9:39 AM - 9:59 AM
[S20-02] [Invited] Earthquake cycle simulations toward an understanding of earthquake nucleation mechanisms and forecasting
断層面上では、様々なサイズの地震やゆっくりすべり(SSE)を含む多様な時空間スケールのすべり現象が密に分布し、これらのすべり現象の相互作用を通して巨大地震がどのような発生過程を辿るかを調べることは、地震発生予測に繋がる可能性がある。実験できない地震の発生機構を調べるには、数値計算が強力な研究手段である。著者は、巨大地震発生領域近傍の様々な断層すべり活動から巨大地震の発生を予測することを目指して、地震の繰り返しを計算機上で模擬する地震発生サイクルシミュレーション(Earthquake Cycle Simulation; ECS)を行ってきた。本講演では、著者がこれまで行ってきた、ECS計算手法の高度化、地震発生機構の解明とそれに基づく地震発生予測に関する取り組みを紹介する。
1.計算手法の高度化
異なるすべり現象の相互作用を考慮したECS計算の実施には、計算の大規模化が問題であり、現実的な計算コストの新手法開発が必要であった。著者は応用数理分野で提案された密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を導入することにより、ECSの計算時間・メモリ量を離散小断層数Nに対してO(N2)からO(N)〜(NlogN)へと大幅に削減することに成功した (Ohtani et al., 2011)。
また、この大規模ECSに地表面形状を導入する新たな手法の構築を行った。全無限媒質を仮定し、地表面の位置に地表境界条件を満たす仮想的な断層を配置することで、任意の地表面形状下でのすべり応答関数を数値的に求める(Ohtani and Hirahara, 2015)。本手法は上記H行列の適用を妨げず、沈み込み帯の現実的な幾何形状を考慮した大規規模ECSが実施可能である。
2.地震発生機構の解明と地震発生予測
著者はこれまでECSモデルの構築を通して、特に巨大地震とその近傍で発生する長期的SSEとの関係を明らかにし、巨大地震発生予測に繋がる知見が得られないか調べる研究を行なってきた。2011年東北地方太平洋沖地震(M9)に関する研究では、SSEを含む断層すべりの時系列を定性的に説明するモデルを構築し、本震発生に至る過程を調べた(Ohtani et al., 2014)。SSEは地震のサイクル後半に発生するが、M9地震の発生タイミングは震源域内大すべり域の固着状態が最終状態に近いかどうかに強く支配され、SSE発生が巨大地震の前兆現象とは言えない結果となった。本研究はH行列を適用したECSによって初めて実施可能となったものである。
また1946年昭和南海地震で観測された可能性のある顕著な前駆的すべりについて、カットオフ速度以上のすべりで摩擦強化する摩擦則を用いて深部SSEと巨大地震が自発的に発生するECSモデルを構築した。このモデルでは、カットオフ速度の脆性延性遷移域での深さ変化が原因となり深部SSEが巨大化し、巨大地震の発生に至る前駆すべりとなった(Ohtani et al., 2019a)。ここでも、深部巨大SSEは必ずしも直後の地震を誘発するとは限らない結果となったが、網羅的な事例計算に基づき算出した巨大SSE後の地震発生確率は、SSE直後3日間は警報レベルに高いがそれ以後定常載荷レベルに戻ることがわかった。この数字を直接現実に当てはめることはできないが、本研究は地震の物理モデルに依拠した地震発生警報の発出・解除の仕方の一つの方向性を示すものではないかと考えている。
SSEの周期性に注目した研究では、同期現象と呼ばれる非線形物理現象が現れることが見出された(Ohtani et al., 2019b)。近傍の周期的に発生するSSEによって周期的に変化する応力載荷レート下で発生する大地震のタイミングを一自由度モデルで調べたところ、地震の発生間隔が応力載荷のリズムに支配され、地震周期がSSE周期の丁度整数倍に同期する現象(同期現象)が観察された。一定応力載荷レート下では地震発生間隔は摩擦強度に比例するが、周期的応力載荷下では少しの摩擦強度の変化よりも、載荷のリズムが優先される。このような現象が現実でも起きている可能性がある。
1.計算手法の高度化
異なるすべり現象の相互作用を考慮したECS計算の実施には、計算の大規模化が問題であり、現実的な計算コストの新手法開発が必要であった。著者は応用数理分野で提案された密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を導入することにより、ECSの計算時間・メモリ量を離散小断層数Nに対してO(N2)からO(N)〜(NlogN)へと大幅に削減することに成功した (Ohtani et al., 2011)。
また、この大規模ECSに地表面形状を導入する新たな手法の構築を行った。全無限媒質を仮定し、地表面の位置に地表境界条件を満たす仮想的な断層を配置することで、任意の地表面形状下でのすべり応答関数を数値的に求める(Ohtani and Hirahara, 2015)。本手法は上記H行列の適用を妨げず、沈み込み帯の現実的な幾何形状を考慮した大規規模ECSが実施可能である。
2.地震発生機構の解明と地震発生予測
著者はこれまでECSモデルの構築を通して、特に巨大地震とその近傍で発生する長期的SSEとの関係を明らかにし、巨大地震発生予測に繋がる知見が得られないか調べる研究を行なってきた。2011年東北地方太平洋沖地震(M9)に関する研究では、SSEを含む断層すべりの時系列を定性的に説明するモデルを構築し、本震発生に至る過程を調べた(Ohtani et al., 2014)。SSEは地震のサイクル後半に発生するが、M9地震の発生タイミングは震源域内大すべり域の固着状態が最終状態に近いかどうかに強く支配され、SSE発生が巨大地震の前兆現象とは言えない結果となった。本研究はH行列を適用したECSによって初めて実施可能となったものである。
また1946年昭和南海地震で観測された可能性のある顕著な前駆的すべりについて、カットオフ速度以上のすべりで摩擦強化する摩擦則を用いて深部SSEと巨大地震が自発的に発生するECSモデルを構築した。このモデルでは、カットオフ速度の脆性延性遷移域での深さ変化が原因となり深部SSEが巨大化し、巨大地震の発生に至る前駆すべりとなった(Ohtani et al., 2019a)。ここでも、深部巨大SSEは必ずしも直後の地震を誘発するとは限らない結果となったが、網羅的な事例計算に基づき算出した巨大SSE後の地震発生確率は、SSE直後3日間は警報レベルに高いがそれ以後定常載荷レベルに戻ることがわかった。この数字を直接現実に当てはめることはできないが、本研究は地震の物理モデルに依拠した地震発生警報の発出・解除の仕方の一つの方向性を示すものではないかと考えている。
SSEの周期性に注目した研究では、同期現象と呼ばれる非線形物理現象が現れることが見出された(Ohtani et al., 2019b)。近傍の周期的に発生するSSEによって周期的に変化する応力載荷レート下で発生する大地震のタイミングを一自由度モデルで調べたところ、地震の発生間隔が応力載荷のリズムに支配され、地震周期がSSE周期の丁度整数倍に同期する現象(同期現象)が観察された。一定応力載荷レート下では地震発生間隔は摩擦強度に比例するが、周期的応力載荷下では少しの摩擦強度の変化よりも、載荷のリズムが優先される。このような現象が現実でも起きている可能性がある。