[S21P-05] 深層学習を活用した日本列島内陸におけるS波後続波の網羅的検出
多点稠密な基盤的地震観測網が整備され、日々蓄積され続ける大量の観測波形記録の自動処理技術の開発が重要となっている。近年、教師あり深層学習の導入によりP・S波についての検出・検測等の高精度な自動化がほぼ達成されたが、観測波形記録には、直達波以外の位相も含まれている。そのうちの一つに、後続波(地下の顕著な速度コントラストにより直達波が反射あるいは強く散乱され生じる地震波)がある(e.g., 堀・他, 2004)。膨大な地震波形記録に蓄積された後続波の情報を活用することで、その発生源である地下の不均質構造を高い分解能で網羅的に解析することが可能になるが、教師データが存在しない等の理由により後続波処理の自動化はほとんど進んでいない(Ding et al., 2022)。
我々は、明瞭なS波後続波の観測報告がある東北地方北部の森吉山地域の群発地震の観測波形記録から教師データを作成し、畳み込みニューラルネットワークによるS波後続波の自動検出モデルを構築した(雨澤・他, 日本地震学会2022年秋季大会)。本モデルは単一観測点のデータで学習・テストを行ったものであるが、学習に使用した観測点以外のデータに対してもS波後続波を検出可能であることを少量のデータセットを用いて確認している。そこで本研究では,構築したモデルを用いて日本列島内陸域におけるS波後続波の網羅的検出を行い、その観測状況を把握するとともに、モデルの汎用性を検討した。
本研究では,2000年10月から2023年5月に日本列島内陸の深さ15 km以浅で発生した約45万地震(M1.0以上4.0以下)について、気象庁S波検測値が存在する100 Hzサンプリングの観測点における東西・南北動速度波形記録を用いた。これらに対し、S波検測時の0.2秒前から10.24秒間の波形を切り出し、4–32 Hzの帯域通過フィルタをかけた波形をモデルの入力とした。以上の入力に対し、本モデルは0.0–1.0の範囲の実数を出力するが、テスト結果に基づきモデル出力値が0.65以上で、S波後続波検出となるように閾値を設定した。また、検出結果について目視による確認を行った。
これまでにS波後続波が報告されていた奥羽脊梁山脈・茨城北部・日光白根・伊豆半島・箱根・能登半島・紀伊半島・有馬高槻・鳥取西部においては、本研究による自動処理でもS波後続波が検出された。以上に加え、これまでに報告がないと思われる北海道北部・大雪山・群馬北部・長野中部・宮崎・鹿児島・熊本などにおいてもS波後続波が新たに検出された。解析データ数によらずに福島県西部・紀伊半島南部で特に検出数が多く、それぞれ4千個以上のS波後続波が検出された。S波後続波が多く検出された地域は活火山の分布に概ね対応するが、能登半島・紀伊半島・鳥取など必ずしも活火山に近接しない場合もある。また、2008年岩手宮城内陸地震や2000年鳥取県西部地震などM6.5以上の地震の震源近傍でS波後続波が多く検出された。
これまでの研究でS波後続波の発生源として、地殻内流体貯留層の存在が指摘されている(e.g., 堀・他, 2004; Amezawa et al., 2019; Yoshida et al., 2023)。また、地殻内流体が豊富であると考えられる活火山近傍で検出数が多い。以上は、本研究で得られたS波後続波の検出数の空間分布が地殻内流体の多寡を反映している可能性を示唆する。また、内陸大地震の震源近傍でも検出数が多いことは、内陸地震の発生に流体が影響しているという議論(e.g., Hasegawa et al., 2005)とも調和的である。
本研究では、単一観測点のデータのみで学習したモデルを他地域・他観測点に適用した。その結果、日本列島内陸域において概ね良好にS波後続波を検出できていることを確認した。また、これまで未報告のS波後続波を検出することに成功した。一方、S波後続波の波形形状(S波との振幅比・卓越周波数など)が、モデルの学習に用いた森吉山地域のものと同様な場合はモデル出力が高い(0.9以上)が、そうでない場合はやや低くなる(0.3–0.6)ことを確認した。今後、本モデルでより信頼度の高いS波後続波検出を行うにあたり、今回の結果を参考にしつつ教師データを拡充し、モデルのファインチューニングを行って汎化性能の向上を行う必要がある。
謝辞:本研究では、気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・国立大学法人による観測波形記録、気象庁一元化震源カタログ、気象庁による手動検測値を使用しました。本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです。記して感謝いたします。
我々は、明瞭なS波後続波の観測報告がある東北地方北部の森吉山地域の群発地震の観測波形記録から教師データを作成し、畳み込みニューラルネットワークによるS波後続波の自動検出モデルを構築した(雨澤・他, 日本地震学会2022年秋季大会)。本モデルは単一観測点のデータで学習・テストを行ったものであるが、学習に使用した観測点以外のデータに対してもS波後続波を検出可能であることを少量のデータセットを用いて確認している。そこで本研究では,構築したモデルを用いて日本列島内陸域におけるS波後続波の網羅的検出を行い、その観測状況を把握するとともに、モデルの汎用性を検討した。
本研究では,2000年10月から2023年5月に日本列島内陸の深さ15 km以浅で発生した約45万地震(M1.0以上4.0以下)について、気象庁S波検測値が存在する100 Hzサンプリングの観測点における東西・南北動速度波形記録を用いた。これらに対し、S波検測時の0.2秒前から10.24秒間の波形を切り出し、4–32 Hzの帯域通過フィルタをかけた波形をモデルの入力とした。以上の入力に対し、本モデルは0.0–1.0の範囲の実数を出力するが、テスト結果に基づきモデル出力値が0.65以上で、S波後続波検出となるように閾値を設定した。また、検出結果について目視による確認を行った。
これまでにS波後続波が報告されていた奥羽脊梁山脈・茨城北部・日光白根・伊豆半島・箱根・能登半島・紀伊半島・有馬高槻・鳥取西部においては、本研究による自動処理でもS波後続波が検出された。以上に加え、これまでに報告がないと思われる北海道北部・大雪山・群馬北部・長野中部・宮崎・鹿児島・熊本などにおいてもS波後続波が新たに検出された。解析データ数によらずに福島県西部・紀伊半島南部で特に検出数が多く、それぞれ4千個以上のS波後続波が検出された。S波後続波が多く検出された地域は活火山の分布に概ね対応するが、能登半島・紀伊半島・鳥取など必ずしも活火山に近接しない場合もある。また、2008年岩手宮城内陸地震や2000年鳥取県西部地震などM6.5以上の地震の震源近傍でS波後続波が多く検出された。
これまでの研究でS波後続波の発生源として、地殻内流体貯留層の存在が指摘されている(e.g., 堀・他, 2004; Amezawa et al., 2019; Yoshida et al., 2023)。また、地殻内流体が豊富であると考えられる活火山近傍で検出数が多い。以上は、本研究で得られたS波後続波の検出数の空間分布が地殻内流体の多寡を反映している可能性を示唆する。また、内陸大地震の震源近傍でも検出数が多いことは、内陸地震の発生に流体が影響しているという議論(e.g., Hasegawa et al., 2005)とも調和的である。
本研究では、単一観測点のデータのみで学習したモデルを他地域・他観測点に適用した。その結果、日本列島内陸域において概ね良好にS波後続波を検出できていることを確認した。また、これまで未報告のS波後続波を検出することに成功した。一方、S波後続波の波形形状(S波との振幅比・卓越周波数など)が、モデルの学習に用いた森吉山地域のものと同様な場合はモデル出力が高い(0.9以上)が、そうでない場合はやや低くなる(0.3–0.6)ことを確認した。今後、本モデルでより信頼度の高いS波後続波検出を行うにあたり、今回の結果を参考にしつつ教師データを拡充し、モデルのファインチューニングを行って汎化性能の向上を行う必要がある。
謝辞:本研究では、気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・国立大学法人による観測波形記録、気象庁一元化震源カタログ、気象庁による手動検測値を使用しました。本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです。記して感謝いたします。