2:30 PM - 2:45 PM
[S01-11] Effects of gravity and density stratification of a fluid over layered non-gravitational solid modeled by the reflecitivity method
竹中・他(2023)は,平らな地球モデル(水平成層構造)を用いて地震波動を計算する際に最も広く利用されている半解析的計算方法であるreflectivity法に重力項(一定の重力加速度)を考慮した海水層を導入することにより,近地の海底下で発生した地震による地震動や海中音波だけでなく津波も含む全波動場を計算できるようにreflectivity法を拡張した。reflectivity法のスキームは,Kennett and Kerry (1979)流の反射行列・透過行列に基づく解法を採用し,波数積分にはBouchon (1981)の離散化波数法(discrete wavenumber summation method)を使用している。本研究では,さらに,海水層として均質ではなく(重力下の圧縮性)密度成層流体が扱えるように拡張した。
我々の定式化のアプローチの特徴は,流体の支配方程式についてもreflectivity法でもともと採用されている固体の基礎方程式の枠組みを基にしている点にある。海水(圧縮性流体)が固体の上に載っており,重力は海水層でのみ考慮する。座標系は通常のreflectivity法と同様に静水圧下の海面をゼロとして鉛直下向きを+z軸(深さ)とするデカルト座標系を採用している。重力下の圧縮性流体の運動方程式(運動量保存の式)は,重力下の固体の運動方程式のせん断応力をゼロにした式で,構成式は等方弾性体の構成式(Hookeの法則)の剛性率をゼロにした式である。流体の密度成層は,(擾乱がない場合の)基本場の密度が深さの指数関数で増大すると仮定(密度スケールハイトを導入)した。これらの流体についての式から鉛直変位と鉛直方向の垂直応力(ラグランジュ的な負の圧力摂動)についての1階の連立常微分方程式が得られる。ここで,ラグランジュ的な(負の)圧力摂動をオイラー的な圧力摂動に変換することにより,Ben-Menahem and Singh (1981) やWatada (2009, 2013)らが大気と海洋で共通の重力下の圧縮性密度成層流体の基礎方程式から導出した式と完全に等価な波数―周波数領域の方程式が得られる。この鉛直変位とオイラー的な負の圧力摂動についてのzに関する1階連立常微分方程式は,密度成層がない均質な流体の場合は,係数行列の固有値・固有ベクトルからAki and Richards (2002)の固体波動場のlayer matrixに相当する流体場のlayer matrixを導出することもできるが,密度成層がある場合はその方法が適用できない。そこで今回は,1階連立常微分方程式から鉛直変位を消去して得られるオイラー的な圧力摂動についての2階階常微分方程式の基本解を用いてlayer matrixを構成した。基本解は,重力を含まない固体のlayer matrixと整合するように選んだ。なお,このオイラー的な圧力摂動が満たすzに関する2階の常微分方程式はBen-Menahem and Singh (1981) で大気海洋共通に用いられた (9.267)式に一致している((9.267)式のz軸は鉛直上向きが正であることに注意)。ここで,さらに,海面,海中,海底における鉛直変位とラグランジュ的な圧力摂動が連続という境界条件に対応するためにmotion-stress vectorのトラクション成分が(オイラー的ではなく)ラグランジュ的な圧力摂動になるようにlayer matrixを変換して重力下の圧縮性密度成層流体についての最終的なlayer matrixを得た。我々のreflectivity法は(propagator matrixではなく)反射・透過係数行列を使って解くスキームを採用しているが,このlayer matrixからpropagator matrixを求めると,Watada (2013)が大気と海洋で共通の重力下の圧縮性密度成層流体の基礎方程式から導出したHaskell matrixと完全に等価な行列が得られる。言い換えると,我々のアプローチは固体の基礎方程式の枠組みを基にしているが,得られた解は流体の基礎方程式から導出されたものと完全に一致することが確認できた。
最終的に得た重力下の圧縮性密度成層流体についてのlayer matrixは,重力のない場合の流体や固体のlayer matrixと整合しており,それから求まる海面,海中,海底の境界面における反射・透過係数の式も重力や密度成層がない場合の式と整合している。反射・透過係数の式にもlayer matrixにもWatada (2013)のHaskell matrixの要素と同様に浮力振動数NやEckart (1960)の係数Γに対応する項が自然に現れている。
今回拡張したreflectivity法による計算では,近地の地震動,海中音波,津波やそれらに伴う任意の場所での変位,速度,加速度,ひずみ,応力または圧力波形を得ることができるが,重力下の圧縮性密度成層流体層についての定式化によって,理論的に重要な結果もいくつか得ることができた。例えば,実際に海底水圧計で測定されている圧力変化は(海底下の固体と連続な)ラグランジュ的な圧力摂動であり,そのpropagator matrixから得られる式に単に非圧縮近似(P波速度無限大)と長波長近似することで,Saito (2019)が線形の水波の理論と津波についての物理的な考察から得た(5.6.9)式を導くことができる。言い換えると,reflectivity法はこのような近似のない完全な海底の圧力変化を与えることができる。また,海底圧力変化の短周期成分についてのDeng et. al. (2022)の(5)または(6)式についても海水層の重力や密度成層の効果を含む全周波数帯域についての対応式から,彼らの式を一挙に俯瞰することができる。これらの理論的な結果は,海底圧力変化記録についての解釈や利用法について新たな知見を与える可能性がある。
この研究の一部は,JSPS科研費基盤(B) 22H01311の補助を受けています。
参考文献
Aki, K., and P. G. Richards (2002). "Quantitative Seismology (2nd edition)." University Science Book, Sausalito.
Ben-Menahem, A., and S. J. Singh (1981). "Seismic Waves and Sources." Springer, New York.
Bouchon, M. (1981). A simple method to calculate Green's functions for elastic layered media. Bulletin of the Seismological Society of America, 71(4), 959-971.
Deng, H., C. An, C. Cai, and H. Ren. (2022). Theoretical solution and applications of ocean bottom pressure induced by seismic waves at high frequencies. Geophysical Research Letters 44(20). Letters, 49, e2021GL096952.
Eckart, C. (1960). "Hydrodynamics of Oceans and Atmospheres." Pergamon, Oxford.
Kennett, B. L. N. and N. J. Kerry (1979). Seismic waves in a stratified half space. Geophysical Journal of the Royal Astronomical Society, 57(3), 557-583.
Saito, T. (2019). "Tsunami Generation and Propagation." Springer, Tokyo.
竹中博士・渡邉禎貢・小松正直・中村武史. (2023). 海水層の重力を考慮したreflectivity法(離散化波数法)による近地の津波を含む全波動計算. SSS07-14, 日本地球惑星科学連合2023年大会(千葉),2023年5月21日.
Watada, S. (2009). Radiation of acoustic and gravity waves and propagation of boundary waves in the stratified fluid from a time-varying bottom boundary, J. Fluid Mech., 627, 361-377.
Watada, S. (2013). Tsunami speed variations in density-stratified compressible global oceans. Geophysical Research Letters 40(15), 4001-4006.
我々の定式化のアプローチの特徴は,流体の支配方程式についてもreflectivity法でもともと採用されている固体の基礎方程式の枠組みを基にしている点にある。海水(圧縮性流体)が固体の上に載っており,重力は海水層でのみ考慮する。座標系は通常のreflectivity法と同様に静水圧下の海面をゼロとして鉛直下向きを+z軸(深さ)とするデカルト座標系を採用している。重力下の圧縮性流体の運動方程式(運動量保存の式)は,重力下の固体の運動方程式のせん断応力をゼロにした式で,構成式は等方弾性体の構成式(Hookeの法則)の剛性率をゼロにした式である。流体の密度成層は,(擾乱がない場合の)基本場の密度が深さの指数関数で増大すると仮定(密度スケールハイトを導入)した。これらの流体についての式から鉛直変位と鉛直方向の垂直応力(ラグランジュ的な負の圧力摂動)についての1階の連立常微分方程式が得られる。ここで,ラグランジュ的な(負の)圧力摂動をオイラー的な圧力摂動に変換することにより,Ben-Menahem and Singh (1981) やWatada (2009, 2013)らが大気と海洋で共通の重力下の圧縮性密度成層流体の基礎方程式から導出した式と完全に等価な波数―周波数領域の方程式が得られる。この鉛直変位とオイラー的な負の圧力摂動についてのzに関する1階連立常微分方程式は,密度成層がない均質な流体の場合は,係数行列の固有値・固有ベクトルからAki and Richards (2002)の固体波動場のlayer matrixに相当する流体場のlayer matrixを導出することもできるが,密度成層がある場合はその方法が適用できない。そこで今回は,1階連立常微分方程式から鉛直変位を消去して得られるオイラー的な圧力摂動についての2階階常微分方程式の基本解を用いてlayer matrixを構成した。基本解は,重力を含まない固体のlayer matrixと整合するように選んだ。なお,このオイラー的な圧力摂動が満たすzに関する2階の常微分方程式はBen-Menahem and Singh (1981) で大気海洋共通に用いられた (9.267)式に一致している((9.267)式のz軸は鉛直上向きが正であることに注意)。ここで,さらに,海面,海中,海底における鉛直変位とラグランジュ的な圧力摂動が連続という境界条件に対応するためにmotion-stress vectorのトラクション成分が(オイラー的ではなく)ラグランジュ的な圧力摂動になるようにlayer matrixを変換して重力下の圧縮性密度成層流体についての最終的なlayer matrixを得た。我々のreflectivity法は(propagator matrixではなく)反射・透過係数行列を使って解くスキームを採用しているが,このlayer matrixからpropagator matrixを求めると,Watada (2013)が大気と海洋で共通の重力下の圧縮性密度成層流体の基礎方程式から導出したHaskell matrixと完全に等価な行列が得られる。言い換えると,我々のアプローチは固体の基礎方程式の枠組みを基にしているが,得られた解は流体の基礎方程式から導出されたものと完全に一致することが確認できた。
最終的に得た重力下の圧縮性密度成層流体についてのlayer matrixは,重力のない場合の流体や固体のlayer matrixと整合しており,それから求まる海面,海中,海底の境界面における反射・透過係数の式も重力や密度成層がない場合の式と整合している。反射・透過係数の式にもlayer matrixにもWatada (2013)のHaskell matrixの要素と同様に浮力振動数NやEckart (1960)の係数Γに対応する項が自然に現れている。
今回拡張したreflectivity法による計算では,近地の地震動,海中音波,津波やそれらに伴う任意の場所での変位,速度,加速度,ひずみ,応力または圧力波形を得ることができるが,重力下の圧縮性密度成層流体層についての定式化によって,理論的に重要な結果もいくつか得ることができた。例えば,実際に海底水圧計で測定されている圧力変化は(海底下の固体と連続な)ラグランジュ的な圧力摂動であり,そのpropagator matrixから得られる式に単に非圧縮近似(P波速度無限大)と長波長近似することで,Saito (2019)が線形の水波の理論と津波についての物理的な考察から得た(5.6.9)式を導くことができる。言い換えると,reflectivity法はこのような近似のない完全な海底の圧力変化を与えることができる。また,海底圧力変化の短周期成分についてのDeng et. al. (2022)の(5)または(6)式についても海水層の重力や密度成層の効果を含む全周波数帯域についての対応式から,彼らの式を一挙に俯瞰することができる。これらの理論的な結果は,海底圧力変化記録についての解釈や利用法について新たな知見を与える可能性がある。
この研究の一部は,JSPS科研費基盤(B) 22H01311の補助を受けています。
参考文献
Aki, K., and P. G. Richards (2002). "Quantitative Seismology (2nd edition)." University Science Book, Sausalito.
Ben-Menahem, A., and S. J. Singh (1981). "Seismic Waves and Sources." Springer, New York.
Bouchon, M. (1981). A simple method to calculate Green's functions for elastic layered media. Bulletin of the Seismological Society of America, 71(4), 959-971.
Deng, H., C. An, C. Cai, and H. Ren. (2022). Theoretical solution and applications of ocean bottom pressure induced by seismic waves at high frequencies. Geophysical Research Letters 44(20). Letters, 49, e2021GL096952.
Eckart, C. (1960). "Hydrodynamics of Oceans and Atmospheres." Pergamon, Oxford.
Kennett, B. L. N. and N. J. Kerry (1979). Seismic waves in a stratified half space. Geophysical Journal of the Royal Astronomical Society, 57(3), 557-583.
Saito, T. (2019). "Tsunami Generation and Propagation." Springer, Tokyo.
竹中博士・渡邉禎貢・小松正直・中村武史. (2023). 海水層の重力を考慮したreflectivity法(離散化波数法)による近地の津波を含む全波動計算. SSS07-14, 日本地球惑星科学連合2023年大会(千葉),2023年5月21日.
Watada, S. (2009). Radiation of acoustic and gravity waves and propagation of boundary waves in the stratified fluid from a time-varying bottom boundary, J. Fluid Mech., 627, 361-377.
Watada, S. (2013). Tsunami speed variations in density-stratified compressible global oceans. Geophysical Research Letters 40(15), 4001-4006.