日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

特別セッション » S21. 震源物理・地下構造推定・強震動評価のための地震波スペクトル解析

P

2021年10月14日(木) 15:30 〜 17:00 P7会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S21P-01] 自己回帰モデルによるスペクトル解析を用いた地盤増幅率の周波数特性評価の試行

〇鎌谷 紀子1、小木曽 仁1 (1.気象研究所)

1.はじめに
 精度の高い強震動即時予測を実現するためには、予測対象地点のサイト特性を考慮する必要がある。そのサイト特性として、周波数に依存するサイト増幅係数を使用することの有効性が既往研究により示されている(例えばHoshiba (2013)やOgiso et al. (2016))。それらのサイト増幅係数を算出する際に使われているのは高速フーリエ変換(FFT)であるが、FFTでスペクトルを求める場合、分析可能な最低周波数を引き下げるためには時間窓長を延ばす必要があり、短時間のシグナルデータから低周波のスペクトルを算出するのは難しい。また、FFTでは周波数軸で等間隔の分析結果が得られるため、低周波側は疎なデータになる。これに対し、過去のデータを元に将来のデータを予測するために使われる自己回帰(AR)モデルは、モデルの推定の際にスペクトルが得られ、そのスペクトルにはFFTにあるような制限がない。そこで、長周期地震動を含む地震動即時予測の精度向上のため、ARモデルによるスペクトル解析を用いた、地盤増幅率の周波数特性評価を試行した。
2.解析手法
 北海道のKiK-net白糠南(KSRH09)観測点の、地表置き(標高27m)及び地下置き(深度100m)の強震計において観測された加速度データ(計6成分)の、8イベントのP波10秒間及び9イベントのS波20秒間のデータについてARモデルとFFTによるスペクトルを求め、地表と地下のスペクトルの振幅比を算出した(図1)。サンプリングレートは、2002年と2003年のイベントは200Hz、それら以外は100Hzである。ARモデルの係数は、Yule-Walker法で求めた。Yule-Walker法では、あらかじめARモデルの次数を決める必要があるので、最適次数を求めるために次数ごとの赤池情報量規準(AIC)を算出した。そうしたところ、次数が大きいほどAICが小さい傾向を示したこと(図2)や、低次のARモデルによるスペクトルは特に低周波領域で平滑化することから(図3)、取り得る最大次数(解析対象サンプル数―2)をARモデルの次数として用いることにした。なお、高次数のARモデルによるスペクトルは、FFTによるスペクトルと良く似た形状になる。今回の解析ではプログラミング言語pythonを使い、FFTは拡張モジュールNumPyのfft.fft()、AICはStatsmodelsのar_select_order().aic、Yule-Walker法に必要な自己相関はPandasのautocorrを使用して算出した。
3.結果
 解析の結果、KSRH09観測点の地表/地下のスペクトルの振幅比は、ARモデルとFFTで大きな違いはないことや、詳しく見ると以下の傾向があることが分かった(図4)。
・P波(NS成分):ほぼ全ての周波数領域において、ARモデル<FFT
・P波(EW成分):ほぼ全ての周波数領域において、ARモデル≈FFT
・P波(UD成分):ほぼ全ての周波数領域において、ARモデル<FFT。特に低周波領域において顕著。
・S波(NS成分):高周波領域以外では、ARモデル>FFT。特に低周波領域において顕著。
・S波(EW成分):ほぼ全ての周波数領域において、ARモデル≈FFT
・S波(UD成分):ほぼ全ての周波数領域において、ARモデル<FFT
 また、低周波領域において、ARモデルの方がFFTよりもイベントごとのばらつきが大きいように見えた。
4.今後に向けて
 今後は解析対象観測点を増やし、ARモデルによる地表/地下のスペクトル振幅比の持つ性質の検出とその原因の考察を行い、ARモデルのスペクトルが特に低周波領域での地盤増幅特性の評価に有効であるかどうか、検討していく予定である。

[謝辞]
 国立研究開発法人防災科学技術研究所のKiK-netのデータ(防災科学技術研究所、2019)を使用させていただきました。ここに記して感謝いたします。
[参考文献]
Hoshiba M (2013) Real-time correction of frequency-dependent site amplification factors for application to earthquake early warning. Bull Seismol Soc Am 103:3179–3188. doi:10.1785/0120130060
Ogiso M, Aoki S, Hoshiba M (2016) Real‑time seismic intensity prediction using frequency‑dependent site amplification factors. Earth, Planets and Space 68:83. doi:10.1186/s40623-016-0467-4
防災科学技術研究所 (2019) NIED K-NET, KiK-net. doi: 10.17598/nied.0004