日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S17. 津波

[S17P] AM-P

2022年10月24日(月) 09:30 〜 12:00 P-3会場 (10階(1010〜1070会議室))

09:30 〜 12:00

[S17P-02] 南海トラフ地震により発生する津波伝播の多様性に関する検討

*大石 裕介1、新出 孝政1、古村 孝志2 (1. 富士通株式会社、2. 東京大学)

近い将来に高確率で発生が予測されている南海トラフ巨大地震に関して,中央防災会議により最大クラス(Mw9.1)の地震モデルが11ケース提案されており,被害想定や防災計画の基準となっている。一方で,14万平方kmに及ぶ想定震源域における実際の地震発生シナリオはより多様であることが想定され,これにより生じる津波の波高分布や到達時間にも高い多様性が想定される。そのため,より適切な津波対策に向けては,限られた最大クラスケースのみならず,南海トラフ域で発生する可能性のある様々なケースの津波の性質を統計的に理解しておくことが重要である。そこで本研究では,中央防災会議モデルを拡張することで多様な津波波源モデルを生成して津波シミュレーションを実施し,結果の統計的な性質を整理し,南海トラフ域で発生しうる津波に関する包括的な理解を目指す。始めに,中央防災会議モデルによる南海トラフ沿いの約5 km四方の大きさを持つ約5,700の小断層を組み合わせて様々な波源モデルを生成した。波源域の面積は1.6~14万平方kmの範囲で変更し,中央防災会議モデル同様に,南海トラフ沿いの各地の断層滑り量は,プレートの沈み込み速度に比例する設定とした。断層面上の滑り量分布についても,中央防災会議モデルの設定方針に倣い,波源域の背景領域の2倍の滑り量を持つ大滑り域を波源域の12~32%の面積で設定し,さらに背景領域の4倍の滑り量を持つ超大滑り域を波源域の2~9%の面積で海溝軸付近に設定した。なお,超大滑り域についてはある/ない場合の双方について検討した。大滑り域の位置については,波源域内を南北(深さ)方向,東西方向に移動したケースを想定した。以上により,Mw8.19~9.16の744ケースの津波波源モデルを生成した。次にこれらの波源モデルに基づく津波シミュレーションを実施した。ライズタイムは60秒として,断層全体が同時に破壊する設定とした。シミュレーションは解像度810 mで行い,地震により生成される津波の性質を理解するため,土佐湾,大阪湾,伊勢湾,東京湾に向かう湾外の地点における津波の波形について詳細な解析を行なった。各地点における最大波高は,Mwの増加とともにほぼ線形に増大する傾向が得られ,地震規模ごとの最大の津波波高の目安が得られた。また,超大滑り域がないMw9以上の地震による津波の各湾周辺の最大波高は,土佐湾,大阪湾,伊勢湾,東京湾でそれぞれ,2.79~5.13 m,1.40~3.32 m,0.39~0.67 m,1.30~2.73 mであった。同じMw9以上の地震であっても,発生状況の違いによって,津波波高が41.2~57.9%小さくなるケースもあり,津波の多様性が高いことが確認された。さらに,超大滑り域を設定した場合の各湾周辺の最大波高はそれぞれ,5.84 m,4.80 m,1.11 m,3.69 mであり,超大滑り域がない場合に比べ13.9~64.4%の津波波高の増大が確認され,特に伊勢湾での増大が大きかった。津波の波高には,Mwに加え,震源域からの距離の影響が大きいことが考えられる。大滑り域の中心を震央として,各湾周辺の地点と震央との東西距離と津波波高の関係性に着目すると,震央が各湾から遠いほど津波が小さくなる傾向は確認できたものの,距離に対して単調減少ではなかった。特に東京湾周辺の波高は和歌山県沖よりも高知県沖の震央に対してより大きくなる傾向もみられ,陸との反射を繰り返しながら津波が伝播する過程で,津波が効率的に増幅されるケースがあることが影響していた。また,超大滑り域による津波の増強の度合いは局所性が強く,超大滑り域がある場合の震央距離の減少に対する津波波高の増加は,超大滑り域がない場合に比べて大きい結果となった。最大波高の到達時間については,土佐湾沖や大阪湾沖では30分以内にそれぞれ744ケースのうちの51.6%と68.6%が集中し,東京湾沖では2時間から3時間の間に80.2%のケースが集中した。一方で,伊勢湾沖では特定の時間への到達時間の集中は見られず,地震発生から4時間後までに広く分布し,津波到来時間の事前予測の難しさが確認された。