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[S02-10] DASによる地震観測データのコーダ波到着時刻の自動読み取り手法の開発
1.はじめに 光ファイバーケーブル全体をセンサーとするDAS(分散型音響計測)は,ケーブルに沿って、数m間隔の地震観測を行うことができ、この数年で観測事例が急速に増えており、従来の地震観測がDASに置き換わる可能性もあると指摘されている。DASによる観測は、高密度、多チャンネルであることから、相関の高い後続波が観測され、初動のみならず、後続波を用いることにより、詳細な地下構造の推定が可能であると期待されている。本報告では、DASにより観測されるP波、S波の他に、後続波の到着時刻を自動で読み取るための手法開発を行ったので報告する。 2.データ 東京パワーテクノロジーと白山工業は、新潟工科大学の深井戸に、光干渉法を利用した光センサーを設置し、地震観測を行っており(藤原他、2023)、2022年7月27日―8月4日の期間には、DASを用いた観測も行った。本解析では、DASによる観測データを用いた。DASによる観測の、観測点間隔、ゲージ長、チャンネル数、サンプリング間隔は、それぞれ、3.19m、6.38m,637点、1kHzで、最深点の深さは1977mである。本解析では、気象庁一元化震源による予測震度が、-1.0以上の地震の波形を切り出して用いた。このデータセットには、マグニチュード3.4の能登半島の地震や、マグニチュード5.6の、福島県沖の地震等が含まれている。 3.コーダ波到着時刻の読み取り 堀内他(2019)は、数mから数10m離れた2地点の、観測波形のconvolutionを連続的に計算(以下convolution波形と呼ぶ)すると、到着時刻の読み取りや、地下構造推定に適した記録が得られると指摘している。コーダ波の到着時刻読取りでは、convolution波形に、AGC(Auto Gain Control) フィルターを通したものを用いた。AGCフィルターの振幅が閾値(Cagc)を超えた場合に、その時刻を到着時刻の初期値とし、堀内他(2009)による到着時刻自動読み取り手法を用いて、読み取りを行うようにした。そして、到着時刻前後の、convolution波形のS/N(SNc)と、生波形のそれ(SNr)を計算し、両者が閾値を超えた場合に、解として採用するようにした。採用した閾値は、Cagc=5.0, SNc=3.0, SNr=1.3 である。 4.見かけ速度と到来時刻の推定 図1.に示すように、上述の方法を用いることにより、多数の後続波の到着時刻が読み取られるようになった。地下構造の推定では、これらの、読み取りデータを用いて、顕著で、空間的に連続性のあるコーダ波の見かけ速度と、オフセット時刻を求める必要がある。図1. に示されているように、空間的に連続性のあるコーダ波は、多数存在することから、個々の波群について、それに対応する到着時刻を自動的に選び、見かけ速度と、オフセット時間を計算する必要がある。そこで、以下の方法で、これらを求めるようにした。k番目のコーダ波群のi観測点の到着時刻Pkiと,理論走時Tkiとの差Ekiを、 Eki=Pki-(Tk + Hi/Vk) (1) と置く。Hiはi観測点の深さである。 Sc=Σexp( –Eki2/c2)) (2) として、Scが最大となるオフセット時刻Tk と、見掛け速度Vkを数値的に求めるようにした。(2)式のEkiがcに比べ大きい場合は、expの値が小さくなり、(2)式の最大値は、特定の見掛け速度と、オフセット時間に一致する読み取りデータを用いて、解を求めることに対応している。コーダ波群は多数存在することから、解が求められたら、その解を満足するPkiを削除し、再度、(2)式を最大とする解を求め、これを繰り返すことにより、全ての波群についての、解を求めるようにした。図1に示す直線は、求められた解をプロットしたものである。 (2)式のCの値は、経験的に0.1秒を与えた。 3.で示した方法で、コーダ波の読み取りは行えるが、波形相関を用いると、更に、高精度の読み取りが可能である。そこで、(2)式で求められた、複数の見掛け速度と、オフセット時間を満足する時刻の波形を切り出し、数10m間隔毎に、センブランスを計算し、自動読み取りデータの修正を行うようにした(図1)。 5.結論 堀内他(2019)によるconvolution 波形を用いて、DASで観測されるコーダ波の到着時刻を自動で読み取るための手法開発を行い、精度の高い読み取りが行えることが示された。波形相関を用いて、読み取りデータを修正することにより、コーダ波の到着時刻データが、詳細な地下構造推定に利用可能になると期待される。 謝辞:本研究での地震観測は、新潟工科大学の深井戸を使わせて頂きました。