日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S17. 津波

P

2021年10月15日(金) 15:30 〜 17:00 P10会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S17P-01] 地震をトリガーとする地すべりに起因する津波の確率論的評価手法に関する基礎的検討

〇木場 正信1、土屋 悟2、木村 達人3、松山 昌史4、加藤 勝秀5 (1.エングローブコンサルタント、2.ユニック、3.東電設計、4.電力中央研究所、5.中部電力)

1. 検討対象
地すべり発生位置における地震外力(水平加速度)の年超過確率が得られている場合に,沿岸のある地点における津波水位の年超過確率を求めることを目的として,確率論的津波ハザード評価 (PTHA) の方法を検討した.海底で発生する地すべりと,陸上で発生し海域に突入する地すべりをともに対象とし,地すべり運動のタイプは地層中の弱層がすべり面となり移動体がほぼ一体となって移動するslide(並進すべり)及びslump(回転すべり)とした.検討した方法に基づき,­仮想的な地すべりを対象とした数値実験を実施し,地すべり発生確率及び津波水位超過確率への影響を評価した.
2. 地震をトリガーとする地すべり津波の確率論的評価の構造
(1) 基本構造
地震の水平加速度を起点に,地すべりの発生(位置・規模)及び津波の発生・伝播を(2),(3)に示すモデルで関係づける.ただし,各プロセスにおいて前提条件及び解析結果に含まれる不確実さを確率論的に考慮する必要がある.そのために,地すべりのトリガーを特定せず個々の地すべりは固有の規模と繰り返し間隔をもつ前提とした木場・他(2018, 地震学会秋)と同様に,認識論的不確実さをロジックツリーにより,偶然的不確実さを確率分布により表現する.認識論的不確かさは,地すべり運動のタイプや地盤物性等,主に地すべり発生の有無に影響を与える項目と,地すべりの移動速度や水位の評価手法等,津波水位評価に影響を与える項目で構成する(図1).
(2) 地すべり発生の評価方法
多数のすべり面または地盤物性を対象に地すべりの有無を判定する必要があることから,地すべり発生の有無に関しては,2次元断面内の極限平衡法(LEM)による比較的簡易な斜面安定解析により得られるすべり安全率Fsを用いる.地震の最大加速度が与えられた際,地すべり面の位置,寸法(長さ・厚さ)及び地盤物性値(密度・せん断強度)をパラメータとして斜面安定解析を実施する.これらパラメータに不確実さが含まれる場合,パラメータ値を設定範囲内でランダムに変化させるモンテカルロシミュレーション (例えば,鴫原・ Horrillo (2014)*1)を実施し,多数のFsを得る.地すべりが発生するFsの閾値にも不確実さを見込む.これらの結果,地すべりと発生確率が対応づけられる.
(3)
津波の評価方法
地すべり起因の津波の水位を正確に評価できる解析手法は確立されていないという認識のもと,複数の解析手法による水位の差違を沿岸水位の不確実さとして評価に取り込む.解析手法は,以下の3通りを前提としている.①Watts et al. (2005*2; 海底)またはFritz et al.(2004*2; 陸上)による初期水位+平面二次元モデルによる伝播,②Satake(2007,EPS)によるkinematic landslide model (KLS),③二層流モデル(松本・他,1998*3).ただし,多数の解析を必要とすることから,最も簡易な①を基本として計算を実施し,②③との差異は予備的計算により評価し,相田(1977, 震研彙報)による幾何平均K及び幾何標準偏差κを用いて解析手法間の水位の不確実さを考慮できるものとした.さらに,計算を実施した水位にも解析誤差等による不確実さを見込む.
3. 仮想的な地すべりを対象とした数値実験
仮想的な地すべりを設定し,一連の評価が可能であることを確認するとともに,パラメータや解析手法が発生確率や津波水位に与える影響を評価した.
(1) 地すべり発生確率
海底にすべり面を固定して仮想的な地震外力や地盤物性を与えた場合の修正フェレニウス法によるFsの計算を行った.すべりが生じる限界すべり安全率を1.0とした場合と0.15(有意な移動量を生じる閾値; ten Brink et al., 2009*4)とした場合で,地すべりの再来期間に3オーダー程度の極めて有意な違いが生じることが判った.
(2) 津波評価手法間の差違
前述した3手法により陸上及び海底の地すべりに伴う沿岸津波水位を比較した.いずれの地すべりでも手法①③と②の差違が非常に大きくなった(図2).これには②のパラメータのひとつである地すべり移動速度の見積もりが強く影響していることが判った.ここでは自由落下または摩擦を考慮した自由落下の式により速度を設定したが,適切な設定方法については今後の課題である.

謝辞
 本研究は電力11社による原子力リスクセンター共研として実施した成果であることを付記するとともに,土木学会 原子力土木委員会 津波評価小委員会(委員長 高橋智幸関西大学教授)の委員各位に研究成果をご議論頂き,有益なご助言を賜りました.関係各位に謝意を表します.

*1: 土木学会論文集B2 (海岸工学), *2: Journal of Waterway, Port, Coastal, and Ocean Engineering, *3: 海岸工学論文集, *4: Marine Geology, Vol. 264, pp.65-73.