15:30 〜 17:00
[S15P-14] AN-netで得られた近地地震記録の解析と数値モデリング
はじめに AN-net(関根・他,2010)は,(公財)地震予知総合研究振興会により新潟県長岡地域の40カ所に展開された地震観測網で,ボアホール内に加速度計と速度計,地表に加速度計が設置されている.観測点間隔は5㎞から10㎞と小さく,やや長周期の地震波であればコヒーレントな伝播過程を調べることが可能であると期待される.そこで本研究では,観測網周辺で発生したM6程度の中規模地震を対象に,AN-netと防災科研K-NET, KiK-netで観測された表面波の伝播の特徴をまとめ,地震波伝播の数値モデリングにより,その特徴を再現することを試みた.
データ解析・結果 解析に使用した地震は2つで,2013年2月25日栃木県北部の地震(Mj6.3)と2019年6月18日山形県沖の地震(Mj6.7)である.一つ目の地震はAN-netから西に位置し,震央距離は60-120㎞程度である.2つ目の地震は,AN-netから北に位置し,震央距離は100-170km程度である.AN-netの地表の加速度記録,防災科研KiK-netの地表の加速度記録,K-NETの加速度記録を使用した. データ解析として,レコードセクションの確認,ランニングスペクトル解析,最大振幅や卓越周波数の空間分布の推定,粒子軌跡の計算,センブランス解析による位相速度と到来方向の推定,を行った. レコードセクションでは,長岡平野のAN-netの観測点ではやや長周期地震動の継続時間が伸びていることを確認できる.後続波の伝播は結構複雑で,平野内の往復するような様子を視認することは難しい.最大速度振幅は,AN-netの観測点の間で最大1桁程度変化している.その空間分布は,同じ周波数帯では,上下動成分のほうが水平動成分よりやや複雑な分布を示すように見える.後続波のスペクトルは,周波数0.2-0.6Hz程度が卓越することがわかり,長岡平野の北部では低く,南部では高い傾向にある.北に向かって地震基盤等の境界面の深さが深くなるためと推察される.この傾向は3成分すべてで確認されるが,特に上下動ではっきりと見える.水平動成分の表面波ではレイリー波とラブ波双方の寄与があるが,上下動成分ではレイリー波のみの寄与のためだと考えられる.また,隣接する複数の観測点を地震計アレイと見なしたセンブランス解析により,後続波部分では見かけ速度が概して1km/sより遅く0.5km/sに近い場合もある.表面波の卓越が考えられる.また到来方向は,最初は震源方向からの入射が見られるが,時間が経過するにつれて震源とは逆方向から入射するフェイズも見られるようになり,散乱された表面波であると考えられる.
数値モデリング 数値モデリングにはOpenSWPC(Maeda et al.,2017)を使用した.地震波速度構造はJIVSM(Koketsu et al., 2012)に基づく.点震源を仮定し,防災科研F-netのモーメントテンソル解を採用した.震源時間関数はKupper型とし,継続時間はGlobal CMT解のHalf-durationを2倍して用いた.現在は,グリッドサイズ0.2㎞,時間ステップ0.01sとして,最大周波数0.35Hz程度まで計算している.計算波形は観測波形に比べると比較的単純な形状をしている.そのため,レコードセクションを作成すると,観測とは異なり,震源方向から長岡平野に入射し平野の端で逆方向に向かって伝播していく様子を見つけやすい.最大速度振幅の空間分布については,低周波成分はそれなりに再現できている.しかし,高周波になるにつれて,観測と数値計算とのずれが出てくる.後続波のみかけ速度については,1km/sより遅い波が再現される.観測と数値計算で相違が出てくるのは,震源時間関数がもっと複雑であるのか,点震源の仮定が不十分なのか,あるいは現実の3次元地震波速度構造がより小さい空間スケールまで不均質であるのか,このような可能性が考えられる.今後,それぞれの影響について検討する予定である.
まとめ 本研究では,AN-netで観測された近地地震の波形の特徴をまとめ,数値モデリングによる再現を試みた.観測波形と計算波形との合わせこみにはまだ改良の余地が残っており,今後,震源時間関数や速度構造の調整を行う予定である.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netのデータを使用しました.また,地震波形の数値モデリングには,OpenSWPC(Maeda et al.,2017)と東京大学情報基盤センターのOakforest-PACSスーパーコンピュータシステムを使用しました.また,計算にあたっては,東京大学地震研究所共同利用 (2020-S-04) の助成を受けました.ここに記して感謝いたします.
データ解析・結果 解析に使用した地震は2つで,2013年2月25日栃木県北部の地震(Mj6.3)と2019年6月18日山形県沖の地震(Mj6.7)である.一つ目の地震はAN-netから西に位置し,震央距離は60-120㎞程度である.2つ目の地震は,AN-netから北に位置し,震央距離は100-170km程度である.AN-netの地表の加速度記録,防災科研KiK-netの地表の加速度記録,K-NETの加速度記録を使用した. データ解析として,レコードセクションの確認,ランニングスペクトル解析,最大振幅や卓越周波数の空間分布の推定,粒子軌跡の計算,センブランス解析による位相速度と到来方向の推定,を行った. レコードセクションでは,長岡平野のAN-netの観測点ではやや長周期地震動の継続時間が伸びていることを確認できる.後続波の伝播は結構複雑で,平野内の往復するような様子を視認することは難しい.最大速度振幅は,AN-netの観測点の間で最大1桁程度変化している.その空間分布は,同じ周波数帯では,上下動成分のほうが水平動成分よりやや複雑な分布を示すように見える.後続波のスペクトルは,周波数0.2-0.6Hz程度が卓越することがわかり,長岡平野の北部では低く,南部では高い傾向にある.北に向かって地震基盤等の境界面の深さが深くなるためと推察される.この傾向は3成分すべてで確認されるが,特に上下動ではっきりと見える.水平動成分の表面波ではレイリー波とラブ波双方の寄与があるが,上下動成分ではレイリー波のみの寄与のためだと考えられる.また,隣接する複数の観測点を地震計アレイと見なしたセンブランス解析により,後続波部分では見かけ速度が概して1km/sより遅く0.5km/sに近い場合もある.表面波の卓越が考えられる.また到来方向は,最初は震源方向からの入射が見られるが,時間が経過するにつれて震源とは逆方向から入射するフェイズも見られるようになり,散乱された表面波であると考えられる.
数値モデリング 数値モデリングにはOpenSWPC(Maeda et al.,2017)を使用した.地震波速度構造はJIVSM(Koketsu et al., 2012)に基づく.点震源を仮定し,防災科研F-netのモーメントテンソル解を採用した.震源時間関数はKupper型とし,継続時間はGlobal CMT解のHalf-durationを2倍して用いた.現在は,グリッドサイズ0.2㎞,時間ステップ0.01sとして,最大周波数0.35Hz程度まで計算している.計算波形は観測波形に比べると比較的単純な形状をしている.そのため,レコードセクションを作成すると,観測とは異なり,震源方向から長岡平野に入射し平野の端で逆方向に向かって伝播していく様子を見つけやすい.最大速度振幅の空間分布については,低周波成分はそれなりに再現できている.しかし,高周波になるにつれて,観測と数値計算とのずれが出てくる.後続波のみかけ速度については,1km/sより遅い波が再現される.観測と数値計算で相違が出てくるのは,震源時間関数がもっと複雑であるのか,点震源の仮定が不十分なのか,あるいは現実の3次元地震波速度構造がより小さい空間スケールまで不均質であるのか,このような可能性が考えられる.今後,それぞれの影響について検討する予定である.
まとめ 本研究では,AN-netで観測された近地地震の波形の特徴をまとめ,数値モデリングによる再現を試みた.観測波形と計算波形との合わせこみにはまだ改良の余地が残っており,今後,震源時間関数や速度構造の調整を行う予定である.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netのデータを使用しました.また,地震波形の数値モデリングには,OpenSWPC(Maeda et al.,2017)と東京大学情報基盤センターのOakforest-PACSスーパーコンピュータシステムを使用しました.また,計算にあたっては,東京大学地震研究所共同利用 (2020-S-04) の助成を受けました.ここに記して感謝いたします.