09:30 〜 09:45
[S15-14] 函館平野三次元速度構造モデルによる長周期地震動増幅特性
函館平野は南側を津軽海峡に面し,東西を上磯山地と亀田半島に囲まれた堆積盆地であり,函館平野の西縁は,逆断層である函館平野西縁断層帯によって丘陵・段丘と低地との地形境界が形成されている[太田・他, 1994].我々は日本海地震・津波研究プロジェクトのサブサブテーマ3.2として,北海道の函館平野において,小半径~大半径の微動アレイ探査(5地点)を実施し,既存の反射法探査結果[石油公団, 1981; 佐藤・他, 2019]も併せ,函館平野の三次元深部地盤速度構造モデルを作成した.函館平野の堆積盆地構造は,大局的には平野西縁に向かって深くなる構造をしている.第四系及び新第三系からなる堆積層の層厚は最深部で約 3 kmである.また,2016年内浦湾の地震の地震動シミュレーション(< 2 Hz)を行うことで,速度構造モデルのパフォーマンスチェックも行った[以上,浅野・他, 2020, 地震学会].
函館平野においては,函館平野西縁断層帯のほかにも,太平洋や日本海で発生する巨大地震による地震動が想定される.例えば,1968年十勝沖地震では函館港周辺や五稜郭の被害などが報告されている[1968年十勝沖地震調査委員会, 1969].また,盆地としての深さも最大で3 km程度あり,大阪盆地などと比べても遜色のない規模を有していることから,長周期地震動についても発達しやすい環境にあると考えられる.本研究では,日本海地震・津波研究プロジェクトで作成した速度構造モデルに基づいて,函館平野における長周期地震動の伝播・増幅特性を検討した.理論的な地盤増幅特性に関する既往の多くの研究では,一次元構造の地盤速度構造モデルを与えて計算されることが多い.函館平野をはじめ活断層などで盆地形状が急変している地域などでは,地震動の三次元的な伝播による影響も考慮していく必要がある.また,実体波(S波)だけでなく,後続の表面波部分についても含めて考えなければならない.
本研究では,函館平野からある程度離れた位置に仮想的な点震源を配置し,それぞれの震源について,堆積盆地ありと堆積盆地なしの2通りの地震動シミュレーション(差分法)を実施し,水平2成分の全波(60秒間)のフーリエスペクトルの二乗和平方根を計算地震動のフーリエ振幅スペクトルとして得た.ここで堆積盆地なしモデルとは,堆積層各層の物性値をすべてS波速度2.7 km/sの層のものに置き換えたモデルである.今回は,震央8ケース,震源深さ2ケースを設定したので,全部で16ケースのシミュレーションを実施した.各ケースについて,堆積盆地ありとなしの計算地震動のフーリエ振幅スペクトル比を計算した.最後に,全16ケースのフーリエ振幅スペクトル比の対数平均と対数標準偏差を求めることにより,その地点の地震動増幅特性を推定した.
周期5秒では,平野南西部の沿岸付近(上磯周辺)を中心に増幅率5~6倍の領域が広がった.その領域を取り囲むような感じで,周期4秒の増幅率が大きい領域が拡がっている.これらは,この地域で基盤深度が最も深くなっていることと対応している.周期3秒以下では平野のほぼ全域に増幅率4倍以上の領域が広がっている.周期1~2秒になると,平野内でかなり複雑な空間分布となるとともに,対数標準偏差が大きくなり,ケース間のばらつきも目立つようになる.周期1秒での増幅率の対数標準偏差は最大で0.3(つまり2倍)となった.この検討では,全波のフーリエスペクトルを計算していることから,周期が短くなると,入射方向によって後続動の励起や干渉に違いが生じるためと推測される.ただし,VS < 600m/sの浅部地盤速度構造モデルについては作成されていない.このため,本検討はあくまでS波速度600 m/sの速度層上面での地震動増幅特性を議論していることに注意が必要である.函館平野での地震動予測の高度化においては,浅部地盤速度構造の適切なモデル化に資する調査や研究も今後実施されることが望まれる.
謝辞:本研究で使用した三次元深部地盤速度構造モデルは文部科学省科学技術試験研究委託「日本海地震・津波研究プロジェクト」(平成25~令和2年度,代表機関:東京大学地震研究所)による成果です.
函館平野においては,函館平野西縁断層帯のほかにも,太平洋や日本海で発生する巨大地震による地震動が想定される.例えば,1968年十勝沖地震では函館港周辺や五稜郭の被害などが報告されている[1968年十勝沖地震調査委員会, 1969].また,盆地としての深さも最大で3 km程度あり,大阪盆地などと比べても遜色のない規模を有していることから,長周期地震動についても発達しやすい環境にあると考えられる.本研究では,日本海地震・津波研究プロジェクトで作成した速度構造モデルに基づいて,函館平野における長周期地震動の伝播・増幅特性を検討した.理論的な地盤増幅特性に関する既往の多くの研究では,一次元構造の地盤速度構造モデルを与えて計算されることが多い.函館平野をはじめ活断層などで盆地形状が急変している地域などでは,地震動の三次元的な伝播による影響も考慮していく必要がある.また,実体波(S波)だけでなく,後続の表面波部分についても含めて考えなければならない.
本研究では,函館平野からある程度離れた位置に仮想的な点震源を配置し,それぞれの震源について,堆積盆地ありと堆積盆地なしの2通りの地震動シミュレーション(差分法)を実施し,水平2成分の全波(60秒間)のフーリエスペクトルの二乗和平方根を計算地震動のフーリエ振幅スペクトルとして得た.ここで堆積盆地なしモデルとは,堆積層各層の物性値をすべてS波速度2.7 km/sの層のものに置き換えたモデルである.今回は,震央8ケース,震源深さ2ケースを設定したので,全部で16ケースのシミュレーションを実施した.各ケースについて,堆積盆地ありとなしの計算地震動のフーリエ振幅スペクトル比を計算した.最後に,全16ケースのフーリエ振幅スペクトル比の対数平均と対数標準偏差を求めることにより,その地点の地震動増幅特性を推定した.
周期5秒では,平野南西部の沿岸付近(上磯周辺)を中心に増幅率5~6倍の領域が広がった.その領域を取り囲むような感じで,周期4秒の増幅率が大きい領域が拡がっている.これらは,この地域で基盤深度が最も深くなっていることと対応している.周期3秒以下では平野のほぼ全域に増幅率4倍以上の領域が広がっている.周期1~2秒になると,平野内でかなり複雑な空間分布となるとともに,対数標準偏差が大きくなり,ケース間のばらつきも目立つようになる.周期1秒での増幅率の対数標準偏差は最大で0.3(つまり2倍)となった.この検討では,全波のフーリエスペクトルを計算していることから,周期が短くなると,入射方向によって後続動の励起や干渉に違いが生じるためと推測される.ただし,VS < 600m/sの浅部地盤速度構造モデルについては作成されていない.このため,本検討はあくまでS波速度600 m/sの速度層上面での地震動増幅特性を議論していることに注意が必要である.函館平野での地震動予測の高度化においては,浅部地盤速度構造の適切なモデル化に資する調査や研究も今後実施されることが望まれる.
謝辞:本研究で使用した三次元深部地盤速度構造モデルは文部科学省科学技術試験研究委託「日本海地震・津波研究プロジェクト」(平成25~令和2年度,代表機関:東京大学地震研究所)による成果です.