日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P6会場 (F201・3側フォワイエ) (アネックスホール)

[S06P-09] スロースリップに伴う排水による地震波異方性の時間変化

*伊藤 陽介1、中島 淳一1 (1. 東京工業大学院)

沈み込み帯において、海洋性プレートからの脱水によって上盤プレートへ水が供給されることが知られている。Nakajima and Uchida (2018)やIto and Nakajima (2023)は、茨城県南西部直下における地震波減衰構造の時間変化とスロースリップ活動の時間変化を比較し、スロースリップの発生に伴うプレート境界から上盤プレートへの繰り返し排水を示唆している。しかしながら、上盤プレート内における水の移動プロセスはよくわかっていない。本研究では、同領域における地震波異方性(S波スプリッティング)の時間変化を推定し、上盤プレート内における水の移動プロセスを考察した。 261個のプレート境界地震に対し、直上に設置されたMeSO-net (Metropolitan Seismic Observation network)の3観測点で収録された加速度波形を解析し、S波スプリッティングを示すパラメータ(φ, dt)を推定した。その結果、最もS/Nの良い観測点において、速いS波の振動方向(φ)は北東40~60°方向を示し、速いS波と遅いS波の到達時刻差(dt)は、0.04〜0.18秒の間でばらつきを示した。さらに、繰り返し地震活動から推定されたプレート境界の平均滑り速度の時間変化とdtの時間変化の定量的な比較を行ったところ、平均滑り速度の増加から0.1~0.2年遅れてdtの増加が見られた。この結果は、先行研究で得られた、プレート境界の平均滑り速度の上昇に応じてプレート境界から水が上盤に放出され、直上の地震波減衰構造が増加するという解釈と概ね整合的であった。本研究の結果とモデル計算を比較することで、対象領域におけるフラクチャーサイズおよびフラクチャー密度の時間変化を推定することができるかもしれない (Chapman, 2003; Maultzsch et al., 2003)。





引用元: Chapman, M. (2003). Frequency‐dependent anisotropy due to meso‐scale fractures in the presence of equant porosity. Geophysical prospecting, 51(5), 369-379. Ito, Y., & Nakajima, J. (2023). Temporal Variations in and Above a Megathrust Following Episodic Slow‐Slip Events. Geophysical Research Letters, 50(14), e2023GL103577. Maultzsch, S., Chapman, M., Liu, E., & Li, X. Y. (2003). Modelling frequency‐dependent seismic anisotropy in fluid‐saturated rock with aligned fractures: implication of fracture size estimation from anisotropic measurements. Geophysical Prospecting, 51(5), 381-392. Nakajima, J., & Uchida, N. (2018). Repeated drainage from megathrusts during episodic slow slip. Nature Geoscience, 11(5), 351-356.