日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28AM2] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 511 (5F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:高野 淑識(海洋研究開発機構)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、岩田 智也(山梨大学生命環境学部)

11:30 〜 11:45

[MIS21-10] 基底流出時の森林源頭流域の渓流水に含まれる蛍光団含有溶存有機物の起源

*小原 章裕1大手 信人1江草 智弘1徳地 直子2木庭 啓介3山下 洋平4鈴木 雅一1 (1.東京大学大学院農学生命科学研究科、2.京都大学フィールド科学教育研究センター、3.東京農工大学大学院農学研究院、4.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード:蛍光団含有溶存有機物(FDOM), 森林集水域, 渓流水質, 励起-蛍光マトリクス(EEM), parallel factor analysis(PARAFAC)

本研究は渓流水のDOMの大部分を占める腐植物質などの蛍光団含有溶存有機物(Fluorescent DOM ;FDOM)に着目し、基底流出時の渓流水FDOMの起源を同定することを目的として、土壌浸透水・地下水などのFDOMとの組成の比較を行った。 研究対象地は東京大学千葉演習林内の猪ノ川集水域(集水面積503ha)である。2009~2010年と2012年に集水域内の142地点で渓流水と基岩湧水の水試料を採取し、また集水域の最源頭斜面の一つである袋山沢水文試験地(2ha)で土壌水と地下水の水試料を採取した。また、集水域内の気象観測所で降水の水試料を採取した。水試料は0.45mmのメンブレンフィルターでろ過し、DOC濃度の測定と、三次元蛍光スペクトル分析による励起-蛍光マトリクス(Excitation-Emission Matrix ;EEM)の測定を行った。測定した全てのEEMに対してMurphy et al., (2013)に準拠したParallel Factor Analysisを行い、異なる蛍光スペクトルを持つ5つのcomponentに分解した。componentの化学的特徴は既往研究との比較により次のように同定された。C1:フミン酸型腐植物質様、C2:フルボ酸型腐植物質様、C3:微生物由来腐植物質様、C4:トリプトファン型アミノ酸様、C5:チロシン型アミノ酸様。 地下水・基岩湧水は腐植物質様componentであるC1~C3の比率によって「C1優占グループ」「C2優占グループ」「C3優占グループ」に分類された。C1優占グループに属する袋山沢の地下水はDOC濃度が季節的に変動したが、いずれのグループもC1~C3の比率は時間的に比較的安定しており、渓流水FDOMの起源を同定する上でのEnd-Memberとして利用できることが分かった。 渓流水の腐植物質様componentの比率は、各グループの地下水や土壌水と似通っている場合もあったが、それらの混合だけでは説明できない場合も多かった。そのような渓流水は、C3に対してC1とC2の比率が高く、DOC濃度も比較的高いという特徴があることから、渓流内における高等植物由来のDOMの溶脱が強く影響していると考えられた。その起源としては、渓流内に存在するリター・倒流木や堆積物中の有機物が考えられた。また、渓流水の大部分は地下水や土壌浸透水に比べてC5/C4比が低く、C5が検出されない場合も多かったことから、アミノ酸様componentのうちC5は渓流内での生物利用などにより除去されやすいものと考えられた。 本研究により、渓流水のFDOM中の腐植物質の生産は、集水域の斜面部で起こるのみならず、渓流内でも起きているということ、また渓流内で生産された腐植物質は斜面部由来のものとは異なる蛍光スペクトル上の特徴を持つということが示された。