日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] PM-1

2023年11月2日(木) 13:15 〜 14:45 C会場 (F202)

座長:須田 直樹(広島大学)、行竹 洋平(東京大学地震研究所)

14:00 〜 14:15

[S01-09] 浅部超低周波地震の相関法による震央決定

*須田 直樹1 (1. 広島大学)

浅部スロー地震のうち浅部超低周波地震(SVLFE)は遠方の地震観測点でも信号が明瞭に捉えられることから,浅部すべり域拡大のリアルタイムモニタリングに適している。これまでF-netやDONETの記録を用いた南海トラフ域のSVLFEの震源(震央)決定には,アレイ解析 (Asano et al. 2008)やグリッドサーチ (e.g. Asano et al. 2015)が用いられてきた。中でもグリッドサーチはCMT解析を伴うもの(e.g. Nakano et al. 2018),テンプレートマッチングを用いるもの (Asano et al. 2015),グリッドごとの理論波形を用いるもの (Takemura et al. 2019)など様々な手法がある。エンベロープ相関法(e.g. Obara 2002)はこれまで主に微動の震源決定に用いられており,最近ではOBSの記録を用いたSVLFEの震央決定にも用いられている(Tonegawa et al. 2020)。しかし,SVLFEの震源(震央)決定にエンベロープ波形ではなくバンドパス波形を用いた相関法が大規模に用いられた例は無いようである。本研究ではSVLFEのリアルタイムモニタリングの第1段階として,F-netおよびDONETのバンドパス波形に相関法を適用することでイベントの震央を精度よく決定できることを確認したので報告する。

一般に相関法では2つの観測点の波形から求めた相互相関係数が最大となる時間差を走時差データとして扱う。しかし,波形によっては実際の走時差に対して卓越周期以上のずれが生じてしまうことがある。そのため,得られた時間差を走時差データとして扱う際には相互相関係数以外にも条件を設けて選択する必要がある。このことを踏まえた本研究の解析手順は次の通りである:(1) SVLFE発生領域に0.1°間隔で配置した仮想震央グリッドに対して観測点ペアの理論走時差と震央距離差を求める,(2) 20-50秒のバンドパスフィルターをかけた上下動記録から相互相関係数が最大となる時間差を観測点ペアに対して求める,(3) 仮想震央グリッドごとに相互相関係数,理論走時差との差,震央距離の差についてすべての条件を満たすものを走時差データとして選択する,(4) 観測および理論走時差の差のRMSが最小となる震央グリッドを初期震央として選ぶ,(5) 初期震央に伴う走時差データを用いて(4)のRMSを目的関数とする大域的最適化により最終震央を求める。

震央決定精度の確認のため,日向灘のSVLFE発生域にJMA CMT解が得られているイベントに対して今回の方法を適用した。DONETの記録が利用できる2016年4月以降,この領域には6個のイベントが検出されている。使用した観測点数はF-netが27点,DONETが38点である。走時差データの選択条件は次の通りである:(1) 相互相関係数≧0.85,(2) 理論走時差との差の絶対値≦20秒,(3) 震央距離の差の絶対値≦120 km。今回の場合,これらの条件をすべて満たす走時差データは各イベントで100-200個であった。解析の際,表面波の波束の見かけ速度は3.65 km/s,データ長は300秒とした。また大域的最適化にはNEWUOA (Powell 2004)のパッケージを用いた。解析の結果,6個のイベントの震央はJMAのセントロイド震央に対して平均6.9 kmの差で求められた。走時差データの選択条件を(1)のみとすると平均122.7 kmの差となり全く実用にならない。条件(1)+(2)では平均11.0 kmの差となることから,条件(3)も効いていることが分かる。発表では誤差解析および日向灘のSVLFE活動への適用結果も示す。

謝辞:本研究ではF-netおよびDONETの記録を利用しました。防災科学技術研究所および海洋研究開発機構の関係各位に感謝します。