15:30 〜 17:00
[S16P-09] 地震波干渉法に基づくデコンボルーション波形に関する基礎的検討
首都圏地震観測網(MeSO-net; NIED, 2021)では同観測網で得られた加速度連続波形記録が公開されている。それらのデータを対象にした地震波干渉法の検討例は既にいくつか報告されている(e.g, Denolle et al, 2014; 元木ら, 2017)。その上で、関東平野内を横断する特定の測線に着目し、かつ、振幅情報と位相情報の両者に着目した検討事例の蓄積は、首都圏を対象にした地震動伝播特性の解明および強震動予測への寄与の観点からは意義があると考える。
本研究では、MeSO-netの複数の観測地点と基準点を設定し、基準点に対する各観測地点のデコンボルーション波形の抽出を試みると共に、伝播に伴う基本的な性質について考察した。 MeSO-netの19地点を選択し、基準点(TKKM)と各観測地点の組み合わせとなる計18ペアを設定し、それぞれのペアで(2つの観測点間で)得られる相互相関関数を推定する。ここではできるだけ歪みの少ない振幅と位相情報を求めるため、地元・山中(2010)を参考にしてコヒーレンスを介したデコンボルーション波形を求めた。先ず、2020年7月20日~8月18日までの約1か月間の連続波形記録を使用し、10分間を1区間としてオーバーラップさせずに先のコヒーレンスを3,900回スタッキングした。次に、スタッキングされたコヒーレンスを逆フーリエ変換してデコンボルーション波形を求めた。この時、2点間を結ぶ測線の方位に合わせて各区間の観測波形を回転させることでRadial成分とTransverse成分を求めた後、相互相関関数を時間領域で計算した。また、考察のため、ペア毎の2つの観測点で得られる水平成層地盤構造モデル(Koketsu et al, 2012)に基づいてRayleigh波とLove波の基本モードの群速度を算出し、代表周期毎に群速度と2点間距離から求まる伝播時間を推定した(2地点それぞれから求まる伝播時間の平均値を使用)。群速度の算出には久田教授の公開プログラム(久田, 1997)を一部修正の上、リコンパイルして使用した。また2-10sの帯域に着目するため、スタッキング終了後のコヒーレンスにバンドパスフィルタを乗じた。
関東平野内の特定の測線で最大100 km程度の長い伝播距離を有する2点間ペアに関して、明瞭な振幅を持つ信号が確認できた(図(A)-(C)を参照)。また、水平成層地盤構造モデルを仮定した周期毎の波群の到達時刻との比較から、両者は子細には異なるものの大局的には調和的であり、今回求めたデコンボルーション波形は少なくとも物理的に伝播する波動であると判断でき、いわゆるグリーン関数と見なせる可能性がある。伝播特性の詳細な検討については今後の課題としたいが、デコンボルーション波形から読み取ると最も明瞭な波群(周期は約4秒前後)の伝播速度はRadial成分で約1 km/s程度、Transverse成分で約0.5 km/s程度である。この値は山中ら(2010)の群速度の推定結果や地元・山中(2011)による周期2-6 sにおける群速度のトモグラフィ解析結果(神奈川県を含む東京湾周辺の領域)と調和的である。なお、デコンボルーション波形に関しては、特にRadial成分の信号において負側の時刻よりも正側の時刻の方が大きいことが確認できた。本研究の結果は元木ら(2017)を支持する結果であると判断できる。本研究では直線的な伝播経路を仮定しているが、盆地内では地震波の伝播経路は複雑であり、必ずしも直線的ではないことが指摘されており(e.g. 向井ら, 2018; 上林・関口, 2020)、慎重に検討を進めたい。
今後の展望としては、前述の伝播経路に関する考察の他、理論的なグリーン関数との比較も実施したい。ただし、現時点ではデータ数自体が限定的なため、データ数を増やした検討も行いたい。
謝辞:本研究では首都圏地震観測網(MeSO-net; NIED, 2021)の連続波形を使用しました。作図にはGMT(Wessel and Smith, 1998)を用いました。また、データ処理に際してはサイエンステクノロジー新井啓祐氏にご協力いただきました。ここに記して感謝申し上げます。
本研究では、MeSO-netの複数の観測地点と基準点を設定し、基準点に対する各観測地点のデコンボルーション波形の抽出を試みると共に、伝播に伴う基本的な性質について考察した。 MeSO-netの19地点を選択し、基準点(TKKM)と各観測地点の組み合わせとなる計18ペアを設定し、それぞれのペアで(2つの観測点間で)得られる相互相関関数を推定する。ここではできるだけ歪みの少ない振幅と位相情報を求めるため、地元・山中(2010)を参考にしてコヒーレンスを介したデコンボルーション波形を求めた。先ず、2020年7月20日~8月18日までの約1か月間の連続波形記録を使用し、10分間を1区間としてオーバーラップさせずに先のコヒーレンスを3,900回スタッキングした。次に、スタッキングされたコヒーレンスを逆フーリエ変換してデコンボルーション波形を求めた。この時、2点間を結ぶ測線の方位に合わせて各区間の観測波形を回転させることでRadial成分とTransverse成分を求めた後、相互相関関数を時間領域で計算した。また、考察のため、ペア毎の2つの観測点で得られる水平成層地盤構造モデル(Koketsu et al, 2012)に基づいてRayleigh波とLove波の基本モードの群速度を算出し、代表周期毎に群速度と2点間距離から求まる伝播時間を推定した(2地点それぞれから求まる伝播時間の平均値を使用)。群速度の算出には久田教授の公開プログラム(久田, 1997)を一部修正の上、リコンパイルして使用した。また2-10sの帯域に着目するため、スタッキング終了後のコヒーレンスにバンドパスフィルタを乗じた。
関東平野内の特定の測線で最大100 km程度の長い伝播距離を有する2点間ペアに関して、明瞭な振幅を持つ信号が確認できた(図(A)-(C)を参照)。また、水平成層地盤構造モデルを仮定した周期毎の波群の到達時刻との比較から、両者は子細には異なるものの大局的には調和的であり、今回求めたデコンボルーション波形は少なくとも物理的に伝播する波動であると判断でき、いわゆるグリーン関数と見なせる可能性がある。伝播特性の詳細な検討については今後の課題としたいが、デコンボルーション波形から読み取ると最も明瞭な波群(周期は約4秒前後)の伝播速度はRadial成分で約1 km/s程度、Transverse成分で約0.5 km/s程度である。この値は山中ら(2010)の群速度の推定結果や地元・山中(2011)による周期2-6 sにおける群速度のトモグラフィ解析結果(神奈川県を含む東京湾周辺の領域)と調和的である。なお、デコンボルーション波形に関しては、特にRadial成分の信号において負側の時刻よりも正側の時刻の方が大きいことが確認できた。本研究の結果は元木ら(2017)を支持する結果であると判断できる。本研究では直線的な伝播経路を仮定しているが、盆地内では地震波の伝播経路は複雑であり、必ずしも直線的ではないことが指摘されており(e.g. 向井ら, 2018; 上林・関口, 2020)、慎重に検討を進めたい。
今後の展望としては、前述の伝播経路に関する考察の他、理論的なグリーン関数との比較も実施したい。ただし、現時点ではデータ数自体が限定的なため、データ数を増やした検討も行いたい。
謝辞:本研究では首都圏地震観測網(MeSO-net; NIED, 2021)の連続波形を使用しました。作図にはGMT(Wessel and Smith, 1998)を用いました。また、データ処理に際してはサイエンステクノロジー新井啓祐氏にご協力いただきました。ここに記して感謝申し上げます。