日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P3会場 (F205・6側フォワイエ) (アネックスホール)

[S21P-08] 深層学習を用いた極性判定では時系列データと画像データのどちらが適しているのか?

*加藤 慎也1、飯尾 能久2、片尾 浩2、澤田 麻沙代2、冨阪 和秀2 (1. 東京大学地震研究所、2. 京都大学防災研究所)

地殻応力場の推定は、テクトニクスや地震発生を理解する上で不可欠である。地殻応力場を推定する一つの手段として、微小地震のメカニズム解を用いる方法がある(Iio et al., 2018; Imanishi et al., 2019)。観測された鉛直成分のP波初動の極性を用いてメカニズム解を推定するが、これまでP波極性は主に人間が手動で決定していた。しかし、稠密地震観測網の展開に伴い、観測点が増加し、P波初動の極性の判定量が増え、全てのデータを人間が処理するのは時間的側面から非効率的になってきた。

近年、地震学における深層学習の応用が増えてきており、P波初動の極性判定を人間と同等の精度で行う深層学習モデルが開発されている(Ross et al., 2018; Hara et al., 2019; Uchide, 2020)。これらのモデルは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用し、極性がUPまたDOWNか(+判別不能か)を分類する。これらのモデルへの入力データは鉛直成分の時系列データ(一次元データ)であり、CNNモデル内での特徴量の取得には1次元フィルタが主に使用されている。

一方、画像分類などが目的のCNNは2次元フィルタを使用するのが一般的である。2次元フィルタは、二次元データ(画像)の特定のピクセルを中心に、その周囲のピクセルの情報を取得する設計になっている。このフィルタを使って画像上をスライドさせることで、ピクセル間の関係やパターンを捉えることができる。そのため、P波初動の振幅の方向を判断する際、UPかDOWNの振幅を判定するためには、直感的に2次元フィルタを使用した方が適しているように思える。実際に、人間は波形を画像として表示してから極性の判断をしている。しかし、先行研究では1次元フィルタが主流であった。

そこで、本研究では、極性判定を目的としたCNNモデルにおいて、一次元フィルタと二次元フィルタのどちらが適しているのかを検証した。具体的には、(1)入力データが時系列データ(1Dデータ)のモデル、(2)入力データが画像データ(2Dデータ)のモデル、及び(3)入力データは1Dであるがモデル内で転置畳み込みを行い2Dデータに変換したモデル、の3つのモデルを作成した。これらのモデルは基本的に入力データの違いを除き、モデル構造に大きな違いはない。使用したデータは、満点地震観測網(三浦・他, 2010; 飯尾 2011; 飯尾・他, 2017)とその周辺の定常観測点や臨時観測点(Hayashida et al., 2020; Iio et al., 2021)から得られた波形で、極性の判定は人手で行われた。モデルの出力はUP, DOWNまたは判定不能の3クラスそれぞれの確率値である。

3つのモデルの検証には次の (1)人間の決定精度との比較と(2)メカニズム解を求めたときの一致率の比較の二つの方法を使用する。(2)のメカニズム解はマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた最適化によって求める。そして、この時、出力確率値によってメカニズム解推定に使用するかどうかの閾値の決定も行なった。

本発表では、3つのモデルを比較し、極性判定に最も適した入力データの形状について議論を行う。