3:00 PM - 3:15 PM
[S17-13] Probabilistic Tsunami Hazard Assessment for Earthquakes along the Kuril and Japan Trenches
1.はじめに
地震調査委員会は日本列島周辺で発生する海溝型地震の発生領域、地震規模、発生確率等に関する長期評価を公表している。以前に我々は、千島海溝および日本海溝沿いの地震活動の長期評価(地震調査委員会、2017・2019)で発生領域、地震規模、発生確率が評価/言及されている地震を網羅した2海域統合版の確率論的津波ハザード評価(PTHA)について報告した(土肥・他、JpGU2024)(以下、長期評価対応版PTHAと呼ぶ)。今回我々は、長期評価対応版PTHAで設定した地震に加えて、長期評価で評価されていないが科学的に発生し得ると考えられる地震も考慮した、2海域統合PTHA(現時点でのハザード評価)を試算したので報告する。
2.波源断層モデル群の構築
長期評価で設定された千島海溝および日本海溝沿いの地震発生領域に、沈み込む太平洋プレートの三次元形状モデルを用いて、プレート間地震(超巨大地震、プレート間巨大地震、ひとまわり小さいプレート間地震、津波地震)およびプレート内地震(アウターライズ地震、スラブ内地震)の特性化波源断層モデル群を設定した。構築した波源断層モデルはMw6.8からMw9.3までの合計14,870個である。詳細は張・他(本大会)を参照されたい。
3.津波伝播遡上計算
Okada (1992) とTanioka & Satake (1996) の方法を用いて初期水位を計算し、最小50 m計算格子の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過境界条件を設定し、差分法を適用して津波伝播遡上計算を実施した。構築した波源断層モデルすべてに対して、北海道から沖縄県までの海岸(太平洋岸、オホーツク海岸、東シナ海岸等)に設定したハザード評価点(約56万地点)における最大水位上昇量を計算した。詳細は張・他(本大会)を参照されたい。
4.地震発生確率モデル
基本的には長期評価(地震調査委員会、2017・2019)がそれぞれの地震に対して適用した地震発生確率モデルを用いた。この他、対象とする領域における標準的なGR則を仮定し定常ポアソン過程を適用した地震発生確率モデル等も用いた。詳細は村田・他(本大会)を参照されたい。
5.確率論的統合
個々の波源断層モデルから求めた津波に対して、計算誤差等による不確定性を確率モデルによって表現したうえで、各々を確率論的に統合した。具体的には、PTHAの構成単位(海域、地震グループ、震源域、波源断層モデル)ごとに独立事象あるいは排反事象といった統合方法を設定した。詳細は村田・他(本大会)を参照されたい。
6.確率論的津波ハザード評価結果
千島海溝沿いでは特に北海道襟裳岬以東の太平洋岸、日本海溝沿いでは青森県から千葉県にかけての太平洋岸の多くの地点において、ハザードが大きくなる傾向が見られた。一例として、北海道根室市(花咲港)におけるハザードの特徴を述べる。当該地点における最終的なハザードカーブは千島海溝沿いの地震による影響が支配的であり、詳細に再分解すると、より高頻度では根室沖のプレート間巨大地震(Mw7.8~8.7)の影響が最も大きく、より低頻度では千島海溝沿いの超巨大地震(17世紀型)(Mw8.6~9.2)の影響が最も大きくなる特徴が見られた。
本稿では、長期評価対応版PTHAで設定した地震に加えて、長期評価で評価されていないが科学的に発生し得ると考えられる地震も考慮した2海域統合版PTHA(現時点でのハザード評価)について報告した。今後、長期間での平均的なハザード評価を実施するとともに、2海域以外で発生する地震も考慮したハザード評価についても検討したい。
謝辞:本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施した。
参考:本稿の2・3章の詳細は「千島海溝および日本海溝沿いの2海域統合確率論的津波ハザード評価:海溝型地震の特性化波源断層モデル群と津波伝播遡上計算結果について」(張・他、本大会)を、4・5章の詳細は「千島海溝および日本海溝沿いの2海域統合確率論的津波ハザード評価:確率設定方法とハザード評価結果について」(村田・他、本大会)を参照されたい。
地震調査委員会は日本列島周辺で発生する海溝型地震の発生領域、地震規模、発生確率等に関する長期評価を公表している。以前に我々は、千島海溝および日本海溝沿いの地震活動の長期評価(地震調査委員会、2017・2019)で発生領域、地震規模、発生確率が評価/言及されている地震を網羅した2海域統合版の確率論的津波ハザード評価(PTHA)について報告した(土肥・他、JpGU2024)(以下、長期評価対応版PTHAと呼ぶ)。今回我々は、長期評価対応版PTHAで設定した地震に加えて、長期評価で評価されていないが科学的に発生し得ると考えられる地震も考慮した、2海域統合PTHA(現時点でのハザード評価)を試算したので報告する。
2.波源断層モデル群の構築
長期評価で設定された千島海溝および日本海溝沿いの地震発生領域に、沈み込む太平洋プレートの三次元形状モデルを用いて、プレート間地震(超巨大地震、プレート間巨大地震、ひとまわり小さいプレート間地震、津波地震)およびプレート内地震(アウターライズ地震、スラブ内地震)の特性化波源断層モデル群を設定した。構築した波源断層モデルはMw6.8からMw9.3までの合計14,870個である。詳細は張・他(本大会)を参照されたい。
3.津波伝播遡上計算
Okada (1992) とTanioka & Satake (1996) の方法を用いて初期水位を計算し、最小50 m計算格子の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過境界条件を設定し、差分法を適用して津波伝播遡上計算を実施した。構築した波源断層モデルすべてに対して、北海道から沖縄県までの海岸(太平洋岸、オホーツク海岸、東シナ海岸等)に設定したハザード評価点(約56万地点)における最大水位上昇量を計算した。詳細は張・他(本大会)を参照されたい。
4.地震発生確率モデル
基本的には長期評価(地震調査委員会、2017・2019)がそれぞれの地震に対して適用した地震発生確率モデルを用いた。この他、対象とする領域における標準的なGR則を仮定し定常ポアソン過程を適用した地震発生確率モデル等も用いた。詳細は村田・他(本大会)を参照されたい。
5.確率論的統合
個々の波源断層モデルから求めた津波に対して、計算誤差等による不確定性を確率モデルによって表現したうえで、各々を確率論的に統合した。具体的には、PTHAの構成単位(海域、地震グループ、震源域、波源断層モデル)ごとに独立事象あるいは排反事象といった統合方法を設定した。詳細は村田・他(本大会)を参照されたい。
6.確率論的津波ハザード評価結果
千島海溝沿いでは特に北海道襟裳岬以東の太平洋岸、日本海溝沿いでは青森県から千葉県にかけての太平洋岸の多くの地点において、ハザードが大きくなる傾向が見られた。一例として、北海道根室市(花咲港)におけるハザードの特徴を述べる。当該地点における最終的なハザードカーブは千島海溝沿いの地震による影響が支配的であり、詳細に再分解すると、より高頻度では根室沖のプレート間巨大地震(Mw7.8~8.7)の影響が最も大きく、より低頻度では千島海溝沿いの超巨大地震(17世紀型)(Mw8.6~9.2)の影響が最も大きくなる特徴が見られた。
本稿では、長期評価対応版PTHAで設定した地震に加えて、長期評価で評価されていないが科学的に発生し得ると考えられる地震も考慮した2海域統合版PTHA(現時点でのハザード評価)について報告した。今後、長期間での平均的なハザード評価を実施するとともに、2海域以外で発生する地震も考慮したハザード評価についても検討したい。
謝辞:本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施した。
参考:本稿の2・3章の詳細は「千島海溝および日本海溝沿いの2海域統合確率論的津波ハザード評価:海溝型地震の特性化波源断層モデル群と津波伝播遡上計算結果について」(張・他、本大会)を、4・5章の詳細は「千島海溝および日本海溝沿いの2海域統合確率論的津波ハザード評価:確率設定方法とハザード評価結果について」(村田・他、本大会)を参照されたい。