.はじめに 我々はこれまで、高密度地震観測データを用いた大地震の震源断層すべりの即時推定に向けて、地震波逆伝播による震源イメージング(Time Reversal Imaging;TRI)手法の利用を数値実験及びKiK-net観測データ用いて検討を進めてきた(柴田・古村・前田、2020;2021)。TRIでは観測点から震源に向けて逆伝播させた波動場が、一旦アスペリティに収束した後に、再び広がる問題(Fink et. al., 2001)があり、特に複数のアスペリティを持つ大地震の断層滑りイメージングにおいて問題となっていた。また、地震波の位相が時間振動するために、震源イメージングの結果も時間振動を伴い移動することもイメージングの解像度を下げる問題があった。 これらの問題に対し、本研究では従来の弾性エネルギーを用いた震源イメージングに対してP波とS波エネルギーの積を用いたイメージング(Artman et. al., 2010)を用いることで、時間解像度を高めることを試みた。また、逆伝播に用いる地震波形のヒルベルト変換を用いた、時間分解能の向上可能性についても理論地震波形を用いた数値実験により検討した。
2.TRIの数値実験 (1) 理論地震波形の計算 数値実験に用いる理論地震波形データを、図1aで与えた断層すべりモデルに基づき、3次元差分法計算により準備した。計算では、中部日本の水平460.8 x 460.8 km、深さ57.6 kmの範囲に、堆積層、地殻、マントル、太平洋/フィリピン海プレートの速度・減衰構造をJIVSM(Koketsu et al., 2012)に基づき設定した。太平洋プレート上面に、120 x 60 km の断層面を設定し、3つのアスペリティを置いた。断層面は3 x 3の小断層に分割し、断層面中央の震源から2.8 km/sの破壊伝播速度で震源時間関数3秒、滑り量2.0 m(背景領域はそれぞれ8秒と0.1 m)に対応する地震波を放射させた。以上のモデルを用いて、領域内の271点のKiK-net、S-net観測点での理論地震波形を用意した(図1b)。
(2) 震源断層滑りイメージング TRI計算では、時間を反転した130秒間の理論地震波形をKiK-netとS-net観測点から震源に向けて逆伝播させ、与えた断層すべりモデルの再現を試みた。このとき、地震波形には0.05―0.2 Hz のバンドパスフイルタをかけ、さらに観測点間の波動場を相関距離10 kmのガウス分布関数で補間して地表の全格子点から逆伝播させることで、スムーズな逆伝播波動場を合成した。震源断層滑りのイメージングは、3成分速度場の振幅から計算した弾性エネルギーの総和と、速度場の発散と回転から求めたPとS波動場のエネルギーの積(PSエネルギー重合)の総和の二つを用いて行い、両者を比較した。図2は、TRI結果から求めた太平洋プレート上面全体の弾性エネルギー総和の時間変化、図3は、TRIは全時間にわたり太平洋プレート上面に集まったエネルギーの分布である。弾性エネルギーを用いたイメージング結果(図2b)は、発震時にアスペリティに収束した地震波が時間を遡ってさらに伝播するためにイメージがぼやけるが、PSエネルギー重合を用いたイメージングでは、観測点から逆伝播したP波とS波が同着する地点と時刻にのみイメージングが行われるためこの問題が解消し、3つのアスペリティの解像度を高めることができた(図2a)。 なお、DATRIにより得られた震源断層滑りイメージングでは、地震波の振幅が時間振動して2π(絶対値を取る場合はπ)の任意性があるために、イメージングの解像度を下げる問題があった。これは、地震波形に狭域のフイルタをかけた場合に特に問題となる。これを解決するために、本研究ではヒルベルト変換(π/2だけ位相をずらした)地震波形についてもイメージングに用い、位相ずれあり/なしの結果の2乗平均平方根(RMS)を取ることで、時間振動の影響を取り除くことができた。この2つの技法の組み合わせにより今後実データでもイメージングを試みる。