11:15 AM - 11:30 AM
[S03-13] Detectability of plate boundary slip at the Nankai trough and the Japan trench
地殻変動観測は、地震の発生サイクルにおける断層すべりや固着状態の把握のために重要な情報を提供する。ひとくちに地殻変動観測といっても、対象とする時間スケールを異にする様々な手法がある。その中でも宇宙測地技術を用いた陸上のGNSS観測や海底のGNSS-A観測は、プレートの沈み込みやブロック運動などによる長期的な変動や地震時の永久変位、地震後の余効変動の把握に有効ほか、近年はスロースリップイベントのような短期の変動も重要なターゲットになってきている。現在、国土地理院GEONETによるGNSS観測網や海上保安庁SGO-AによるGNSS-A観測網などの定常観測によって、南海トラフ及び日本海溝の地殻変動場の詳細が把握され、政府の地震調査委員会等の関連会議における地震・地殻活動の現状評価に役立てられている。
地震の発生サイクルを詳細に把握するためには、各サイクルにおいて地下の断層でどのようなすべりが発生しているかを正確に推定する必要がある。そのため、現状の観測技術・観測網でどこまで微小なシグナルが検出可能かその検出能力を評価することは、得られた観測データの妥当性やそれに基づく政府機関における地殻活動の現状評価、さらには今後の観測網の展開を検討するにあたっての重要な指針となる。水藤(2016)は、GEONETによる日本周辺の海溝におけるプレート境界すべりの検出能力を調査した結果について報告している。震源域となるプレート境界の大部分は海底下にあるため、陸上のGNSS観測のみでは、検出能力が低下する。海上保安庁はその欠点を補うため、日本海溝及び南海トラフ周辺の海底にGNSS-A観測網(SGO-A)を展開しており、Yokota et al. (2021)は、同様の調査をSGO-Aに適用し、海域における検出能力の向上を定量的に示した。
こうした、地表の地殻変動と地下の断層すべりを結びつける解析の際には、Okada(1992)のような地球を均質な半無限弾性体と仮定したモデルによるグリーン関数がよく使われている。こうしたモデルは簡易でありながら、多くの場合に有用な結果を得ることが可能である。一方で、プレート境界型の巨大地震の震源域を対象とする場合、領域が陸上から海底までの広範囲にわたるため、地下構造の不均質性、観測点の標高差、地球の曲率などの効果が無視できなくなると考えられ、半無限均質弾性体モデルが妥当な近似とならないおそれがある。しかしながら、こうした効果を取り入れようとるすと、非常に高い計算コストや複雑な計算が要求され、容易には計算できない。Hori et al. (2021) は、日本海溝及び南海トラフにおいて、これらの効果を考慮したより現実的なモデルによるグリーン関数をあらかじめ計算しライブラリ化した。
このライブラリを用いることで、ユーザーはスーパーコンピュータ等が必要になる複雑な計算と同じ結果を通常のPCで容易に再現可能となる。このグリーン関数ライブラリを用い、Yokota et al. (2021)と同様の検出能力の調査を行った結果、(本原稿執筆時では暫定的な結果ではあるが)陸域からの検出能力が低下する傾向があるなど、半無限均質媒質モデルとの違いが見えてきている。こうした違いは今後の地殻活動の評価にとっても重要であり、詳細な検討が必要である。
謝辞: 本研究では、JAMSTECから提供いただいたHori et al. (2021)のグリーン関数ライブラリを使用しています。記して感謝いたします。
参考文献:
Hori et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01370-y
Okada (1992), BSSA, https://doi.org/10.1785/BSSA0820021018
水藤 (2016), 測地学会誌, https://doi.org/10.11366/sokuchi.62.109
Yokota et al. (2021), PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-021-00453-4
地震の発生サイクルを詳細に把握するためには、各サイクルにおいて地下の断層でどのようなすべりが発生しているかを正確に推定する必要がある。そのため、現状の観測技術・観測網でどこまで微小なシグナルが検出可能かその検出能力を評価することは、得られた観測データの妥当性やそれに基づく政府機関における地殻活動の現状評価、さらには今後の観測網の展開を検討するにあたっての重要な指針となる。水藤(2016)は、GEONETによる日本周辺の海溝におけるプレート境界すべりの検出能力を調査した結果について報告している。震源域となるプレート境界の大部分は海底下にあるため、陸上のGNSS観測のみでは、検出能力が低下する。海上保安庁はその欠点を補うため、日本海溝及び南海トラフ周辺の海底にGNSS-A観測網(SGO-A)を展開しており、Yokota et al. (2021)は、同様の調査をSGO-Aに適用し、海域における検出能力の向上を定量的に示した。
こうした、地表の地殻変動と地下の断層すべりを結びつける解析の際には、Okada(1992)のような地球を均質な半無限弾性体と仮定したモデルによるグリーン関数がよく使われている。こうしたモデルは簡易でありながら、多くの場合に有用な結果を得ることが可能である。一方で、プレート境界型の巨大地震の震源域を対象とする場合、領域が陸上から海底までの広範囲にわたるため、地下構造の不均質性、観測点の標高差、地球の曲率などの効果が無視できなくなると考えられ、半無限均質弾性体モデルが妥当な近似とならないおそれがある。しかしながら、こうした効果を取り入れようとるすと、非常に高い計算コストや複雑な計算が要求され、容易には計算できない。Hori et al. (2021) は、日本海溝及び南海トラフにおいて、これらの効果を考慮したより現実的なモデルによるグリーン関数をあらかじめ計算しライブラリ化した。
このライブラリを用いることで、ユーザーはスーパーコンピュータ等が必要になる複雑な計算と同じ結果を通常のPCで容易に再現可能となる。このグリーン関数ライブラリを用い、Yokota et al. (2021)と同様の検出能力の調査を行った結果、(本原稿執筆時では暫定的な結果ではあるが)陸域からの検出能力が低下する傾向があるなど、半無限均質媒質モデルとの違いが見えてきている。こうした違いは今後の地殻活動の評価にとっても重要であり、詳細な検討が必要である。
謝辞: 本研究では、JAMSTECから提供いただいたHori et al. (2021)のグリーン関数ライブラリを使用しています。記して感謝いたします。
参考文献:
Hori et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01370-y
Okada (1992), BSSA, https://doi.org/10.1785/BSSA0820021018
水藤 (2016), 測地学会誌, https://doi.org/10.11366/sokuchi.62.109
Yokota et al. (2021), PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-021-00453-4