日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] PM-1

2023年11月2日(木) 13:15 〜 14:45 D会場 (F204)

座長:久家 慶子(京都大学)、森重 学(東京大学地震研究所)

13:45 〜 14:00

[S07-03] 日本海北部におけるマントル遷移層底部の二重地震波速度不連続面

*久家 慶子1 (1. 京都大学大学院理学研究科地球物理学教室)

マントル遷移層の底部は、マントルを主に構成するオリビン系鉱物の相変化で生じていると考えられる660km地震波速度不連続面によって位置付けられている。一方、場所によって、深さ660km周辺には複数の地震波速度の不連続面が存在することが、変換波などの地震波解析から、マリアナ諸島やトンガ・フィジー諸島などの沈み込み帯(例えば、Tibi et al., GRL 2007; Zang et al., GRL 2006)とともに、沈み込み帯以外の地域(Andrews and Deuss, JGR 2008)で指摘されている。複数の660km地震波速度不連続面の存在は、マントル内のオリビン以外の鉱物の存在やそれらの相転移に関係しうる。そのため、複数の660km不連続面の特性や空間的な広がりは、その原因を究明する鍵となるだけでなく、オリビン以外の鉱物の種類や分布などを拘束するデータになる可能性もある。

中国北東部では、マントル遷移層底部付近に少なくとも2つの地震波速度不連続面があることが、先行研究のレシーバ関数解析で示されている(Niu and Kawakatsu, JPE 1996; Sun et al., EPSL 2020)。本研究では、その東に位置する日本海北部下の深さ660 km付近で屈折する地震波を用いて、マントル遷移層底部の2つの地震波速度不連続面の存在について調べる。本内容は久家(地震学会2022)を発展したものである。本研究では、日本の地震計で観測されたサハリン周辺の深発地震のデータを使用する。これらの観測点では、一次元地球モデルiasp91から660km不連続によるP波のtriplicationの出現が予想され、その予想と調和的に、660km不連続に起因すると思われるP波のtriplicationが観測される。さらに特筆すべきは、660km不連続によるP波のtriplicationのあとに、みかけ速度のはやい地震波が、特に上下動にみられることである。この地震波は、iasp91から計算される理論波形には存在しない。この地震波が観測される場所は、特定の地域に限られない。また、アレイ解析から相対スローネスを推定した結果でも、当該地震波は深部から伝播してきた波にみえる。660km不連続直下を伝播したと考えられる観測P波がiasp91の予想に比べて弱いことも考慮し、iasp91の660km不連続の一部を、もう一つの不連続として50km深くにおいたモデルを仮定すると、その理論波形は観測された地震波の特徴とより調和的になり、2つの地震波速度不連続の存在が観測を説明することを示唆する。先行研究の結果も踏まえると、2つの660km不連続が、スタグナントしている太平洋プレートの東端から海溝側に向かって広く存在しているかもしれない。

謝辞:本研究では、防災科学技術研究所MOWLAS(F-netおよびHi-net)のデータを使用している。記して感謝する。