[S21P-15] 市民参加型低コスト地震計ネットワークにおける地震波位相検測のための機械学習モデルの構築
地震大国である我が国では、様々な機関において高密度振動観測網が展開され、各地点での震度の即時計算および効果的な地震速報の発令を可能にしている。しかし、現状では地震計の設置間隔である20 kmより細かい解像度での震度計測は不可能であり、緊急地震速報も約30 km圏内で発生した地震に関しては対処できない。また、近年、都市部では高層ビルやマンションの建設が急速に進んでおり、同じ建物内でも階や柱からの近さにより、被害の現れ方が異なる。つまり、人口が集中する都市部に対し、現行の大域的な震度予測だけでは被害状況の把握と予想には不十分である場合も考えられる。 そこで、本研究では、既存の観測網に加えて一般家庭にも設置できる地震計を提案し、高精度な即時地震動検出の実現を目的とする。この地震観測網はCSN(Citizens Seismic Network)(金, 2016)と称し、神奈川県横浜市の複数箇所に設置を進めている。具体的な作成手順は次のようである。比較的安価に入手が可能であるMEMSセンサー(witmotion)に、小型の演算装置ラズベリーパイを接続し、3成分方向の加速度の逐次データを取得する。次に、このデータから地震を判定するモデルを作成する。最後に、モデルをラズベリーパイで演算可能とし、センサーが受け取った加速度データに対して、即時に地震の判定を行う。 本発表では、上記のうち、地震動の検出モデルの構築に焦点を当てる。センサーデータに対し、古典的な地震検知法であるsta/lta比による地震判定を行ったところ、真の地震だけでなく、その倍以上のノイズを地震として誤判定した。この問題を解決するため本研究では機械学習モデルを使用したアプローチを検討する。位相検出モデルは中村他(2023, 本大会)が性能評価を行なったR2AU-Netを用いた。このモデルは学習に火山地震波形を使用しているため、STEAD(Mousavi,2019)でスクラッチ学習を行い、学習パラメータや学習率、閾値を変化させて最適なモデルを検討した上で、性能評価を行う。また、類似研究であり、台湾の地震動データを学習したARRU(Wu et al.,2019)におけるSTEADでの学習結果とも比較する。validデータでの評価において、presicioonはp波,s波検測ともに99.9%を達成し、recallはp波,s波検測ともに99.8%という結果が得られた。ただし、これはピックサンプルの閾値0.5秒、出力確率の閾値0.3として、ARRUと同様の閾値を用いた結果である。閾値を含む学習パラメータの探索および検討が必要である。 さらに、CSNでは学習と検証に使用するデータに十分な量のデータが蓄積されていないので、防災科学技術研究所が運用する強震計ネットワークK-NETから取得したデータを使用する。このデータにはP/S波の情報がないため、機械的または人為的に位相検出したデータが必要である。はじめに、大規模のK-NETデータに対して、ObsPyライブラリのar_pickerメソッドを用いて位相検出したデータを使用して学習モデルで検証したが、低い精度結果となった。これは、ar_pickerモジュールの位相検出がうまくいっていなかったことが原因である。そこで大規模のK-NETデータを使用せずにモデルを構築するため、第一段階の学習には世界中の様々な観測点で取得された大規模検測済みデータSTEAD(Mousavi, 2019)を用いる。作成したモデルは、実際のCSNデータに適用して地震動の検出を試み、その性能を比較検証する。さらにモデルの運用についてラズベリーパイへの実装可能性も含めて検討する。