日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S17. 津波

[S17] AM-1

2023年11月1日(水) 09:30 〜 10:30 C会場 (F202)

座長:王 宇晨(海洋研究開発機構)、三反畑 修(東京大学地震研究所)

09:45 〜 10:00

[S17-02] 南海トラフ沿い海域と伊豆・小笠原海溝沿い海域を対象とした1605年慶長津波波源モデルの検討

*佐藤 嘉則1、木原 直人2、加藤 勝秀3 (1. (株)ユニック、2. (一財)電力中央研究所、3. 中部電力(株))

1. はじめに
 1605年慶長地震は,日本各地での津波記録は残っているものの地震による被害記録がなく,波源域の特定が困難な地震の一つである.これまで相田(1981)や古村ほか(2010)において南海トラフ沿い海域を波源とする研究や,最近では原田ほか(2013)や文部科学省ほか(2020)において伊豆・小笠原海溝沿い海域を波源とする可能性も指摘されている.本研究では,南海トラフ沿い海域と伊豆・小笠原海溝沿い海域でそれぞれ波源モデルを設定し,同一の津波痕跡データと津波計算条件下で比較を行い,1605年慶長地震における両海域の津波波源の可能性について検討した.
2. 津波痕跡データと津波計算条件
 1605年慶長地震の津波痕跡データは,東北大学災害科学国際研究所の津波痕跡データベースにおける痕跡信頼度A,B,Cのデータを使用した(一部除外地点あり).採用した痕跡地点位置を図1に示す.津波計算条件は,沿岸を最小50m格子とし,波源付近は800mもしくは1600m格子として,非線形長波理論による平面二次元解析とした.波源の初期水位分布は,Mansinha and Smylie(1971)による地殻変動計算結果にTanioka and Satake(1996)の水平地殻変動による鉛直水位変動を考慮し,さらにKajiura(1963)によるフィルターを適用した.
3. 南海トラフ沿い海域の津波波源モデルの検討
 南海トラフ沿い海域のモデルは,内閣府(2012)の断層モデルを使用した.1605年慶長地震は地震の被害記録がないことを踏まえ,津波への寄与の大きい大すべり域の主要な位置を検討するため,東海~南海領域(地震本部2013におけるABCD領域)の浅部(トラフ軸~深さ10km)に限定してすべり量を検討した.同範囲のすべり量を試行錯誤で設定し,相田(1977)によるKおよびκの値が良好となるようにすべり量を調整した.その結果,図1に示すすべり量5m,15m,5m,15m(MW8.65)とした波源モデルで,相田(1977)によるK=0.99およびκ=1.37の結果が得られた(図2を参照).
4. 伊豆・小笠原海溝沿い海域の津波波源モデルの検討
 伊豆・小笠原海溝沿い海域のモデルは,Slab2.0(Hayes et al.,2018)によるプレート境界深度データを用いて,海溝軸~深さ60kmの範囲に約5km四方の小断層を配置した.大すべり域の主要な位置を検討するため,海溝軸方向を図1のとおり9分割,深さ方向を浅部(海溝軸~断層幅100km)と深部(深さ20km~60km)の2パターンとし,すべり量を一律10mとした計18波源による津波解析を行い,相田(1977)によるKおよびκの値が最良となる波源位置を特定した.その結果,波源位置5(北緯30~30.5°付近)の深部の波源が最良となり,文部科学省ほか(2020)の検討結果とも整合した.更なる再現性の向上を目的に,すべり量と海溝軸方向の波源範囲を調整し,図1に示す波源位置5と4の南半分の深部にすべり量15m(MW8.54)とした波源モデルで,相田(1977)によるK=1.06およびκ=1.57の結果が得られた(図2を参照).
5. 考察
 相田(1977)によるKおよびκの値より,1605年慶長津波の波源が,南海トラフ沿い海域もしくは伊豆・小笠原海溝沿い海域であった可能性を否定しない結果といえる.一方,今回検討した2つの波源モデルはいずれも,津波への寄与の大きい大すべり域の主要な位置を検討したものであり,津波への寄与の小さい背景領域を含めた波源域は,さらに深さ方向もしくは海溝軸方向に広がっている可能性がある。
謝辞 本研究は電力10社による原子力リスク研究センター共研として実施した成果であることを付記するとともに,土木学会原子力土木委員会津波評価小委員会(委員長 高橋智幸関西大学教授)の委員各位に研究成果をご議論頂き,有益なご助言を賜りました.