日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW26_1PM1] 都市域の地下水・環境地質

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 424 (4F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、浅田 素之(清水建設株式会社)、滝沢 智(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)、鈴木 弘明(日本工営株式会社 中央研究所 総合技術開発部)、座長:安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、滝沢 智(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)

14:45 〜 15:00

[AHW26-03] 都市の浅層地下水中の硫酸イオンの起源に関する同位体的研究ー東京,石神井川流域を例としてー

*安原 正也1林 武司2中村 高志3稲村 明彦1浅井 和由4 (1.産業技術総合研究所、2.秋田大学、3.山梨大学、4.地球科学研究所)

キーワード:都市の地下水, 東京都区部, 浅層地下水, 硫酸イオン, 硫黄同位体

武蔵野台地上を東西方向にのびる石神井川の流域では,浅層(自由)地下水の硫酸イオン濃度は全調査地点の約30%において30mg/L以上と高濃度であり,またその分布には7 - 135mg/Lと著しい地域性が認められる.安原ほか(2013)では,都市化が進行した同流域の浅層地下水の水質形成機構解明研究の一環として硫酸イオンに注目し,その起源について予察を行った.引き続き,今回は硫黄安定同位体(δ34S)の測定地点数を増やし,また硝酸イオンの窒素(δ15N)・酸素(δ18O)同位体データ(中村ほか,2013;2014)も加味して,硫酸イオンの起源についてさらに詳細な検討を行った.その結果を紹介する.同流域の浅層(自由)地下水は,板橋粘土層や渋谷粘土層といった凝灰質粘土層が厚く分布する下流域においては粘土層上位のローム層中に(水位は地表面下数m程度),またこれら粘土層が薄いかもしくは存在しない上流域では武蔵野礫層中に賦存する(水位は地表面下数5 - 10m程度).浅層地下水の硫酸イオン濃度の平均値は北区(35mg/L),板橋区(36mg/L),豊島区(33mg/L),練馬区(21mg/L),西東京市(19mg/L),小平市(28mg/L)と,都市化がより進んだ下流域の北区,板橋区,豊島区で高い値を示す.同様に,δ34S値もこれら下流域において最高値が+10.5‰δ34S(豊島区),+10.6‰δ15N(北区)と上・中流域と比較して相対的に高い値を示す傾向が認められた.都市地下水の涵養源として各地でその重要性が指摘されている水道漏水については,硫酸イオン濃度は20 - 40mg/Lと高いものの,δ34S値については-2.6 - +0.6‰という低い測定結果が得られた.このことから,下流域の浅層地下水中の硫酸イオンの起源としての水道漏水の寄与は全体としては大きくないものと判断される.一方で,化学肥料のδ34S値は-2.7 - +3.5‰(村松ほか,2010;千葉県野田市の下総台地における測定値),また生活排水のδ34S値は+6 - +10‰程度(Vengosh, 2004)とされている.これらの値に基づくと,石神井川流域の下流域の場合,同位体的には化学肥料(中・上流域の農地などで現在使用されている肥料,もしくは土壌中に残留している過去に使用された肥料)と下水がその浅層地下水の硫酸イオンの起源となっている可能性が示唆される.δ34S値からは下水成分の寄与は下流域ほど大きいものと推定されるが,これは並行して測定されたδ15Nの結果とも整合的である.下水には通常高濃度の硫酸イオンが含まれている(東京都区部の下水では最高で55mg/L;産総研未公表データ).下水道管渠の経年変化による老朽化に伴い,管渠の建設時期が古い地域ほど漏水は著しいものと推定される.このように,石神井川流域においても,下水漏水は都市化が早くから進んだその下流域の浅層地下水の水質形成に特に重要な影響を及ぼしているものと考えられる.一方で,特に関東ローム層のように火山灰を起源とする土壌からはパイライト起源の硫酸イオンが大量に溶出している可能性もある.今後はこのようなエンドメンバーも考慮に入れながら,浅層地下水中の硫酸イオンの起源の特定をはじめとする水質形成プロセスの解明を進めてゆきたい.