日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

特別セッション » S23. 大正関東地震から100年:関東地方における地震研究の展開

[S23P] PM-P

2023年10月31日(火) 17:00 〜 18:30 P8会場 (F201・3側フォワイエ) (アネックスホール)

[S23P-03] RD法による今村式2倍強震計の固有周期と減衰定数の推定

*早川 崇1、片岡 修一2、佐藤 俊明3、岡田 敬一1、宮腰 淳一3 (1. 清水建設株式会社 技術研究所、2. 弘前大学、3. 大崎総合研究所)

東京帝国大学構内に設置されていた今村式2倍強震計は1923年関東地震の本震記録を約20分間にわたって記録した.地震動が大きかったため,地震計の振り子が可動範囲を超えて衝突を起こしている.横田・他(1989)は,地震計の自由振動を衝突波形に加えることで衝突を補正し,さらに地震計の振り子応答を除去して約20分間の地動を推定している.推定において,今村式2倍強震計の固有周期と減衰定数が重要であるが,これらの値に十分な確証はない(片岡・他,2023). 建築分野では,建物の固有振動数と減衰定数の推定にthe Random Decrement Technique(以後,RD法)が用いられる(例えば,建築学会,2020).RD法は常時微動や風応答等の比較的長時間安定した外力による建物上部の波形から,建物の自由振動波形(以後,RD波形)を顕在化して振動特性を推定する.今村式2倍強震計の記録のうち,初動から11分経った後は,衝突もなく記録時間も長いためRD法が適用できる可能性がある. 東京江東区越中島にある清水建設技術研究所では,2011年東北地方太平洋沖地震の地震動が20分間記録されている.この長時間記録による一自由度系の応答を計算し,その応答波の後続動部分に対してRD法を適用して,一自由度系の固有振動と減衰定数が再現されるか検討した.その結果,ある程度の精度で再現できたため,RD法は今村式2倍強震計の固有周期と減衰定数の推定に有効であると考えられた. 最後に,今村式2倍強震計の1923年関東地震の記録の後続動部分に対してRD法を適用した.図1にRD波形を示す.RD波形のマイナス側はプラス側に折り返してプロットした.RD波形はきれいに減衰している.このRD波形のパワースペクトルのピーク周期を固有周期Tとした.また減衰定数hは,RD波形のピーク値(図1中●)をexp(-2π/ T・ h・ t)と仮定して,最小二乗法を適用して求めた.暫定値ではあるが,固有振動数と減衰定数はN13W方向ではT=7.7sとh=9.1%,E13N方向ではT=7.8sとh=12.8%と推定された.今後,RD法のウインドウ処理方法等を変えて検討する予定である. 本郷の記録に限らず,貴重な歴史地震記象には地震計の定数が不明なことが多い.RD法はこの様な場合の地震計の振動特性の推定に有効であると考えられる。

1) 横田治彦・片岡俊一・田中貞二・吉沢静代, 1923年関東地震のやや長周期地震動,今村式2倍強震計記録による推定,日本建築学会構造系論文報告集,第401号,pp.35-45, 1989.
2) 片岡俊一,佐藤俊明,岡田敬一,宮腰淳一,早川崇:東京本郷に設置されていた今村式2倍強震計による関東地震の記録復元についての考察,第16回日本地震工学シンポジウム(印刷中)
3) 日本建築学会:建築物の減衰と振動,278p,2020