[S09P-01] A comprehensive review of shallow slow earthquakes in Nankai
2000年代前半にプレート境界で発生するスロー地震の発見後,プレート境界のすべり特性把握や巨大地震との関連を明らかにすべく,精力的にスロー地震に関する研究が進められてきた.ここでは,深さ10 km以浅で発生するものを浅部スロー地震,深さ30-40 kmで発生するものを深部スロー地震と分類する.主に陸域で発生する深部スロー地震は陸域観測や露頭調査などによる研究が進んでおり,レビュー論文もいくつか出版されている(例えば,Beroza & Ide, 2014; Obara & Kato, 2016; Obara, 2022).一方で,陸から離れた海域で発生する浅部スロー地震については未知な点が多い.本講演では,南海トラフ浅部スロー地震に焦点をあて,浅部スロー地震の分布,活動様式,発生場の特徴について,地震学,測地学,地質学および室内実験の研究成果から概観する.
南海トラフで発生するスロー地震現象に多様性はあるが,日向灘から東海まで深部スロー地震は連続的に分布しているのに対し,浅部スロー地震は日向灘,室戸岬沖〜紀伊水道沖,紀伊半島南東沖に局在している(検知下限に注意しつつ,例えば超低周波地震で見るとBaba et al. 2020).それらは,測地学的に推定されるプレート境界のせん断応力変化のピーク域の周囲に相当し(Noda et al., 2018; Takemura, Noda et al., 2019),浅部スロー地震発生域は周囲と異なる摩擦特性ではないかと期待される.一方で,南海トラフプレート境界に沿って沈み込む物質は,火山灰や粘土鉱物で主に構成されており,これらの物質的特徴は走向方向にあまり変化しない(例えば,Hüpers et al., 2015).さらに,浅部スロー地震が発生する深さでこれらの堆積物の摩擦特性を表す(a-b)は正の値となる(Okuda et al., 2023).すなわち,摩擦特性だけでは浅部スロー地震の局在化を説明するには不十分である. そこで,浅部スロー地震と地下構造の関係について詳細に比べた.
近年,海洋プレート上面形状が詳細に推定され,浅部スロー地震と海山の関係もいくつか提案されている(例えば,Sun et al., 2020; Toh et al., 2020; Baba et al., 2022).しかし,高精度なフィリピン海プレート上面モデル(Nakamura et a., 2022)と浅部スロー地震の分布を比較しても,すべての浅部スロー地震活動が海山と関連しているようには見えず,浅部スロー地震の局在化の原因とはできない.一方で,浅部スロー地震発生域には地震波速度の低速度層がイメージングされており(例えば,Tonegawa et al., 2017; Akuhara et al., 2020),周囲と比べて間隙流体圧が高いことが示唆される.また,浅部スロー地震活動に伴う地下構造変化(Tonegawa et al., 2022)が検知されており,これらは流体の移動と関連していると解釈されている.流体圧の過渡的な変化があると多様なすべり現象を引き起こせることが実験室で確認されており(Faulkner et al., 2018),浅部スロー地震は流体移動現象と密接に関係していると解釈できる.浅部スロー地震の局在化は,走向方向に不均質に分布した間隙流体とその流体圧の過渡的な変動が引き起こしているとまとめられる.
高精度な浅部スロー地震カタログと詳細な地下構造モデルの構築に加え,浅部スロー地震断層付近の流体移動のモニタリングが重要な課題となる.また,日本海溝ではスロー地震発生域が破壊のバリアとして機能した(例えば,Nishikawa et al., 2023)と考えられているが,南海トラフでは海溝軸沿いのコアサンプルにおいて高速と低速破壊の両方の痕跡が見つかっており(Kimura et al., 2022),将来発生する巨大地震ではどのような挙動を示すか,さらなる研究が必要である.
謝辞 本研究は、JSPS科研費21H05201, 21H05202, 21H05205および21H05206の助成により実施されました.
南海トラフで発生するスロー地震現象に多様性はあるが,日向灘から東海まで深部スロー地震は連続的に分布しているのに対し,浅部スロー地震は日向灘,室戸岬沖〜紀伊水道沖,紀伊半島南東沖に局在している(検知下限に注意しつつ,例えば超低周波地震で見るとBaba et al. 2020).それらは,測地学的に推定されるプレート境界のせん断応力変化のピーク域の周囲に相当し(Noda et al., 2018; Takemura, Noda et al., 2019),浅部スロー地震発生域は周囲と異なる摩擦特性ではないかと期待される.一方で,南海トラフプレート境界に沿って沈み込む物質は,火山灰や粘土鉱物で主に構成されており,これらの物質的特徴は走向方向にあまり変化しない(例えば,Hüpers et al., 2015).さらに,浅部スロー地震が発生する深さでこれらの堆積物の摩擦特性を表す(a-b)は正の値となる(Okuda et al., 2023).すなわち,摩擦特性だけでは浅部スロー地震の局在化を説明するには不十分である. そこで,浅部スロー地震と地下構造の関係について詳細に比べた.
近年,海洋プレート上面形状が詳細に推定され,浅部スロー地震と海山の関係もいくつか提案されている(例えば,Sun et al., 2020; Toh et al., 2020; Baba et al., 2022).しかし,高精度なフィリピン海プレート上面モデル(Nakamura et a., 2022)と浅部スロー地震の分布を比較しても,すべての浅部スロー地震活動が海山と関連しているようには見えず,浅部スロー地震の局在化の原因とはできない.一方で,浅部スロー地震発生域には地震波速度の低速度層がイメージングされており(例えば,Tonegawa et al., 2017; Akuhara et al., 2020),周囲と比べて間隙流体圧が高いことが示唆される.また,浅部スロー地震活動に伴う地下構造変化(Tonegawa et al., 2022)が検知されており,これらは流体の移動と関連していると解釈されている.流体圧の過渡的な変化があると多様なすべり現象を引き起こせることが実験室で確認されており(Faulkner et al., 2018),浅部スロー地震は流体移動現象と密接に関係していると解釈できる.浅部スロー地震の局在化は,走向方向に不均質に分布した間隙流体とその流体圧の過渡的な変動が引き起こしているとまとめられる.
高精度な浅部スロー地震カタログと詳細な地下構造モデルの構築に加え,浅部スロー地震断層付近の流体移動のモニタリングが重要な課題となる.また,日本海溝ではスロー地震発生域が破壊のバリアとして機能した(例えば,Nishikawa et al., 2023)と考えられているが,南海トラフでは海溝軸沿いのコアサンプルにおいて高速と低速破壊の両方の痕跡が見つかっており(Kimura et al., 2022),将来発生する巨大地震ではどのような挙動を示すか,さらなる研究が必要である.
謝辞 本研究は、JSPS科研費21H05201, 21H05202, 21H05205および21H05206の助成により実施されました.