[S15P-20] 時間領域の経験的地盤特性を利用した地震基盤波の推定
地盤特性は,地表付近の地盤構造によって特徴付けられ,硬質地盤では揺れの振幅は小さく継続時間は短いが,軟弱地盤では振幅は大きく揺れの継続時間は長い,という特性を有する。そのため,強震動予測を高精度で実施するためには,地盤特性の振幅特性(振幅の大きさ)と位相特性(継続時間)を定量的に評価・抽出する必要がある。赤澤・他(2009)は,ウェーブレット解析を利用し,複数の地震観測記録の地震動特性を時間領域で評価することで,地盤特性の時刻歴特性(非定常地盤特性)を定量的に抽出することができる経験的手法を提案した。同手法により抽出された非定常地盤特性は,振幅に対して周波数に依存した平均的な経時特性(包絡形状)を,位相に対して利用地震動記録に共通したコヒーレントな特性を有する。本検討では,非定常地盤特性と観測された地震動記録を利用して,地震基盤波(地震基盤での地震動)の推定を試みる。
非定常地盤特性は,対象地点直下の地震基盤からインパルス波が入射した時の,対象地点での応答として定義される。Akazwa and Irikura(2016),赤澤・入倉(2018)は,この特徴を利用し,強震動シミュレーション手法の高精度化を目的として,非定常地盤特性を導入した統計的グリーン関数法を提案した。そして,提案手法を2011年東北地方太平洋沖地震に適用し,観測された地震動記録が適切に再現されることを示した。同手法では,統計的グリーン関数法を利用して計算された地震基盤波と非定常地盤特性を重畳することで,表層での地震動が計算される。本検討では,このプロセスを踏まえ,表層で観測された地震動記録を同地点の非定常地盤特性で逆重畳することで,地震基盤波を推定する。逆重畳には,地震動記録のフーリエスペクトルを非定常地盤特性のフーリエスペクトルで除する方法を利用する。
本検討では,防災科研の強震観測網K-NETの強震観測点であるKMM008観測点で得られた地震動記録を利用して,上記手法の有効性を検証する。非定常地盤特性は,地震動記録から震源特性と伝播経路特性の影響を除去することで抽出される。これら2特性については, 2016年熊本地震および一連の地震活動による地震動記録に対するスペクトルインバージョン解析(染井・他(2019))により分離された震源スペクトルと伝播経路のQ値を,それぞれ理論式でモデル化して使用する。この方法によりKMM008観測点を対象に抽出された非定常地盤特性の振幅特性は,スペクトルインバージョンにより分離された地盤増幅特性と整合することを確認した。また,非定常地盤特性を小地震に適用することで,KMM008観測点の地震動記録が適切に再現されることも確認した。一方,本検討で提案した方法に沿って地震基盤波の推定を試みた結果,無視できない程度に大きなノイズによる振動を含む波形が得られた。これは,フーリエスペクトルの変動が大きく,分母である非定常地盤特性のスペクトルが落ち込む周波数が存在することで,逆重畳において本来の特性とは異なる特性が現れたことによると考えられる。この問題を解決するために,ウォーターレベル法を利用してノイズの軽減を試みた。非定常地盤特性のスペクトルの谷を切り上げる下限値は,計算される地震基盤波が大きく歪まない範囲で設定した。この方法を利用することで,ノイズがある程度軽減されることが確認された。
参考文献: 赤澤・他(2009),日本建築学会構造系論文集,638,611-618. 赤澤・入倉(2018),第15回日本地震工学シンポジウム,PS2-02-07. 染井・他(2019),日本地震工学会論文集,19.6,6_42-6_54. Akazwa and Irikura(2016), ESG5, P115A.
非定常地盤特性は,対象地点直下の地震基盤からインパルス波が入射した時の,対象地点での応答として定義される。Akazwa and Irikura(2016),赤澤・入倉(2018)は,この特徴を利用し,強震動シミュレーション手法の高精度化を目的として,非定常地盤特性を導入した統計的グリーン関数法を提案した。そして,提案手法を2011年東北地方太平洋沖地震に適用し,観測された地震動記録が適切に再現されることを示した。同手法では,統計的グリーン関数法を利用して計算された地震基盤波と非定常地盤特性を重畳することで,表層での地震動が計算される。本検討では,このプロセスを踏まえ,表層で観測された地震動記録を同地点の非定常地盤特性で逆重畳することで,地震基盤波を推定する。逆重畳には,地震動記録のフーリエスペクトルを非定常地盤特性のフーリエスペクトルで除する方法を利用する。
本検討では,防災科研の強震観測網K-NETの強震観測点であるKMM008観測点で得られた地震動記録を利用して,上記手法の有効性を検証する。非定常地盤特性は,地震動記録から震源特性と伝播経路特性の影響を除去することで抽出される。これら2特性については, 2016年熊本地震および一連の地震活動による地震動記録に対するスペクトルインバージョン解析(染井・他(2019))により分離された震源スペクトルと伝播経路のQ値を,それぞれ理論式でモデル化して使用する。この方法によりKMM008観測点を対象に抽出された非定常地盤特性の振幅特性は,スペクトルインバージョンにより分離された地盤増幅特性と整合することを確認した。また,非定常地盤特性を小地震に適用することで,KMM008観測点の地震動記録が適切に再現されることも確認した。一方,本検討で提案した方法に沿って地震基盤波の推定を試みた結果,無視できない程度に大きなノイズによる振動を含む波形が得られた。これは,フーリエスペクトルの変動が大きく,分母である非定常地盤特性のスペクトルが落ち込む周波数が存在することで,逆重畳において本来の特性とは異なる特性が現れたことによると考えられる。この問題を解決するために,ウォーターレベル法を利用してノイズの軽減を試みた。非定常地盤特性のスペクトルの谷を切り上げる下限値は,計算される地震基盤波が大きく歪まない範囲で設定した。この方法を利用することで,ノイズがある程度軽減されることが確認された。
参考文献: 赤澤・他(2009),日本建築学会構造系論文集,638,611-618. 赤澤・入倉(2018),第15回日本地震工学シンポジウム,PS2-02-07. 染井・他(2019),日本地震工学会論文集,19.6,6_42-6_54. Akazwa and Irikura(2016), ESG5, P115A.