日本地震学会2022年度秋季大会

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一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-2

2022年10月26日(水) 15:15 〜 16:30 A会場 (1階(かでるホール))

座長:鈴木 岳人(青山学院大学)、中田 令子(東京大学大学院理学系研究科)

16:15 〜 16:30

[S08-37] BKモデルと熱・流体・空隙相互作用に基づくゆっくり-高速地震遷移の多様性の理解

*鈴木 岳人1、松川 宏1 (1. 青山学院大学理工学部)

天然断層においては、ゆっくり地震を何度か繰り返した後に高速地震が発生する、という振る舞いが見られることがある。このゆっくり・高速遷移がいつ起こるのか、その決定機構を明らかにすることは現在でも重要な問題である。加えて、一度高速地震が起こった後に再びゆっくり地震が起こるのか否か、という点も理解が進んでいない。

ここではゆっくり・高速両地震を統一的に取り扱うため、BKモデルと熱・流体・空隙相互作用を考える。断層岩は多孔質媒質であるので、それを模すために多孔質媒質のブロックと基板からなるBKモデルを考える。滑りは接触している領域の近傍で担われる変形と解釈し、それが起こる領域を滑り帯と呼ぶ。滑り帯は有限の幅を持つとし、その内部で熱・流体・空隙相互作用を考える。動的滑り時において、滑り帯内での空隙生成[摩擦発熱]の効果はそこでの流体圧を減少[増加]させ、摩擦応力を増加[減少]させて滑り速度を減少[増加]させる。従って、ゆっくり地震と高速地震を支配する物理的素過程はそれぞれ空隙生成と摩擦発熱であると解釈できる。なお、動的地震間の期間には空隙の回復も考え、空隙率が減少するとした。

滑り前後のエネルギーバランスを考えることによって、系の振る舞いを支配する関数F(uf)を見出せた。ここでufは一回の地震の滑り量である。F(uf)=0という方程式は複数の正の実数解を持つが、実際の地震に対して実現されるのはその中の最小のものである。本研究ではそれを地震開始時の流体圧p0と空隙率φ0の関数として求めることができた。特に大きいp0及び小さいφ0 の下でゆっくり地震が発生し易いことが示された。p0 とφ0 の値はいくつかの物理的素過程に影響されて決まるが、ここではその中でも空隙回復に着目する。この効果はあるパラメータα1によって支配され、α1が大きいほど空隙が早く回復すると考えて良い。まず無視できるほど小さいα1を仮定すると、ゆっくり地震を繰り返した後に高速地震が繰り返し発生した。最初に高速地震が発生した後には、ゆっくり地震は発生しなかった。これはゆっくり-高速遷移と解釈できる。そしてα1を増加させていくと、ゆっくり地震の繰り返しの後、高速地震が一度発生してから再度ゆっくり地震が繰り返す、という振る舞いが見られた。これはゆっくり-高速-ゆっくり遷移と理解される。2つの遷移を分ける臨界的なα1の値が存在することが示唆される。他の物理的素過程、例えば流体拡散の効果も含めた統一的な遷移の多様性の理解は将来の課題であろう。