日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] PM-2

2023年11月1日(水) 15:15 〜 16:45 A会場 (F205+206)

座長:汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、馬場 慧(海洋研究開発機構)

15:15 〜 15:30

[S09-03] 分布型音響センシングによる津軽海峡周辺のリアルタイム地震観測

*馬場 慧1、荒木 英一郎1、横引 貴史1、川真田 桂2、内山 敬介2、吉塚 卓史2 (1. 海洋研究開発機構、2. 電源開発株式会社)

巨大地震の震源域は海域に存在することが多いため、海域で地震観測を行い、その活動をモニタリングすることは重要である。しかし、海域は陸域と比較すると定常的な観測点が少ないため、地震の検出能力や震源決定の解像度は低いと考えられる。近年、光ファイバーケーブルに沿って歪または歪速度の時間変化を計測する分布型音響センシング(DAS)という技術が、空間的に密な観測が可能であるという利点を活かし、地震学において広く使われるようになっている。既存の海底光ファイバーケーブルを使ったDAS観測を行うことによって、ケーブル近傍の海域の地震活動を詳細に観測し、リアルタイムでモニタリングできる。本研究では、DASによる地震検知能力の評価、DASデータに基づく震源決定、DASの観測する歪速度とマグニチュードの経験的な関係式の導出を目的として、2022年度および2023年度に津軽海峡において、AP Sensing社のモデルを使ったDAS観測を行った。
2022年度は、2022年10月から2023年2月までの約4ヶ月間で連続観測を実施し、1101個のイベントが観測された。そのなかにはケーブル近傍で発生したマグニチュード1未満の地震(最小でマグニチュード0.3)を含むほか、気象庁地震カタログに掲載されていない小さい地震のシグナルも捉えることができており、DASの高い地震検知能力が確認できた。ケーブル近傍の地震について、P波・S波の到達を150 mおきに手動で読み取り、震源決定プログラムhypomh(Hirata and Matsu'ura, 1987)による震源決定を行ったところ、気象庁地震カタログによる震源と数 kmの違いで求まり、DASのデータのみで震源を決定できるポテンシャルがあることが示された。観測された地震について、DASで計測されたS波の最大歪速度振幅・震源・マグニチュードの経験的な関係式を求めたところ、震源距離が1桁大きくなると、S波の最大歪速度振幅は1.8桁小さくなった。この関係式を使うことで、DASで観測されたS波の歪速度から、マグニチュードを推定することができる。また、DASで観測されたS波の最大歪速度振幅と、陸域の観測点で計測された最大加速度振幅を比較したところ、これらの振幅の関係は、平面波を仮定した場合に約710 m/sのS波見かけ速度によって説明できると考えられる。
2023年度は、2023年6月より連続観測を行っている。地震のシグナルの検知能力は2022年度より上がっている傾向があり、理由としては、夏の方が冬よりも波や風によるノイズが小さいことが考えられる。2023年度の観測では、リアルタイムでの地震活動のモニタリングを目指し、地震の自動走時読み取りおよび震源決定を行っている。自動走時読み取りには、深層学習モデルPhaseNet(Zhu and Beroza, 2018)を用い、2022年度に観測された津軽海峡の地震のDASの歪速度波形を学習させている。震源決定には、2022年度と同様に、hypomhを用いている。今後は、震源決定をより高い解像度で行えるよう、自動で読み取られたP波・S波のピックの精度の検証を行なっていく。