[S08P-21] すべり開始位置を制御するために断層面に設置するガウジパッチの形状と生じる応力分布
大型二軸岩石摩擦実験では断層ガウジによって断層面が不均質となり,震源核の広がりに伴う前震が生じる(McLaskey and Kilgore, 2013; Yamashita et al., 2021).前震の震源やマグニチュードは通常アコースティック・エミッション(AE)の波形記録などから推定される(McLaskey and Kilgore, 2014).しかし,岩石試料の速度構造の不均質やAEセンサーの応答特性のばらつきによって震源パラメータには推定誤差が生じ,またその推定値を実験後に検証することも難しい.そこで,あらかじめ断層面に円形のガウジパッチを設置し,震源の位置や形状,応力状態を制約することで前震発生のメカニズムをより精緻に推定可能とすることを目的とし,本研究では再現性の高いガウジパッチの作成手法の確立,およびガウジパッチの形状計測とパッチ上の圧力計測を行った. 本研究で用いるガウジは,スティックスリップによって自然に生じる断層ガウジを模擬するために,摩擦実験で用いる岩石試料と同じ種類の岩石(変はんれい岩)を粉砕したものを用いた.ガウジの粒径分布は,D10=1.41µm, D50=8.23µm, D90=23.98µm,である.このガウジを目開き100µmのふるいと円定規を用いて直径25mm,高さ47mmの円柱型岩石試料に設置した.ガウジパッチの表面粗さを一様にするために,ガウジを設置後にプラスチックシートでガウジを岩石試料に押しつけた.ガウジパッチが円形クラックとしてふるまった場合にコーナー周波数が300kHz程度となることを想定してパッチの直径は8mmとした. レーザー変位計(LT-9010M,KEYENCE,分解能0.01μm)を用いた表面形状計測の結果,岩石試料表面からのガウジパッチの高さは平均25µm,最大250µmとなった.また,表面形状の空間スペクトルはフォン・カルマン型パワースペクトル密度関数でモデル化できた.これらの情報はガウジパッチの再現性を確認する上で有用である一方で,実際に垂直応力を加えた後の表面形状は未知であることに留意する必要がある. 次に,圧力測定フィルム(プレスケール LW・MW,富士フイルム株式会社)を用いてガウジパッチを設置した岩石試料に垂直応力を載荷した際の応力分布を計測した.載荷応力は実際のスティックスリップ実験と同条件の2MPaと4MPaとした.また,ガウジパッチの再現性を確認するために,それぞれのケースについてガウジパッチを複数回作成して計測を行った.圧力測定フィルムの発色濃度を専用ソフトウェア(プレスケール モバイル,富士フイルム株式会社)で読み取り,ガウジパッチ上の圧力分布を得た.載荷応力が2MPaのケースでは,5回分の計測のうちパッチ内の平均応力が3.8-4.5MPa,最大応力が5.8-6.5MPaの範囲でガウジパッチを複数回作成することができた.また.載荷応力が4MPaのケースは,3回分の計測でパッチ内の平均応力が13.6-15.1MPa, 最大応力が19.3-23.0MPaであった.どちらのケースでも,震源核サイズや亀裂の破壊エネルギーを議論する上で十分な精度でガウジパッチを再現できたと考えられる.今後,大型二軸摩擦実験において,本研究で示した手法で配置したガウジパッチを震源とする前震が生じた場合,AE波形を用いた震源パラメータ推定の検証や,前震の発生メカニズムの解明に貢献できると期待される.