日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P1会場 (F205・6側フォワイエ) (アネックスホール)

[S09P-08] 熊野灘におけるテクトニック微動の分布と伝播に見られる特徴:海底臨時観測網およびDONETによる知見

*悪原 岳1、山下 裕亮2、杉岡 裕子3、Farazi Atikul Haque2、大柳 修慧2、伊藤 喜宏2、荒木 英一郎4、利根川 貴志4、辻 健1、東 龍介5、日野 亮太5、望月 公廣1、武村 俊介1、山田 知朗1、篠原 雅尚1 (1. 東京大学、2. 京都大学、3. 神戸大学、4. 海洋研究開発機構、5. 東北大学)

テクトニック微動の分布を正確に把握することは,スロー地震の発生メカニズムのよりよい理解につながると期待される.西南日本沈み込み帯の中央に位置する熊野灘は,海底ケーブル地震観測網(DONET1および2)が稼働しているうえ,構造探査の豊富な実績があり,スロー地震活動に影響を及ぼす地下構造の要因を調査するための絶好の研究対象域となっている.この利点をさらに活用するために,2019年9月から2021年6月にかけて,DONET1と2の間の領域に15台の海底地震計(OBS)を設置し,自然地震観測を行った.この観測期間中,2020年12月6日に大規模なスロー地震活動が発生した.一連の活動はDONET1の範囲内で始まり,南西方向に伝播し,OBSが設置された領域へと到達した.Akuhara et al. (2023, preprint in EarthArXiv)は,これらのOBSとDONETのデータに対してベイジアンインバージョン手法を適用し,テクトニック微動の震源決定および誤差推定を行った.
 本発表では,このようにして求められた震源分布やマイグレーションに見られる特徴を紹介する.テクトニック微動はおおむね,アウターリッジよりも海溝側の海底地形が比較的平坦な部分で発生し,海溝軸に沿ってほぼ一定の幅を持つ震源域を形成する.発生域の東端では例外的に幅が狭くなっている.この微動非活動域は,2004年の紀伊半島南東沖地震の余震域とよく対応する.ただし,テクトニック微動はプレート境界で起きていると考えられる一方で,余震はスラブ内で起こっており,この対応関係の原因は明らかではない.
 テクトニック微動の震源はおおまかに東部・中部・西部の3つのクラスターに分かれて分布する.東部と中部のクラスター間は約5 km離れており,中部と西部のクラスター間は約10 km 離れている.このうち,西部のクラスターの領域では,少なくとも2004年以降,テクトニック微動の活動が確認されていない.一連の微動活動は,東部クラスターの北東端,沈み込んだ海嶺の近くで始まり,西方に伝播して中部クラスター域へと達した.興味深いことに,伝播フロントが東部―中部クラスター間の微動非活動域に到達すると,伝播速度が見かけ上増加するように見えている.この西方への伝播はその後も継続し,西部クラスターへと到達する.ここでも,クラスター間の微動空白域において,伝播速度の見かけ上の増加が確認された.これら伝播速度の増加と微動非活動域の対応は,プレート境界面上の局所的な不均質構造に起因する可能性が考えられ,詳細な調査が待たれる.本地域における充実した構造探査モデルと,高精度に決定された微動活動を併せることで,スロー地震活動に影響を及ぼす地下構造の要因が明らかになると期待される.