[S17P-02] 環太平洋で発生する津波の顕著後続波の可能性:津波伝播数値計算による試算
背景と目的
津波が発生すると,第一波到達後,長時間が経ってから顕著に高い後続波が観測されることがある.日本の太平洋沿岸に注目すると,2006年千島列島沖の地震(Mw 8.3)では,天皇海山列で散乱された津波が,第一波到達後5時間以上経ってから最大波として観測された(たとえば,気象庁,2006).さらに,遅れ時間が数十時間に及ぶ場合もある.1952年カムチャツカ地震(Mw 9.0)では,第一波到達後約48時間も経過した後に,第一波群の半分程度の振幅の後続波群が観測された.対馬・山本 (2021, 地震学会秋季大会)は,このカムチャツカ事例の後続波は津波伝播数値計算で再現することができ,その成因はチリからの反射波であることを示した.さまざまな沈み込み帯で発生する津波について,こうした顕著後続波が起きる可能性とその成因を明らかにすることは,津波波動特性への理解の深化につながるとともに,リアルタイム監視の一助になることが期待できる.そこで本研究は,環太平洋の沈み込み帯を波源とする津波の数値計算を行い,日本の太平洋沿岸で顕著後続波がみられるかを調べた.
方法
環太平洋の沈み込み帯に沿ってMw 8.7の矩形断層を網羅的に設定し,各断層からの津波伝播を数値計算した.断層位置と幾何形状は,NOAAが遠地津波予測用にプレート境界上に配置した断層群(Gica et al. 2008)を参考に設定し,計198枚の断層を配置した(図1a).断層面積と平均すべり量は,Murotani et al. (2013)の相似則を用いてMw 8.7から見積もった.断層の長さと幅は2:1とした.津波伝播計算については,JAGURS (Baba et al., 2015)を用いて102時間の積分計算を行った.基礎式には非線形長波理論,海底地形はGEBCO2014を1分間隔に間引いたものを採用した.津波計算結果の評価対象地点は,気象庁が津波予測に用いる仮想の沖合観測点(Forecast Point: FP)で,北海道から九州にかけての太平洋岸に沿ったものを用いた.計算津波波形からMRMSエンベロープ(Hayashi et al., 2012)を計算し,グリーンの法則を適用して水深1 m地点の振幅に換算したのち,立ち上がり時刻を揃えて全FPでスタックした.この操作により,断層1枚につきエンベロープ1本が得られ,ここではそれを後続波群の評価に用いた.
結果と議論
千島海溝北部,アリューシャン海溝東部,トンガ・ケルマディック海溝を波源とする場合に,日本の太平洋沿岸で顕著な後続波群がみられた.エンベロープからは,第一波群の発現後にいったん振幅が減少したのち,再び増加に転じる様子が観察でき(図1b-dに例示),他地域を波源とする場合にはこうした傾向はみられない(図1e-gに例示).後続波群の発現タイミングは,千島海溝北部の波源では第一波群の約48時間後(図1b),アリューシャン海溝東部とトンガ・ケルマディック海溝の波源では約30時間後(図1c, 1d)である.後続波群の原因について,千島海溝北部のケースはチリからの反射波であることが示されている(対馬・山本, 2021).一方,アリューシャン海溝東部,トンガ・ケルマディック海溝のケースについては,最大津波高の面的分布において波源から南米にむかう強いエネルギーの帯がみられることから,千島海溝北部のケースと同様に,チリを含む南米からの反射波が成因であることが予想される.今後,南米を海に改変した仮想地形を用いた津波数値計算等により,この後続波群の成因を探っていく.
津波が発生すると,第一波到達後,長時間が経ってから顕著に高い後続波が観測されることがある.日本の太平洋沿岸に注目すると,2006年千島列島沖の地震(Mw 8.3)では,天皇海山列で散乱された津波が,第一波到達後5時間以上経ってから最大波として観測された(たとえば,気象庁,2006).さらに,遅れ時間が数十時間に及ぶ場合もある.1952年カムチャツカ地震(Mw 9.0)では,第一波到達後約48時間も経過した後に,第一波群の半分程度の振幅の後続波群が観測された.対馬・山本 (2021, 地震学会秋季大会)は,このカムチャツカ事例の後続波は津波伝播数値計算で再現することができ,その成因はチリからの反射波であることを示した.さまざまな沈み込み帯で発生する津波について,こうした顕著後続波が起きる可能性とその成因を明らかにすることは,津波波動特性への理解の深化につながるとともに,リアルタイム監視の一助になることが期待できる.そこで本研究は,環太平洋の沈み込み帯を波源とする津波の数値計算を行い,日本の太平洋沿岸で顕著後続波がみられるかを調べた.
方法
環太平洋の沈み込み帯に沿ってMw 8.7の矩形断層を網羅的に設定し,各断層からの津波伝播を数値計算した.断層位置と幾何形状は,NOAAが遠地津波予測用にプレート境界上に配置した断層群(Gica et al. 2008)を参考に設定し,計198枚の断層を配置した(図1a).断層面積と平均すべり量は,Murotani et al. (2013)の相似則を用いてMw 8.7から見積もった.断層の長さと幅は2:1とした.津波伝播計算については,JAGURS (Baba et al., 2015)を用いて102時間の積分計算を行った.基礎式には非線形長波理論,海底地形はGEBCO2014を1分間隔に間引いたものを採用した.津波計算結果の評価対象地点は,気象庁が津波予測に用いる仮想の沖合観測点(Forecast Point: FP)で,北海道から九州にかけての太平洋岸に沿ったものを用いた.計算津波波形からMRMSエンベロープ(Hayashi et al., 2012)を計算し,グリーンの法則を適用して水深1 m地点の振幅に換算したのち,立ち上がり時刻を揃えて全FPでスタックした.この操作により,断層1枚につきエンベロープ1本が得られ,ここではそれを後続波群の評価に用いた.
結果と議論
千島海溝北部,アリューシャン海溝東部,トンガ・ケルマディック海溝を波源とする場合に,日本の太平洋沿岸で顕著な後続波群がみられた.エンベロープからは,第一波群の発現後にいったん振幅が減少したのち,再び増加に転じる様子が観察でき(図1b-dに例示),他地域を波源とする場合にはこうした傾向はみられない(図1e-gに例示).後続波群の発現タイミングは,千島海溝北部の波源では第一波群の約48時間後(図1b),アリューシャン海溝東部とトンガ・ケルマディック海溝の波源では約30時間後(図1c, 1d)である.後続波群の原因について,千島海溝北部のケースはチリからの反射波であることが示されている(対馬・山本, 2021).一方,アリューシャン海溝東部,トンガ・ケルマディック海溝のケースについては,最大津波高の面的分布において波源から南米にむかう強いエネルギーの帯がみられることから,千島海溝北部のケースと同様に,チリを含む南米からの反射波が成因であることが予想される.今後,南米を海に改変した仮想地形を用いた津波数値計算等により,この後続波群の成因を探っていく.