日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-2

2022年10月26日(水) 15:15 〜 16:30 A会場 (1階(かでるホール))

座長:鈴木 岳人(青山学院大学)、中田 令子(東京大学大学院理学系研究科)

16:00 〜 16:15

[S08-36] 豊後SSEの断層摩擦特性・すべり推定の4DVAR数値実験

*大谷 真紀子1、亀 伸樹1、加納 将行2 (1. 東京大学 地震研究所、2. 東北大学)

沈み込み帯プレート境界において、巨大地震発生領域の深部延長では長期的SSE(slow slip event)が発生し、巨大地震発生の誘発可能性に注目が集まる。SSE断層面上のすべりは地殻変動データから運動学的な逆解析によって推定されるが、その後の時空間発展を予測するには断層面の摩擦特性も推定する必要がある。この要請に対して、近年、地殻変動データから断層のすべり速度などのモデル変数と、モデルパラメタである摩擦特性の同時推定を目指したデータ同化研究が行われている。データ同化とは、物理モデルによる数値シミュレーションに実際の観測データを取り入れ、シミュレーションをより尤もらしいものにする方法である。Hirahara & Nishikiori (2019)は西南日本南海トラフ沿いの豊後水道で繰り返し発生する豊後SSEを想定し、データ同化のうち逐次同化手法の一つであるEnKF法を用いたデータ同化数値実験を行い、真値に近い変数・パラメタ値の同時推定に成功した。
 H&N(2019)では一様な摩擦特性のSSEパッチモデルを用いた実験によってEnKFの有効性が示されたが、今後実データへの適用を考える際には断層面の摩擦不均質を考慮する必要が出てくる可能性がある。この対処に際してEnKFでは、物理モデルに従って時間発展する複数の変数・パラメタの組(アンサンブル)によって予報のばらつきを表現するため、計算量が大きくなってしまう問題点がある。これに対して、データ同化のうち4次元変分法(4DVAR)は、得られた時系列データを尤も良く説明する物理モデルの初期値を求める手法で、一般にEnKFよりも計算量が少ない。不均質な断層摩擦を考慮できるモデルに対しては、EnKFよりも4DVARの方が適しているかもしれない。
 加納・他(2018)は、H&N(2019)と同様の一様パッチモデルに対して豊後SSEの4DVARデータ同化数値実験を実施し、模擬地殻変動データをよく再現することに成功した。しかしながら加納・他(2018) ではモデル変数(すべり速度・断層強度)の初期値分布は既知であるとしてパラメタ推定のみを行っており、このままでは実データに適用できない。データ同化において、断層面のすべり速度は地殻変動データの運動学的逆解析の値を初期値として直接利用できるが、断層強度の分布は現在の観測研究からは推定できない未知量だからである。そこで本研究では、すべり速度の初期値は既知とし、SSEの周期性を条件として陽に課すことで、断層強度の推定を行いかつ同時に摩擦パラメタの推定を行う数値実験を行う。本講演ではその推定方法及び推定結果を示す。
 H&N(2019)に倣い、豊後SSEを想定してdip角15度の平坦な断層上に半径35 kmの円形SSEパッチを設定する。SSEパッチは一様な摩擦パラメタ(A, AB, L) = (100 kPa, -50 kPa, 0.04 m)をもつとしてこれを真値(Atrue, ABtrue, Ltrue)とする。このパラメタ値において、断層は物理モデルに従い一定周期でSSEが繰り返す。このとき、豊後SSE断層周囲の実際のGNSS観測点の位置に93点観測点を設定し、SSE一周期分に対応する地表変位速度を切り出し、3 mm/年のガウスノイズを加えたものを模擬観測データ(time = 0—2620日)とした。モデルパラメタA , AB, Lの初期推定値をA/Atrue = 0.75, 1.0, 1.25, (AB)/(AB)true = 0.5, 0.75, 1.0, 1.25, 1.5, L/Ltrue = 0.5, 0.75, 1.0, 1.25, 1.5 のいずれかにとり、断層強度の初期推定値をすべり速度に対する定常状態の値にとって、データ同化を実施した。初期推定値によっては、SSEの周期性を満たすような結果に到達できない場合もあったが、到達したものは総じて実際の断層のすべり速度・観測値をよく説明でき、推定された摩擦パラメタの真値からのずれは15 % 以内であった。図に断層の中心位置でのすべり速度を示す。赤線は真値、灰色線は各初期推定値から同化を行った結果得られたすべり速度の推定値である。Time = 0—2620日のデータ同化期間を超えると、推定値は真値からのずれが大きくなり、図中3回目のSSEピークは真値よりも最大で33日早く現れる結果となった。