[S17P-04] 津波即時予測システムの高度化と実装
これまで地震・津波観測監視システム(DONET)や日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を用いた津波即時予測システムを用いて、津波の到着時刻、津波高、浸水深分布を即時的に予測するシステムを構築し、和歌山県、三重県、千葉県、中部電力などに導入、運用してきた(Takahashi and Imai, 2022)。このシステムは、海域の複数の観測点で観測された海底水圧値をもとに、その水圧値分布から予測対象地点の津波を即時的に予測するものである。津波発生域近傍に観測点があれば、地震直後の初期津波の段階で検知し、津波の成長ともに浸水域もそれに合わせて浸水エリアが拡大するような動きになる。このシステムでは、津波予測対象域に展開した多くの断層モデルを用いて津波波形を計算してデータベース化し、その中から複数の水圧観測値に近い断層モデルによる津波計算結果を抽出、可視化する。観測データのノイズの特性を把握した上で、リアルタイムデータの一次処理を常時行い、一定の閾値を設定して地震と津波を検知し、観測データの伝播状況から津波の到来方向を特定するなどにより断層モデル群を絞り込むことで、予測精度を確保している。 しかし、海域に展開される観測網は一様ではなく、東海沖など観測体制が不足している海域も存在する。東海地方で予測する場合、DONET海域で津波が発生する場合は予測が可能であるが、東海沖を含む海域で津波が発生した場合は、何らかの情報を利用して断層モデルを絞り込むことが必要になる。津波予測の精度は、観測点の有無やその配置や分布に影響を受ける。そのため、表面ブイによるリアルタイム観測データや、気象庁による緊急地震速報、あるいは、電離圏ホールの推定(鴨川他, 2022)などの情報を入力データとして利用できるように改良した。また、予測した結果の出力についても、サーバのコンソールやクライアントPCだけでなく、モバイル機器でも表示することができ、他のシステムへデジタルデータを伝送することもできる機能を付与した。これらはいずれもシステムの利用者の使い方に依存するため、利用者の運用方法をヒアリングしてからシステムを構築することとなる。また、潮位計や河川水位など、他の観測情報と比較して、予測結果の妥当性を適宜確認できる機能も付与した。 利用者が使いやすく、発災時でのスムーズに利用できるようにするためには、システムをできるだけコンパクトにしてハードウェアに係る経費を圧縮した上で、普段から避難訓練などに利用する運用が望ましい。このシステムでは、特定の断層モデルで計算した津波波形を登録しておけば、その津波が発生した時の予測の状況を再現できる。この機能を用いて、いくつかの基礎自治体では避難訓練を実施している。これによって、津波到着までの猶予時間内にどのような対策が可能であるか、実際に試すことができる。これまで実装を進めつつ、利用者のニーズに合わせて開発、チューニングしてきた詳細について報告する。