10:00 〜 10:15
[S03-01] SARによる地殻変動解析で明らかにされた2023年トルコ・シリア地震の断層破壊の詳細
1.はじめに
2023年2月6日01時17分(UTC),トルコでMw7.7の地震が発生した.その約9時間後には,本震の北で,Mw7.6の地震が発生した.本発表では,ALOS-2衛星の緊急観測データによるSAR干渉解析で得られた両地震の地殻変動の詳細とそれらから推定した断層モデルについて報告する.また,得られた断層モデルを基に,今回の地震で放出されたエネルギーと前回の大地震以降蓄積されたエネルギーの収支を比較し、各断層セグメントの地震発生サイクルに関する議論を試みる.
2.データと解析
本研究では,Lバンド合成開口レーダー衛星であるALOS-2のデータを用いた.本解析では,軌道番号path77(南行軌道・右観測)及びpath184(北向軌道・右観測)のScanSARモード観測によるデータの干渉処理により,東西約350㎞にわたる広域の地殻変動を調べた.地殻変動の計測には,標準的なSAR干渉処理に加えて,南北方向の変動を検出するために,MAI法も適用した.最終的には,これら解析により得られた変動を用いて,3方向成分(東西,南北,上下) の変動を算出した. さらに,得られた変動データを用いて,断層面上の滑り分布も推定した.後述するように,得られた変動場からは,断層破壊に相当するとみられる変位の不連続や急変帯が検出された.これらの情報を基にして,走向方向に4km,深さ方向に2kmのサイズの小断層で構成される断層面を設定し,最小二乗法により滑り方向及び滑り量を推定した.各断層の滑りは空間上で滑らかに分布すると仮定して,Laplacian Operatorによるスムージング処理の拘束をかけた.滑らかさを制御する超パラメータはABICにより決定した.
3.結果
東アナトリア断層の西部は,南側及び北側に断層帯が分岐している.解析の結果,Mw7.7及びMw7.6の地震に伴う地殻変動はそれぞれ,南側及び北側の分岐断層帯に沿って分布していることが分かった.南側の分岐断層沿いには,断層運動に相当するとみられる変位の不連続が約350kmの長さにわたり確認できる.不連続は,震源付近から東では走向約N60°Eの方向に伸びる一方,西側ではTürkoğlu付近でその走向を南東方向に変えてAntakya付近で終了している.この分岐断層帯は幾つかの断層セグメントで構成されていることが知られているが,変位不連続の位置から,Erkenek,Pazarcık,Amanosセグメントが破壊されたと推察される.これらセグメントの全てで水平変位が卓越しており,左横ずれ運動と整合的である.一方,Mw7.6の地震を引き起こしたと推定される北側の分岐断層帯では東西約150kmにわたり変位の不連続が確認でき,それらも水平成分が卓越し,左横ずれ運動と整合的である.この変位不連続は,主にÇardakセグメントに沿ってほぼ一直線上に見られるが,東端及び西端でその走向を変えている.Çardakセグメントの東延長部にはSürgüセグメントがErkenekセグメントまで伸びているが,変位不連続はSürgüセグメント上には進まず北東方向に向きを変えほぼ一直線に伸びる.今回の地震でSürgüセグメント上での破壊の進展を示唆する地殻変動は特段認められない.西端では,走向が南東に変わるがその延長上にあるSavrunセグメントにまでは明瞭な不連続は認められない. 滑り分布の結果では,全ての断層面上でほぼ純粋な左横ずれの断層運動が推定された.断層面上の滑りは,両地震の断層とも概ね10km以浅に集中している.東アナトリア断層本体では10m前後の滑り量が推定されている一方,Çardak断層では10mを超える滑りが推定されている. 得られた断層モデルを基に,今回の地震で放出されたエネルギーと前回の大地震以降蓄積されたエネルギーの収支を比較したところ,PazarcıkとErkenekセグメントでは、解放されたエネルギーと蓄積されたエネルギーの収支が一致せず,2023年の地震に相当するすべり量を蓄積するためには、前回の地震と今回の地震の期間より長い年数が必要であることが分かった.このことは2023年の地震が古典的な固有地震モデルを支持しないことを示唆している.過去の地震におけるすべり残りが断層上のカップリングとして歴史的に蓄積され,より長い間隔をかけて巨大地震として放出されるとするスーパーサイクルモデルの考えが本内陸地震に適用できるのかもしれない.
謝辞: これらのデータは,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ(地震WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.本研究はJSPS科研費22K21372の助成を一部受けたものです.
2023年2月6日01時17分(UTC),トルコでMw7.7の地震が発生した.その約9時間後には,本震の北で,Mw7.6の地震が発生した.本発表では,ALOS-2衛星の緊急観測データによるSAR干渉解析で得られた両地震の地殻変動の詳細とそれらから推定した断層モデルについて報告する.また,得られた断層モデルを基に,今回の地震で放出されたエネルギーと前回の大地震以降蓄積されたエネルギーの収支を比較し、各断層セグメントの地震発生サイクルに関する議論を試みる.
2.データと解析
本研究では,Lバンド合成開口レーダー衛星であるALOS-2のデータを用いた.本解析では,軌道番号path77(南行軌道・右観測)及びpath184(北向軌道・右観測)のScanSARモード観測によるデータの干渉処理により,東西約350㎞にわたる広域の地殻変動を調べた.地殻変動の計測には,標準的なSAR干渉処理に加えて,南北方向の変動を検出するために,MAI法も適用した.最終的には,これら解析により得られた変動を用いて,3方向成分(東西,南北,上下) の変動を算出した. さらに,得られた変動データを用いて,断層面上の滑り分布も推定した.後述するように,得られた変動場からは,断層破壊に相当するとみられる変位の不連続や急変帯が検出された.これらの情報を基にして,走向方向に4km,深さ方向に2kmのサイズの小断層で構成される断層面を設定し,最小二乗法により滑り方向及び滑り量を推定した.各断層の滑りは空間上で滑らかに分布すると仮定して,Laplacian Operatorによるスムージング処理の拘束をかけた.滑らかさを制御する超パラメータはABICにより決定した.
3.結果
東アナトリア断層の西部は,南側及び北側に断層帯が分岐している.解析の結果,Mw7.7及びMw7.6の地震に伴う地殻変動はそれぞれ,南側及び北側の分岐断層帯に沿って分布していることが分かった.南側の分岐断層沿いには,断層運動に相当するとみられる変位の不連続が約350kmの長さにわたり確認できる.不連続は,震源付近から東では走向約N60°Eの方向に伸びる一方,西側ではTürkoğlu付近でその走向を南東方向に変えてAntakya付近で終了している.この分岐断層帯は幾つかの断層セグメントで構成されていることが知られているが,変位不連続の位置から,Erkenek,Pazarcık,Amanosセグメントが破壊されたと推察される.これらセグメントの全てで水平変位が卓越しており,左横ずれ運動と整合的である.一方,Mw7.6の地震を引き起こしたと推定される北側の分岐断層帯では東西約150kmにわたり変位の不連続が確認でき,それらも水平成分が卓越し,左横ずれ運動と整合的である.この変位不連続は,主にÇardakセグメントに沿ってほぼ一直線上に見られるが,東端及び西端でその走向を変えている.Çardakセグメントの東延長部にはSürgüセグメントがErkenekセグメントまで伸びているが,変位不連続はSürgüセグメント上には進まず北東方向に向きを変えほぼ一直線に伸びる.今回の地震でSürgüセグメント上での破壊の進展を示唆する地殻変動は特段認められない.西端では,走向が南東に変わるがその延長上にあるSavrunセグメントにまでは明瞭な不連続は認められない. 滑り分布の結果では,全ての断層面上でほぼ純粋な左横ずれの断層運動が推定された.断層面上の滑りは,両地震の断層とも概ね10km以浅に集中している.東アナトリア断層本体では10m前後の滑り量が推定されている一方,Çardak断層では10mを超える滑りが推定されている. 得られた断層モデルを基に,今回の地震で放出されたエネルギーと前回の大地震以降蓄積されたエネルギーの収支を比較したところ,PazarcıkとErkenekセグメントでは、解放されたエネルギーと蓄積されたエネルギーの収支が一致せず,2023年の地震に相当するすべり量を蓄積するためには、前回の地震と今回の地震の期間より長い年数が必要であることが分かった.このことは2023年の地震が古典的な固有地震モデルを支持しないことを示唆している.過去の地震におけるすべり残りが断層上のカップリングとして歴史的に蓄積され,より長い間隔をかけて巨大地震として放出されるとするスーパーサイクルモデルの考えが本内陸地震に適用できるのかもしれない.
謝辞: これらのデータは,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ(地震WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.本研究はJSPS科研費22K21372の助成を一部受けたものです.